市場に出にくい地元の草花を使用。素朴なフラワーデザインが人気

伊賀焼、萬古(ばんこ)焼といった伝統工芸が盛んな三重県。歴史あるメーカーが新ブランドを立ち上げたり、若手作家が移住していることから、工芸品・雑貨好きから注目を集めています。そのなかから、今回はフラワーデザイナーの柴田佳代子さんをご紹介。

市場には出回りにくい野の花を独自のルートで開拓

アトリエ

 三重県いなべ市。名古屋から車で1時間ほど、花の百名山にも選ばれる藤原岳のふもとに『niche18』という花屋があります。店主はフラワーデザイナーの柴田佳代子さん。切り花がずらりと並ぶ花屋のイメージとは一転、自宅兼アトリエの1室にはどこか親しみのある草花がガラスの花びんに入って並べられています。

柴田佳代子さん
花屋『niche18』の店主、フラワーデザイナーの柴田佳代子さん

 筆者が訪れたワークショップの日は、紫陽花やスイトピーを始め10種類以上の草花が用意されていました。普通の花屋では見かけない珍しい花かと思いきや、ユキノシタ、ニンジン、ノビル、オレガノ、西洋芝など、その名を耳にしたことがあるものばかり。

「花は、自宅の庭で育てたものや友人の畑から採取したものが中心です。どこにどんな草花が咲いているのか頭の中に入っているので、お客さんの要望や雰囲気に合わせて摘みに行きます。地域の方と仲よくなりお花を譲っていただいたり、道路脇に咲く花を手づくりのおやつと交換していただくことも(笑)」(柴田さん)。

 暮らしのなかにある草花は人との繋がりが見えて、人間味さえ感じるのだそう。

ニンジンの花
ニンジンの花は友人の畑から譲っていただいた

「きれいでセンスよく」より「遊び方」を伝えたい

花の水揚げ
その花に合わせた方法で水揚げをするとシャキッとした状態になる

 柴田さんが開催しているのは、生け方のハウツーやデザイン性よりも、花に触れて楽しむことを大切にする、花遊びワークショップ。

「花の楽しみ方に正解も不正解もないんです。気に入った花を思いのままに生けて、自分の心地よさを知ってもえたらいいですね」と、軽やかに花を手に取っていく姿は、まさに遊んでいるかのよう。

花器に合わせてアレンジ
持参した花器に合わせてバランスのコツをアドバイスしてくれる

植物が教えてくれた当たり前のこと

オルラヤ
白い小さな花が可愛いオルラヤは、こぼれ種で庭中に増えた

 花に携わることになった10年前は、バラとガーベラしか知らなかったと言うほど無頓着だった柴田さん。子育てをしながら働くことになった総合園芸専門店で切花部に配属となり、花のことを考える日々が始まります。

「花の名前を覚えるところからスタートして、花ごとに違う水揚げの仕方や葉っぱのあしらい方など必死で覚えました」。そして、2年目から扱うようになった枝モノが植物への興味を深めるきっかけに。

「なにもなかった桜の枝から、葉っぱが出て花が咲く。柳の枝を水に浸けておくと根っこが出る。そんな当たり前のことを目の当たりにしてとても感動したんです。今まで見ていた切り花は、魚でいうところの切り身だったなぁって。」

 花を自分の仕事にしようと決心し、4年後に独立。店舗を持たないフリーランスの花屋として活動をスタートしました。

荒地だった庭を開拓。3年経ち、花と庭がなじむように

ユキノシタ
ユキノシタ。淡いピンク色の繊細な花びらがかわいい

 再婚を機に静岡から夫の住むいなべ市に移住したのは4年前のこと。今でこそ、いろいろな草花が咲き誇る柴田さんの庭ですが、以前は木や草が伸び放題の荒地だったそう。知り合いもいなく、生花を仕入れるツテもないという状況で、柴田さんは「それなら自分で育てよう」と、夫と一緒に荒れていた庭を開拓してさまざまな種をまき、こつこつと育てました。

「育っては枯れての繰り返し。3年経ってようやく草花が庭になじんできたかな」と笑う柴田さん。もちろんお客さんの要望に合わせて市場で仕入れることもあるそうですが、そんなときでも、必ずこの土地で育った旬の花を入れるようにしているのだそう。「いなべの光と風で育った花が1本でも入ると、全体がイキイキしてくるんです」と話してくれました。

 作品はいろいろ。若いご夫婦への新築祝いのアレンジメントのオーダーには、紫陽花、ユーカリ、リューカデドロンなど市場で仕入れたものに加えて、庭のビワをプラスしたスワッグを。

スワッグ
新築祝いのスワッグ

 妻の誕生日プレゼントに、と地元の方からのオーダー。ラナンキュラス、スイトピー、菜の花、レタス、ルッコラ、アーティチョーク、ハーブなどをかごに入れて。知人の農園から仕入れたもので、かごは柴田さんが編んだものだそう。

かごアレンジ
植物を引き立てるかごも柴田さんの手作り

 パン屋さんの開店祝いにつくったミモザがベースのアーチ。店主の顔の高さに花をセットしたそう。

ミモザアーチ
ミモザが華やかで迫力のある装飾

日常を楽しむヒントは、暮らしのなかにある

花積み
草木花が自然とまわりにある環境に

 いなべに移住してからは、植物だけではなく自然の素晴らしさに魅せられる日々。「ここいなべ市は、山が近くて空が広い。そして、水がきれい。視界が開けるような感覚もあり、自然の一部として暮らしているなぁと感じます」。

 庭の様子を見回り、山を散歩し、植物の変化から季節の移ろいを感じる暮らしは素朴で当たり前のことばかり。柴田さんの幸せや楽しみは、そんななかにこそあると言います。

「どこか遠くへ行ったり、特別なことをする必要はないと思うんです」と庭から取ってきたばかりのみずみずしい花を心地よさそうに束ねながら、目の前でその楽しさを見せてくれました。

柴田佳代子(しばたかよこ)
1980年、愛知県生まれ。NFD日本フラワーデザイナー協会公認1級フラワーデザイナー。
『niche18(ニーチェジュウハチ)』主宰。結婚を機に三重県に移住し、自然の草花を使ったワークショップや基礎から学べるフラワーデザインの教室を開催。花束のアレンジメント、ドライフラワーのオーダーは通年で実施。お問い合わせ先 niche18.ymk@gmail.com

<取材・文>西墻幸(ittoDesign)

西墻幸さん
1977年、東京生まれ。三重県桑名市在住。編集者、ライター、デザイナー。ittoDesign(イットデザイン)主宰。東京の出版社で広告業務、女性誌の編集を経てフリーランスに。2006年、夫の地元である桑名市へ移住。ライターとして活動する一方、デザイン事務所を構え、紙媒体の制作や、イベント、カフェのプロデュースも手がける。三重県北部のかわいいものやおいしいものに詳しい。