「自然豊かな土地に移住したのだから、自分で食べる野菜はつくりたい」。そう考える人は多いですが、長続きしないケースも多数。長野県安曇野市で移住相談を行っている山下美鈴さんに、自らの経験を踏まえ失敗しないためのコツを聞きました。
移住先で農業を始めるなら、小さく始めるべき
移住相談を受ける際によく聞くのが「自家消費分の野菜くらいはつくりたい」「自給自足の暮らしがしたい」。いざ移住して「畑を借りました!」とがんばるのですが、「畑地の管理が大変で…」「畑に行く時間がなくて…」「借りた畑が遠くて…」など、さまざまな要因で諦めてしまうが多いのです。「産直に行けばなんでもあるから」とやめてしまう人もいます。
なかには「借りた畑は家の隣」「仕事はしなくていいので時間はたっぷりある」という環境で多くの種類を育て、自家消費しきれないほど収穫している強者もいるのですが(笑)。なので「小さな畑」で「仲間と一緒に」など、「作業が楽になる」「作業が楽しくなる」方法で始めるのがいいかもしれません。
移住仲間と一緒に畑づくりをスタート
安曇野に移住して、ご近所さんや新しくできた友達、農業がやりたいから移住したいとやってきた相談者さんに季節の野菜をいただくようになりました。皆さん自分の畑や庭先で育てているので「収穫においでよ!」と声をかけてくれて、トウモロコシ取りを一緒にさせてもらったり、ジャガイモ・サツマイモ掘りをさせてもらったり、葉物野菜やブドウの収穫、イチジク取り、大根抜き、クリ拾いなど、子どもと一緒にいろいろと体験させていただきました。
そんなおいしい作物を食べると、あまり農作業に興味がなかった私も「自分でなにかつくってみたい」と思うようになりました。
ご近所さんは「畑を貸してあげるから野菜づくりしてみたら?」と言ってくれるのですが、どんな広さであれ、借りるとなると土起こしや、水やり、夏場の雑草抜きなど自分の手に負えるものだろうと悩むばかり。家業の設計事務所の仕事もしなければいけないので手が出せずにいたとき、中古住宅を購入して隣接する畑を借りていると言う移住仲間に出会いました。
東京からの移住者である彼女が「1人ではとてもやりきれない。みんなで大豆を植えてみませんか?」と声をかけてくれたので、真っ先に手を上げ参加させてもらいました。
私のようにおもしろそうだからやりたいという人が4人、自家栽培の野菜を食べたいからと移住してきた夫婦が1組。自家栽培の野菜を食べたいというご夫婦は移住前から何年も安曇野の農業塾に通っていて、いろんなことをよくご存じでした。
1年目は大豆を植えて、みそづくり
発起人の彼女と農業塾に通っていたご夫婦のおかげで1年目は大豆をまき、夏は元気に育つ雑草抜きをし、収穫の時期にはさやから取り出し選別してと忙しかったですが、立派な大豆が収穫できました。収穫した大豆はみそにしようということになり、たりない分は購入し、みんなでみそづくり。家族には「みんなでつくったみそだよー!」と自慢しつつ調理し、おいしくいただきました。
大豆は連作ができないとのことで1年空けたのですが、今年は小豆、鞍掛豆、2種類の大豆を植えました。メンバーも一部入れ替わり、子どもたちも交えてみんなでワイワイと毎回楽しく作業しています。
雨が多い時期、夏場は雑草がすごく伸びますし、水やりも必要です。一応、作業の日は決めますが無理して参加しない、空いた時間に行ける人が行って作業をすることになっています。
とても大変だろうなと感じてなかなか1歩が踏み出せなかった農作業ですが、1人じゃ大変だけどみんなでやると楽しいし作業も楽になるし、とてもよかったと思います。
地元の人に農作業を教わりつつ、食卓に手づくり野菜を
思えば1年目の作業は土が固く石がゴロゴロしていて、道具を使ってもカチンカチンと大きな石に当たって、その都度取り除くのが大変でした。でも、今年はご近所さんが耕運機で耕してくれたおかげで、土はふかふかしていて種まきもとても楽チン。
先日は隣の畑で麦の収穫作業をしていたおじさんが、除草作業をする私たちの鋤簾(じょれん)の使い方を見かねてコンバインから降り「こんなふうにやるんだよ」とお手本を見せてくれました。農作業初心者の私たちは「なるほど、うんうん、そうすればいいんだ!」となれない手つきで作業を続け、わりときれいに除草ができたのです。
小さなところから始めた農作業のまねごとですが、昨夏は家でも楽にできるこんなやり方でピーマンとナスを育ててみました。たくさん収穫はできないけれど自分でつくった野菜が食卓に並ぶとうれしいですよ。
<取材・文/山下美鈴>
山下美鈴さん
建築家の夫と4人の子どものうち3人とともに2011年夏、長野県安曇野市に移住。2020年6月長野県から「信州暮らしパートナー(相談できる先輩移住者)」の委嘱を受け、連携をしている。安曇野地域への移住相談、空家活用サポートなど、地域活性化や人のつながりづくり、まちづくりを行う「ベースキャンプ安曇野」代表。Facebookグループ「信州移住ヨモヤマバナシ」管理人。