漁師めしとあら汁で勝負。地魚がうますぎる女性漁師の食堂が人気

[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第27回:池田モトアナ(山口県)]

全国47都道府県で活躍する女子アナたちがご当地の特産品、グルメ、観光、文化など地方の魅力をお届け。今回は、NHK山口放送局でリポーターを務めていた池田モトアナが、山口県の現役女性漁師が始めた漁師めし食堂を紹介します。

女性漁師が営む食堂で、阿武町の魚のおいしさを伝えたい

道の駅発祥の地と言われる道の駅、阿武町

 山口県北部に位置し、日本海と緑の山々に囲まれた小さな町、阿武郡阿武町(あぶちょう)。そこに「全国道の駅発祥の地」とも言われている「道の駅 阿武町」があります。

 自然の恵みを受けた豊富な海と山の幸が集まってくるこの道の駅。とくに毎朝すぐ近くの漁港から届く魚は新鮮でおいしく、しかも安いので、それを目当てに来られる方も多いそうです。その阿武町の魚のおいしさを多くの方に知ってほしいと、現役女性漁師が道の駅の敷地内で運営している食堂があります。

うぉっちゃ食堂の外観。阿武町の木をふんだんに使っている

 その名も「うぉっちゃ食堂」。2020年12月にオープンしました。店主は現役漁師でもある宮川直子さんです。店の名前は「魚(うお)+山口弁の語尾につける『ちゃ』」、そして見るという意味の英語「watch」からつけたそう。看板の店名が高級魚のクエの骨で書かれていたり、魚市場で使われるトロ箱を再利用してつくった小物があったり、店の随所から漁師らしさを感じられます。

魚はその日のお楽しみ!こだわりの漁師めしセット

阿武町産にこだわった漁師めしセット(この日はイカ丼)

 メニューは基本的には漁師めしセット(海鮮丼+あら汁)のみ。阿武町の魚の味に自信があるからこそ、シンプルな料理で勝負しています。営業時間は通常、正午から売りきれまでですが、連休などに期間限定で夜営業も行っており、刺身や海鮮丼を中心に数種類のメニューが用意されます。

 こだわりは「阿武町産の食材を使うこと」。とくに魚は、宮川さん自ら獲ったものを中心に、朝獲れた新鮮な魚を使うため、海鮮丼の内容も日によって変わります。ときにはマグロなど高級な魚をお得に食べられることもあるそうですよ。

 また、獲れた魚は「野締め」ではなく、より鮮度やおいしさが持続する「神経締め」を船の上で施していることも、おいしさの秘訣です。この日の海鮮丼は、阿武町自慢の夏の名物「ケンサキイカ」がたっぷり乗ったイカ丼。白くすきとおってつやつや、見るからにおいしそうなイカはコリコリの歯ごたえと、噛むほどに感じられるうま味・甘味が、さすがのおいしさ!  あっという間に食べ終わってしまいました。

祖父と一緒に漁に出たいと、阿武町に移住

店主の宮川直子さんと取材した池田アナ

 店主であり現役漁師の宮川直子さん(写真左・右は筆者)は、じつは移住者。阿武町に住み始めたのは3年前の2018年からです。宮川さんは山口県宇部市出身。地元の高等専門学校を卒業後はオーストラリアやニュージーランドでワーキングホリデーをしたり、長野県白馬村でホテル従業員をしながらバックパッカーで30か国を回ったり、世界中を飛び回る生活を送ってきました。

 そんな宮川さんは30歳という節目を前にしたとき、「どこかに定住したい」「家族のそばで暮らせたら」と考えたといいます。そこで選んだのが、祖父母が住んでいる阿武町でした。幼いころから憧れを抱いていた漁師である祖父と一緒に漁に出てみたいと、2018年に「孫ターン」をしてきたのです。同年11月に阿武町の地域おこし協力隊に就任、「阿武町漁業の活性化」をメインに活動することになりました。

「魚の伝道師」と食堂のメニューを共同開発

漁をする宮川さん

「地域おこし協力隊になっていなければ『うぉっちゃ食堂』のオープンはなかった」と話す宮川さん。任期中には付加価値をつけるための「魚の締め方」や「流通の工夫」の勉強、阿武町の魚をPRするグッズの制作を行いながら、漁師としても働き始めました。

 そのほかにも、宿泊施設の少ない阿武町で、旅行者がゆっくり阿武町を楽しめるようにと、空き家だった古民家を活用してゲストハウスもオープンさせています。

 精力的に活動していた宮川さんが、なかでも大きく影響を受けたのは、ウエカツ水産の上田勝彦さんとの出会いでした。水産業を中心とした地域おこしや魚食普及の推進活動を展開し、「魚の伝道師」として全国を飛び回りながら活躍している上田勝彦さん。阿武町も主要産業である水産業のさらなる発展のために、毎月、上田勝彦さんを漁業に関するアドバイザーとして招いています。

メニュー開発中の「魚の伝道師」こと上田勝彦さんと宮川さん

 宮川さんもその指導を受けたうちの1人。2020年10月の地域おこし協力隊卒業後、阿武町の魚の魅力を伝えていこうと「うぉっちゃ食堂」のオープンを決めてからは、漁師めしに詳しい上田勝彦さんにもメニュー開発に協力していただいたそうです。

 阿武町の魚に惚れ込んだ宮川さん、魚のことを知りつくした上田さんが自信をもってお勧めする阿武町の魚を使った料理が、「うぉっちゃ食堂」にはあります。

うぉっちゃ食堂で町への恩返しをしたい

漁師仲間と宮川さん

 宮川さんに食堂を運営していてうれしいことを尋ねると、「やっぱりお客さまからおいしいと言ってもらえたときがいちばん」と即答。立ち食いスタイルの「うぉっちゃ食堂」は、宮川さんとお客さんがコミュニケーションを取りやすいのも特徴で、「いろんな方が来て、いろんな話を聞けるのでとても楽しい」と話していました。

 「今後は『うぉっちゃ食堂』で阿武町の魚を食べたお客さんが、道の駅で魚を購入して帰ってもらえるようになってほしい。地域おこし協力隊時代からお世話になっている阿武町の漁師のみなさんも応援してくれているので、恩返しをしていきたい」と宮川さん。

 もっと多くの方へ阿武町の魚のおいしさを広めていくために、宮川さんと「うぉっちゃ食堂」の挑戦は続きます。

<取材・文・撮影/池田モト(地方創生女子アナ47)>

池田モト アナ
山口県出身・在住。大学卒業後、東京で人材系メガベンチャー企業のOLを経て、NHK秋田放送局でキャスターに。主にスポーツキャスターとして、出演だけでなく企画から取材、原稿作成も行う。その後、地元のNHK山口放送局でもリポーターを務め、生中継や生活情報、山口県内各地を訪ねるコーナー、ラジオニュースなど幅広く担当した。現在はフリーアナウンサーとして山口県を中心に活動中。第11代山口県観光フレンズにも就任し、県内外に山口県の魅力をPRしている。一児の母。

[地方創生女子アナ47ご当地リポート/第27回:池田モト(山口県)]

地方創生女子アナ47
47都道府県の地方局出身女子アナウンサーの団体。現在100名以上が登録し、女子アナの特徴を生かした取材力と、個性あふれるさまざまな角度から地方の魅力を全国にPRしている。地方創生女子アナ47公式サイト