子どもの独立を機に和歌山へ。アラフィフ女子のおひとりさま移住

2021年5月から、和歌山県那智勝浦町に地域おこし協力隊として着任した堀 良子さん。離婚後10年間、女手ひとつで一男一女を育て上げ、49歳にして東京から縁もゆかりもない地に移住を決意しました。半年で実現したスピード移住の経緯を語ってもらいました。

離婚後10年、子育てが終わって大胆なことがしたかった

海をバックに佇む

 2020年8月。高校を卒業した娘が台湾留学へ。大学4年生の息子は就職活動。それぞれの道を探し進む子どもたちの横で自分はリタイアが見える歳になり、生き方を漠然と意識し始めました。

 3年後、5年後の東京はどうなっているのだろう、暮らしも働き方も物凄いスピードで変わっていて、生活のためにせっせと働き、ゆったり旅行できる休みはない、止まらないだろう物価や税金の上昇。この先、どんな生活をしていたいだろう。せっかくなら、近い未来には親となるかもしれない子どもたちにとってプラスになる暮らし方をしたい。

 現実逃避との相乗効果か、生き方探しをしようと思うとワクワクもしてきます。バリバリのキャリアも貯金もなく離婚してから、とにかく突っ走ってきた10年、子育て期に終わりが見えてきて、自分へのごほうびもかねてなにか大胆なことがしたい、そんな気持ちもありました。

サイクリングの旅

 大きな転機は、その夏、息子と初めて2人旅をした、しまなみ海道サイクリング。夜行バス、宿探し、カップルに間違われたりと、久しぶりに楽しい時間。澄みきった真っ青な空とダイナミックな海、日焼けして笑顔がすてきな島の人。自然の中、自然体で生きている、あくせくしていない暮らし。これだ!

 小さいとき大好きだった「大草原の小さな家」や「赤毛のアン」。本に出てくる聞いたことのない食べものや、だだっ広い自然の下での生活。両親の実家のある広島県を転々とした夏休みや冬休み、お寺に嫁いだ叔母の家では料理や作法のひととおりを教わり、不便だけど時間の流れが豊かだったこと、憧れていた暮らしを思い出しました。

 生き方を選び始めた子どもたちに、世界は広くて、いろんな生き方、暮らし方があることを知ってほしい。世間は変えられない、でも自分の生き方は選ぶことができる。これからの私の暮らし方がひとつのヒントになればいいと思ったら、脱東京暮らしは憧れから「母親としてのミッション」に変わりました。

「移住」の情報収集って思っていたよりずっと楽しい!

世界遺産めぐり

 とはいえ実際は、2月に転職したばかり。仕事に慣れるのに必死で、秋まで移住のいの字もよぎることはありませんでした。9月は年次決算で怒涛の忙しさ、PCに向かい続けて残業の日々。これは、この先続けたい仕事でも、人生の歩き方でもないよね? と思いながら、しまなみ海道の旅の風景が浮かんでは消え…。翌月の「こんなもんか」な給与明細が「トドメ」を刺しました。

 ただ、さあ調べてみようと思っても、今度はどこから考えていいものか、相談する家族がいるわけでもなく、不安が大波のように襲ってきたり、やはり息子の就職が決まってからと先延ばしにしようとしたり、なかなか進みません。漠然としているから不安になるのかもしれない、情報収集から始めようと、仕事が落ち着いてきた10月末に、ようやく重い腰をあげて検索を始めました。

 まずは「移住」をキーワードに目に入ったサイトにアクサス。すると、なんだかおもしろそうな仕事やプロジェクト、お試し生活やイベントなど、気になる情報が目白押し。移住には資金が必要で、下調べを綿密にできる年配夫婦か、きちっとした仕事ができる人向き、と勝手に想像していたのに、ソフトからハードまで、仕事も滞在方法もたくさん。それも全国あちこちに!

 急に目の前がパーっと広がり、「生き方探し」って、旅行先を決めるくらい、いや、それ以上に楽しいじゃないか、と、途端に元気が出てきて、一気に移住への思いが加速していきました。

イベント参加から、あっという間に「始めの一歩」

透き通る川

 11月、たまたま見つけた和歌山県のマッチング型オンラインイベントに軽い気持ちで参加しました。和歌山県内の市町村が求める移住者と、地域で働くことに興味がある人との出会いの場です。参加者の自己アピールの場があり、そこで自分が移住先に求めることを整理できたのは収穫でした。

 温暖で、海、山、川、温泉、伝統、歴史があり、人の動きが活発なところ。つまり、人の動きのないひっそりとした田舎に住みたいわけではなく、豊かな暮らしとそこに魅了された人が観光に来るところ。家族も友達もいっぱい呼びたくなって、それができるところ。

 農業や自給自足は難しそうだけれど、朝起きたら山が見えたり、仕事帰りに夕陽の絶景スポットへ寄れたり、裏庭からレタスやハーブをとったり、燻製を楽しんだりできるくらいの、自由な空間があるおひとりさまサイズ。

 ここでなくては、という場所はまったく絞れていなかったけれど、このイベントで、和歌山県の廃校活用と地域活性化のための地域おこし協力隊募集でマッチングが成立したので、自分の移住への本気度を測るためにも、ものは試しと、現地を訪問することに決め、そのときに役場と面談もすることになりました。

2日間の滞在で移住を決心。直感を信じてよかった

山も河もある理想の場所

 12月。プロジェクト内容も地域おこし協力隊の詳細もわからないまま、和歌山県那智勝浦町へ。最寄り駅を降りると5分も歩けば終わってしまうようなメインストリート。港から海を見たとき、初めて来たというより、懐かしいふるさとに帰ってきた感じがしたこと、自然と「ここならいろんな可能性がある」と直感したことを覚えています。

 澄んだ空、港街、世界遺産、山と川、お笑いセンスがあって陽気な人達。滞在2日間で不思議なほど、心はすんなり、決まっていました。

 役場との面談で、地域おこし協力隊員の先輩から、「3年いて、未だ魅力がつきません。ここは宝箱のようなところです。今日は朝は海に、昼は川に入ってきました」と言われたことも強く印象に残りました。

 2021年1月、面談結果が合格通知として届き、息子と娘に移住のことを伝えました。意外にも大きな反対はなく、最後は応援してもらえてホッとしました(ただし自分たちは絶対に東京から離れないと強い意志あり)。晴れて、娘と息子のすてきな実家暮らしの実現に向け、全力投球の始まりです。

人生初のひとり暮らしがスタート

猫がいる一人暮らし

 2021年5月、和歌山県那智勝浦町にて、猫2匹と初めてのひとり暮らし、念願の移住生活をスタートしました。アラフィフ女子おひとりさまだって、移住をエンジョイできることを立証すべく、好奇心で行動しながら、自分サイズの心地よい暮らしを求めて手探り中です。

 今までの、いわば子どもたちの衣食住を支える「ライスワーク」から、今度はもっと広い世界やダイナミックな人生の選択肢を伝える「ライフワーク」にシフトして、彼らの新たな帰る場所を、せっせとつくって未来を明るく照らしていけたらと思います。

<写真・文/堀 良子>

堀良子さん
2021年5月、和歌山県那智勝浦町に移住した独身アラフィフ。和歌山県の廃校活用と地域活性化のため、地域おこし協力隊員として活動中。一男一女は東京と台湾でそれぞれひとり暮らし。