各地で閉店する銭湯が多いなか、京都では市内に約100軒も点在。大規模な空襲を逃れたため、戦前に建てられた銭湯も多く残っています。2021年京都に移住して町めぐりを楽しんでいるホリスティックセラピストの日比響子さんが、おすすめの3店を紹介してくれました。
水風呂は9℃。住み込みの学生がピカピカにする山代温泉
ランニングが趣味で、東京では走ったあとに仲間とよく銭湯に行ってました。大浴場で体にたまった疲労と緊張をときほぐし、水風呂の気持ちよさを知り、風通しのいい「裸のつき合い」も快適ですっかり銭湯ファンに。
東京では銭湯難民気味でしたが、移住したここ京都市内にはまだまだがんばっている昔ながらの銭湯がたくさんあることを知り、うれしくなりました。
また、ほとんどが基本料金のみでサウナに入れるのも素晴らしい。東京の銭湯ではサウナ別料金が当たり前でしたからね。450円で文化遺産的空間の中、心身清めて整えられるとは、あぁありがたや。
この山城温泉は、京都に来て初めて行った記念すべき銭湯。「日本一キレイな銭湯」を目標に掲げています。裏に学生寮を構え、週3回の風呂掃除をする代わりに、家賃と光熱費無料で住めるのだそう。え、めちゃくちゃ好条件じゃないですか、若かったらやりたい(笑)。
そんなわけで浴室、脱衣場どこも手が行き届き、清潔感があって気持ちよく入れました。特筆すべきは露天の水風呂の冷たさ! 壁に「水風呂めっちゃ冷たいで!」と貼ってあり、水風呂好きとしては、「ふーん」と動じずに入ったら、過去最高に冷たかったです。脚だけでも10秒と入っていられませんでした。なめてすみません。
あとで知ったのですが、ここは常時水温9℃台、サウナ用語で言うところの「シングル」の水風呂で、サウナーの間で有名らしい。冷たいわけです。比叡山で採取した薬草を使ったオリジナルの薬湯があったり、少しでも心地よく入ってもらおうという気持ちが伝わってくる銭湯でした。
登録有形文化財に指定。元は旅館の「船岡温泉」
旅行で京都に来た友人と一緒に鞍馬山を巡ったあと、汗を流しに行ったのが船岡温泉。堂々たる唐破風造の構え、門上にかかる立派な松に、え、ここ銭湯ですか? と聞きたくなりましたが、元は料理旅館の附属浴場と知って納得。
中に入ってみると、見事な欄干の透かし彫りに天井の彫刻、大正から昭和にかけて人気だったカラフルなマジョリカタイルの壁面が目を引きます。脱衣場と浴室部分は2003年に国の登録有形文化財に指定されたそう。
岩の露天風呂には、水をかけると七色に光るという「貴船石」が設置され、湯宿らしく檜風呂があったり、じつは日本で初めて電気風呂を導入していたりとお風呂にも力を入れてるのが伺えます。
時間帯もあるでしょうが、常連さんたちでほどよく賑わっていて、これまで行った京都の銭湯のなかでいちばん活気あるように感じました。
私がキョロキョロしていたら、すかさず「洗面器はあそこよー」ってお姉さんに教えていただいて。友人も同じようにご指南いただいてました(笑)。
サウナに入り、さてどこへと見渡してたら、さりげなく常連さんが空いたところをすすめてくれたり。ここに限らず、京都の人には勝手わからぬ新参者の緊張を解きながら受け入れ、その場の流れみたいなものを感じ取らせる術がある、と思っていた私。
世界中から見知らぬ人がわんさか押し寄せる地に住む人ならではの、物事を平和にスムーズに進める「人づき合いのコツ」なのかもしれないなぁと、水風呂の打たせ水を浴びながら考えたのでした。
冷凍サウナが強烈。4階建ての「衣笠温泉」
4階建て、冷凍サウナありという変わった銭湯情報を京都出身のお客さんから仕入れて訪問。冷凍サウナは奇数日が男性、偶数日が女性と分かれているので注意が必要です。
ビル丸ごと銭湯とはどういうつくりなのかと思ったら、1階に深&浅風呂、薬湯、強弱の電気風呂、ジェット風呂、スクリュー風呂、水風呂。2階にサウナ。3階に檜風呂と冷凍サウナ。4階露天風呂。そして半地下に人工ラドン泉となってました。
最上階の露天風呂は故障中で入れず残念。けれどお風呂の種類が多く、すっぽんぽんで階段を上ったり下りたりするので、存分に堪能した感味わえます。
初めての冷凍サウナ、入ったときは私ひとり。座るスペースはなく、ぼーっと裸で立ったままのシチュエーションがおかしくて、思わず笑いが込み上げます。
温度計を見るとマイナス5℃。3分もすると頭皮がチリチリ、耳もキンキンしてきて、もしこのまま閉じ込められたらという恐怖感も湧いてきて、さっきまでのニヤケはどこへやら、あわてて出て隣の檜風呂に飛び込み解凍。
生き返りました。いやこれはクセになりそうな新感覚。サウナは熱くて苦手、という人にも試してもらいたい逆サウナです。
市が発行している銭湯マップを手に入れて、思いついたときに自転車でふらりと行ってみる、こんな暮らしが気に入っています。次はどんな銭湯と出会えるかな?
<取材・文/日比響子>
日比響子
「studio hi_bi」主宰。カラダとココロをゆるめて本来の自分を取り戻すホリスティックセラピストとして活動中。2021年4月、東京から京都へ移住。京都市内にある築年数不詳の京町家をリノベーションした、こぢんまりとした平家一戸建てを借り受け、新たなスタートを切る。