離島に移住してうどんでコミュニケーション。不自由を楽しむ島暮らし

瀬戸内海に浮かぶ塩飽(しわく)諸島で、最大の面積をもつのが香川県丸亀市広島町に属する讃岐広島です。今回はこの島に、会社の仕事として移住した木村成克(あきよし)さんに、移住のきっかけと讃岐広島の魅力、そしてこれからの目標についてお話を伺いました。

島民の温かさに触れて移住を決意

トリドールホールディングス・木村成克(あきよし)
トリドールホールディングス・木村成克(あきよし)さん

 広島県の呉市に生まれた木村さんは、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスに入社。店長やマネージャー、営業職などを経て2019年にCSV活動を行う部署に異動になりました。そこでの活動や出会いが移住を決意する大きな転機になったと語ります。

「2011年から会社は丸亀市との交流を重ね、その一環で私も丸亀市や讃岐広島に何度も足を運んでいました。そこで島民の方と知り合って、コミュニケーションをとっていくうちに、自分の中で『なにか役に立てないか…』という思いが強くなっていきました」。

 交流を続けるなかで、島民の方々からの「活気あるときの島の原風景」に近づけたいという思いを感じたそう。そこで、より寄り添った活動が必要であると考え、2022年2月に移住を決意。

「地域活性化包括連携協定」を締結

 2022年4月13日、香川県丸亀市とトリドールホールディングスは、丸亀地域の一層の活性化を目的とする「地域活性化包括連携協定」を締結し、その離島振興の一環として讃岐広島との取り組みを本格的にスタートしました。木村さんの移住はこの取り組みのひとつでもあります。

讃岐広島

 木村さんが移住した讃岐広島は、丸亀市からは13kmほど離れ、フェリーで40分程度かかります。決して利便性が高いとはいえない島への移住に対して、不安はなかったのか尋ねると、木村さんは「まったくなかったですね」と笑顔で答え、こう続けます。
「讃岐広島へは何度も足を運んでいたので、もともと小売店がなく自販機しかないといったような、不便な部分は知っていました。だから移住前後で、島に対するイメージはそこまで変化なく、すんなりとなじめましたね」。

きれいな讃岐広島

 それよりも、人の温かみや優しさに間近で触れて、その人たちが困っていることに少しでも力になりたいという思いが強くて移住したので、島での生活に対しての不安はありませんでした」。

実際に移住してみて感じたこと・変わらないこと

船

 讃岐広島は、海に囲まれて緑が豊かな土地です。そのため、木村さんも島の方に釣りを教えてもらったり、魚をもらってさばいたり、休日は運動がてら自転車にのったりして自然を満喫しているそうです。

「釣りはまったくの初心者だったのですが、島の方に連れていってもらって習いました。島ではなにをするにせよ、この人に聞けば分かるという『○○名人』がいるんですよね。だから、教わりながら自分の趣味の幅も広がっていっています。あとは、島にイノシシがよく出るので、わなをしかけてさばくイノシシ名人もいらっしゃるんですよ。島ではイノシシによる作物の被害があったりするので、次のタイミングで私も狩猟免許を取って、少しでもお役に立てればいいな…と」

 移住後も暮らしで困ったことがあれば、島民の方が「大丈夫?」と気さくに声をかけてくれ、都度救いの手を差し伸べてくれているそう。しかし、さまざまな面で困ることはないのでしょうか。

すてきな島民

「島の方には本当によくしてもらっているので、甘えるところはしっかり甘えさせていただいていますね。都会に住んでいたら隣人の顔がわからないということも多々ありますが、ここでの暮らしは距離が近い。だから、変に壁をつくらずに自然体でいることが大切なんじゃないかと思います。そういうコミュニケーション手段は、丸亀製麺の店舗で働いているとき、老若男女を問わずに多くの人に接してきたので、その経験から培われた部分もあるかと思います」

島の夕方

「最初に島民の方に『この島は不自由しかないんだけど、不自由を楽しみなさい』と言われたんです。その言葉がとても胸に刺さりましたね。不自由さのなかに楽しめる方法を探すことが楽しみです。だから変に片意地を張るのではなく、実家に帰ってきた感じで、いい具合に肩の力は抜けています」

印象深かったうどんのつながり

手づくりのうどんをふるまう

 島民との触れ合いを大切にする木村さんに、島での印象深い出来事を教えてもらいました。
「自分の打ったうどんを島民の半分以上の方に食べてもらっているのですが、そのなかで名前を覚えてもらって、『また食べさせてね』って声をかけてくれるんです。少し遠くに住んでいる方や少し足が悪いのにわざわざ来てくださった方もいて、本当にうれしかったですね」

島民の方々

「島民の方の温かさも島の魅力のひとつです。いい意味でおせっかいで、実家のような安心感や心地よさといいますか、自然に『ただいま』といっちゃう空気感があるんですよね。それは移住前の仕事や観光で訪れたときから変わらないんです」

尾上邸
構成文化財の「尾上邸」

 讃岐広島には、日本遺産「備讃諸島石の島」の構成文化財の1つとして登録されている「尾上邸」や、島の特産品でもある「青木石」の迫力ある採石場など観光的な見どころもたくさん。

 しかし一方で、20年近くで人口が1/3減少。だからこそ、島民には、島があと何年もつのかという危機感や活性化させたいという思いが強くあります。島のよさを感じてもらうためにも、木村さんはぜひ一度島に足を運んでほしいといいます。

「より多くの方に島を知っていただきたいですね。だから、まずは一度島に観光で来ていただいて、最終的には私のような移住者を増やしたいと思っています。移住者に向けてのバックアップは取れているので、いろんなことを発信してそのお手伝いをできたらうれしいです」

 その思いをつなぐ橋渡しを木村さんはじめとするトリドールホールディングスは今後も行っていくそうです。島民の方と企業が力を合わせて行っていく取り組みに注目してください。

<取材・文/カラふる編集部>