68歳で静かな田舎を求め移住。趣味やボランティアで毎日忙しく

[移住コンシェルジュ・尾鷲市漁村の田舎暮らし]

 三重県南部の海沿いの町、尾鷲市に地域おこし協力隊として移住した郷橋正成さん。移住コンシェルジュとして日々奮闘していますが、そんな日々で出会った人や出来事をつづってくれます。今回は、68歳で尾鷲に移住し、趣味やボランティアで充実した日々を送る、移住者の男性にインタビュー。 

気ままな暮らしを求めて尾鷲に移住。悠々自適な第二の人生を謳歌

昼食後
初めて会った日と変わらない笑顔を見せてくれた杉浦さん

 移住者インタビューを行うにあたり、ご紹介したい方を選考しているといちばんに思い浮かんだ人がいます。
それは、愛知県出身の杉浦悦雄さん(70歳)。

 杉浦さんは自分にとって「移住者」の先輩。素朴で飾らない性格。オブラートなしの直球ストレートな言葉で、すとんと腑に落ちるアドバイスをくれます。
 65歳までは会社員として勤め上げ、現在は尾鷲市三木里町で定年後の悠々自適な「第二の人生」を謳歌されている。元気な間は好きなことをして過ごしたい、と考えている杉浦さん。田舎での気ままな暮らしを求めて、尾鷲市の運営する移住体験住宅「みやか」を利用し、2か月の移住体験を経て尾鷲への移住を決意しました。

三木里
杉浦さんが暮らす、三木里の風景

「始めは愛知と尾鷲で半々ぐらいに考えて家を探しとったんやけど。今は息子に田舎をつくってやりたいという思いに変わって」。
 杉浦さんが生まれ育った町は開発が進み田舎らしい風景がなくなってしまったそう。移住体験中に空き家バンクで家を探し尾鷲市三木里町に家を購入。
 三木里町は思い描く「田舎」にピッタリな町でした。

アトリエ
自宅横のアトリエで絵を紹介してくれた

水彩画、旅行、ボランティア。移住してからアクティブに活動中

 数か月ぶりに自宅を訪れると趣味で書いている水彩画を見せてくれました。
「ずいぶん増えたんだわ」
 水彩画の道具を友達にもらったことがきっかけで、移住してから始めた趣味だとか。

水彩画
所狭しと飾られた絵。すべて移住してから書いたもの

「今までやってみたくても出来ないことが沢山あった。尾鷲に来てからはなんでも挑戦している」
杉浦さんは釣り、水彩画、植木に、古物収集…多趣味なイメージがあったが、本格的にいろいろ出来るようになったのは移住してからだという。

「旅行も趣味で47都道府県を全部友達らと行った。今度はここの町内の人と台湾に行こうかって盛り上がっとるんだわ」
 20年前、妻に先立たれ、2人の子どもも自立した68歳の頃、どのような思いで移住という決断をされたのだろうか? あらたまってインタビューをするのも変な間柄で、淡々と質問回答を繰り返しているなかでおもしろい回答がありました。

TV取材
テレビや雑誌の取材を受けることが多い

「よく聞かれるかもしれませんが田舎暮らしで困ることってありますか?」と尋ねると、「インタビューは大概困るんやけど、その質問がいちばん困る」。

 尾鷲に来てからテレビ出演6回、新聞、ラジオ、雑誌その他多数。移住者としてや、ボランティア活動が取り上げられる機会が多い杉浦さん。NHKで1時間番組が放送されたことも。共感を呼ぶ人柄、リタイア後の悠々自適な生活のなかに「地域貢献」や「地域おこし」をなんの嫌味もなくやってのけている。頼まれると知らない人の家でも草刈りや植木の世話に行くことも…。
「苦労や不便なんてどこに住んでもあると思う。不満に思うより楽しまんともったいない。そう思ってるからホントになんでも楽しいんや」
 じつに杉浦さんらしい回答だと思った。移住を検討される方にアドバイスのつもりで聞いているデメリットの話も杉浦さんにとっては「どこに住んでも住めば都」と一蹴されます。

「なんせやってみんと」「住めば都」。杉浦さんからよく聞く言葉。
 一見楽観的な無責任にも取れる言葉だが最終的に行き着く言葉だと思う。移住を検討される方の動機は十人十色で、さまざまなケースや思いがあるなかで、準備や下調べは大切だと思う半面、動き出さないと変わらないことが多いように感じます。

ボランティア
「ボランティアとは言われたくない、もらうことの方が多いんだから」と杉浦さん

 杉浦さんに出会った日に言われた言葉を、今でも鮮明に思い出します。
「昔はなかったであろう言葉が独り歩きしているように感じるよね、地域おこしとかさ。行政的な言葉であって、そこに実際住む人の言葉ではないよね。そもそも移住促進ってなんだろう? 促進されて来るわけじゃないでしょ。俺にとっては引っ越しだし」。
 定住移住地域おこし協力隊として尾鷲に来て2か月ぐらいの自分には胸に刺さる言葉でした。

「あんたらのやっとるサポートは素晴らしいことだ。でも、国や行政の思い(人口を増やしたい・地方の活性化)と移住してくる人の思い(豊かな暮らしがしたい)は違うわけやから」
 
 よいことも悪いことも伝えたうえで、自分たちのやっている「おわせ暮らしサポート」も杉浦さんのような後押しができる存在でなければと、あらめて感じました。

 今回、自分は「このような背景があり尾鷲への移住を決断された」というストーリーを想像し、インタビューを行ったが杉浦さんにとっては「不便も含め楽しめる場所に引っ越した。それが尾鷲だった」という結果に。

 今、どこかの地域に移住をご検討の方もそうでない方も、今後の人生に少しでも参考にして頂けると幸いです。

[移住コンシェルジュ・尾鷲市漁村の田舎暮らし]

郷橋正成さん
京都出身の30代。リゾートスタッフ、漁師、サラリーマン、家具職人などを経て2018年8月から尾鷲市の地域おこし協力隊に。現在、おわせ暮らしサポートセンターで活躍中。