―[世界を旅した若き航海士が尾道の空き家でDIY生活 第1回目]―
普段は航海士として、1年の半分ほどを船に乗って日本中を回り、休暇中はWeb系のフリーランスとして働くナオ船長さん。育ちは埼玉ですが、移住したい場所を求めて辿りついたのは尾道でした。空き家を再生させて新たな生活をスタートさせようとしているナオ船長さんの毎日を、リアルタイムでお届けします。
移住したい場所を求めて旅した1年間
はじめまして!ナオ船長と申します。仕事は航海士として商船に乗船し、休暇中は海外を旅しながらWebコンテンツの制作などをフリーで請け負う仕事をしています。
航海士の生活は2〜3か月間船に乗り、1か月は休暇というライフスタイルです。休暇中はどこに住んでいても構いません。旅が大好きな僕は、移住したい場所を探すために休暇中に国内外のさまざまな土地を訪れました。そして住みたいと思ったのはまさかの日本! 「尾道」だったのです。
これぞ灯台下暗しですね(笑)。
理由は2つあります。1つは駅からすぐそばに海、山、島、商店街があること。実は、これは世界的にみても珍しく、貴重な地形が尾道には残っています。そして2つ目は、なにより尾道に住む人の人柄がいいこと。豊かな自然と人情味のある人が大好きな僕にとって、尾道はまさに探し求めていた場所でした。
たくさんの魅力がぎゅっと詰まった坂の町
「尾道」と聞くとどんなイメージがあるでしょうか? ここからは僕を虜にした尾道の魅力をご紹介します。
瀬戸内海の島々を7つの橋で結んだ「瀬戸内しまなみ海道」。世界七大サイクリングコースにも選ばれたサイクリストの聖地でもあります。その本州側のスタート地点に、尾道は位置しています。
坂と社寺の町として知られていて、映画の舞台になったり、尾道ラーメンやわらび餅などたくさんのグルメが楽しめます。尾道には海、山、商店街などがありますが、これらはすべて「駅から徒歩圏内」。これが尾道の独特な雰囲気を生み出しています。
ひと言で言うと、カメラを持ってぶらり散歩がしたくなる町。レトロな建物が立ち並ぶ商店街や海沿いをぶらぶら歩き、疲れたらおしゃれなカフェでちょっと休憩……なんていうような街歩きにぴったりです。作家や画家などの芸術家が多く滞在する理由が分かる気がします。
そして忘れてはいけないことがひとつ。尾道は「ネコの町」とも言われるくらい、ネコが多いことでも有名です。ふらっと散歩に出ればすぐにネコに出会えます。昼寝しているネコを眺めていたら30分が経っていた……なんてこともよくあります。
ネコにちなんだショップもたくさんあり、ネコ好きにはたまりません。特に石段の道が続く「猫の細道」はネコ好きの聖地です。まるでジブリの世界みたいで、物語の中に入り込んだような感覚になります。足元にはセメントで描かれたネコの姿や肉球などが隠れているので、探しながら歩くのも楽しいです。
ゼロから空き家を再生して移住する
さて、僕の住まいは坂の途中にある古民家です。空き家になってからは10年以上が経過している、筋金入りの空家を住居として決めました。蜘蛛の巣だらけだったその家を初めて見たときは「本当にここに住めるようになるのかな……」と思うくらいの状態でした。
寝泊まりできるようになるまでは毎日掃除、修繕を行う日々。片付けで腰を痛め、2、3日動けなくなる時もありました。その甲斐あって、1か月で家が息を吹き返し住めるようになりました。初めて泊まった日にはドキドキで眠れなかったのを覚えています。
なぜそんな空き家を再生しようと思ったか。それは、「坂の町」という尾道の地形に理由があります。坂の町には魅力がたくさんありますが、お年寄りにとっては生活が困難な地形です。
尾道では次第にお年寄りが平地に引っ越していった結果、空き家が増加していきました。さらに、人が住んでいないと維持もできないため、家の保存状態は悪化するばかり。
坂道を歩いていると、管理が行き届かずに崩れかけている空き家も見かけます。なので「大好きな町の景観が失われてしまわないように、空き家を再生して住もう!」という思いで、空家をリノベして住むことを決めました。
尾道には心の温かい人が多いです。観光で訪れる外国人や都心からの移住者には、とても優しい町です。それは実際に住むことで、よりいっそう感じるようになりました。僕が空き家を探していることを、ふらっと立ち寄ったカフェの店主に伝えると一緒に探してくれたり、空き家に詳しい人を紹介してくれたり。さらには、周囲のさまざまな人が片付けと修繕を手伝ってくれました。
今では僕自身も、尾道周辺で空き家の片付けがあると手伝いに行っています。空き家からでてきた廃材をあげたお礼に野菜をいただくなどの、地方ならではの物々交換もよくあります。こういった感謝の循環は、地域経済にとってとても重要なことなのだなと改めて思いました。
そして、尾道に暮らすようになってから感じることがあります。それは時間の流れがちょうどいいということ。都会のように忙し過ぎず、田舎のようにゆったりし過ぎていない。仕事だけでなく、しっかりと「生活ができている」と実感しています。
次回からは、そんな魅力たっぷりな尾道で暮らす人々の生活や、空き家の再生ログをお伝えしていきます。
<文・写真/ナオ船長>
―[世界を旅した若き航海士が尾道の空き家でDIY生活 第1回目]―
ナオ船長さん
コーヒーをこよなく愛する航海士兼Web系フリーランス。世界30か国を旅したのち、尾道に拠点を置く。空き家歴10年以上の古民家を自身で再生し「好きを追求する大人の遊び場」づくりを行うなど、さまざまな活動に挑戦中。