大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らす女性に日々のことをつづってもらいます。
現在、深島には漁師は1軒だけ
離島での生活というと、自給自足ののんびりスローライフを想像する方もいるかもしれません。でも、自然とともに生きている離島での暮らしはけっこう忙しいのです。季節や天気、潮の満ち引きに左右されることが多い毎日。山菜を採ったり、貝を掘りに行ったり、草花の手入れをしたり、90歳近いばあちゃんたちも本当によく動きます。「昔は座るひまもなかった」とよく言うばあちゃん。そんなばあちゃんたちが若かったころ、島はとても活気あふれる漁業と農業の島でした。
深島はとても恵まれた漁場として巻き網船の網元が数軒あり、島民のなかには網元以外にも船の乗組員をしている人もいました。農業もしていて、サツマイモと麦を育てていました。豚やヤギもいたそうです。その後、はっきりとした理由はわかっていませんが、魚がとれなくなったり、家族を養うほどの稼ぎが得られなかったり、ほかの仕事のほうがよかったりで島の漁師さんはどんどん減っていきました。現在島の漁師さんは1軒。蒲江に住む家族と一緒に巻き網漁をするほか、貝をとったり、かご漁をして暮らしています。
ばあちゃんたちがつくった特産品「深島みそ」
一方私たちは「深島みそ」という深島にしかないみそをつくっています。島といえば海、海の仕事といえば漁師といった感じで、旦那さんは漁師さんですか?と聞かれることもしばしばです。もちろん、海に出て釣りをしたり建て網漁をしたりもしますが、漁でとれた魚はみそ漬けやcafeで利用していて、販売することはほとんどありません。
深島みそはばあちゃんをはじめとする深島の婦人部が平成8(1996)年に商品化したものです。昔から島の各家庭でつくられてきた麦みそを改良し、販売を始めました。こんなに小さな島で、60代以上のばあちゃんたちが集まって島の特産品をつくった、その歴史があるから今私たちが深島で暮らせているといっても過言ではありません。
商品化から20年あまり経ちばあちゃんたちが体力的にみそづくりがきつくなってきたとき、私の夫の達也が島に帰ってきてみそづくりを継ぐことになります。
また、深島が大好きな達也は島でお客さんがゆっくりできる場所をつくりたい、たくさんの人に島の魅力を知ってほしいと、食堂とマリンアクティビティのガイドを始めます。それから約10年経ち食堂と1日1組限定の宿、マリンアクティビティだけではない島での体験も定着してきました。食堂がオープンしてからというもの、ありがたいことにたくさんの方が遊びに来てくださり、親戚のように毎年わが子たちの成長を一緒に喜んでくれる方もいます。
そんな感じで、わたしたちはみそをつくりながらcafeと宿と島での体験を仕事にしつつ、ときには魚や貝をとりに行ったり、草刈りをしたり、畑仕事をして自然に寄り添い島で暮らしています。
配達ありのスーパーやネットを活用して買い物も便利に
仕事の次によく質問をいただくのが、食べ物や日用品のこと。昔は自給自足に近く、日用品や肉などは漁を終えたじいちゃんたちが蒲江で買い出しをしていたようです。ばあちゃんの話では、日用品を扱うお店というかおうちが島内にあったようなので、蒲江に出る機会は少なかったのではないかと思っています。
現在は病院に行くときに買い物をしたり、月に1~2回程蒲江にでて買い物をしています。蒲江の船着場のすぐ近くにスーパーがあるので意外と便利です。会計をすませたら定期船まで配達してくれるスーパーもありますし、島から出ずとも電話注文を受けつけてくれ、荷物を定期船に乗せてくれる商店もあります。
また、私たちは週に1回程度みその配達ついでに佐伯市内で買い出しをしています。自分たちの食料品や日用品のほか、cafeや宿で使うもの、深島みその材料や出荷に必要なものなど、たくさん買わなければならないものがあります。最近はあまり利用していませんが、週に1回生協も届きます。
最近は食品のほか、洗剤やトイレットペーパー、衣類や仕事で使う事務用品など、ネットで注文することが多くなってきました。ネットで注文をすると、宅急便の配達員さんが定期船に荷物を乗せてくれ、船着場に荷物が届きます。一輪車や軽トラで船着場に行って荷物を受け取ります。荷物の運搬代はかかりますが、定期船で1日かけて買い出しするよりもずっとらくちん。水や米などの重たいものも、港まで受け取りに行くだけでいいので助かります。
田舎は車がなければ生活が大変だと言われるし、実際にそうなのですが、深島の場合は定期船をおりれば蒲江にスーパーも病院も美容室も郵便局も銀行もあり徒歩で行けます。定期船でいろいろ運んでくれるので、本当に恵まれているなあと思います。
加えて、不便な島で暮らしてきたからこその保存術や代用品活用など、島の人たちは暮らしを豊かにする知恵や技術をたくさんもっています。あるものをつかう、使い捨てではないものをつかう、みんなで共有したり分け合う、そんな島の日常は、もしも災害が起こったときや台風で定期船が出ないときでも安心できるものです。ばあちゃんたちや、島の人たちの知恵や優しさを学び、次の世代へ伝え残していくことも私たちが島に生きる使命だとも思っています。
<写真・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。