住人12人の離島でため池がピンチ。みんなの協力で苦境を乗りきる

大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らす女性に日々のことをつづってもらいます。

生活用水は島のため池の水を利用

島では生活に必要な電気、水、ガスはどうしてる?

 今回は、島で暮らしているとよく聞かれる、水、電気、ガスについてお話します。
 よく聞かれるのは、深島では生活に必要な水はどうしているんですか?ということ。島によってはわき水があったり、海底の送水管で供給されている地域もあります。

 深島の生活用水は、島にあるため池の水=雨水です。島に浄水施設があり、そこでため池の水が浄水され水道水となって蛇口から出てきます。現在の島の住人である、12人のためだけの浄水施設。本当にありがたいなあと思います。ため池と浄水施設は島の北側、学校跡にあがる途中にあり、池にはコイが泳いでいます。昔はザリガニがたくさんいて、夫が小さい頃はみんなよくザリガニ釣りをして遊んでいたそうです。

深島の浄水施設
深島の浄水施設

 浄水施設ができて数十年、そろそろ老朽化がすすみ、雨が降ったり浄水施設の調子が悪くなると、水がにごることがあり、お風呂が温泉のような色になります。そんなときは、市の水道課の方が飲料水を本土からタンクで運んでくれます。毎日のように修理をしたり調整したり、本当にお世話になっています。

雨が降らなくてため池の水が枯れそうに

ため池の水が枯れそう
水がなくなってしまった時の写真
水がなくなってしまった時の写真
普段は木のねっこも見えません(土がえぐれているところが通常時の水量)

 じつは昨年、雨が降らずため池の水が枯れそうになった時期がありました。飲み水は本土からタンクに入れて運んでもらい、お風呂や洗濯は節水しながら、島のみんなで「まだ雨降らんなあ」「池の水これくらいあったよ」「うちはお風呂こうやって入っとる」など情報共有して過ごしました。昔は水が枯れそうになったときは漁船のいけすに真水を入れて、本土から水を運んだそうです。不便といえば不便かもしれませんが、毎日ため池を見に行ったり、普段見ることのできない貯水施設の様子を見ることができたり、こんなときでも前向きな島の人たちの温かさに触れることができた数か月でした。

 そして島には真水が出ているところが数か所あります。そのうち1か所は歩いて行けるので、昔は子どもたちが水をくみにいったりしていたそうです。浄水施設ができる前までは、井戸水とこの水を使っていたんですね。雨が降らなくても枯れることはない(と言われている)深島の水源、大切に守りたいと思います。

ガスはプロパンガス、電気は海底ケーブルで送電

深島
ここに船で運んできたガスを一時保管する

 次にガスですが、ガス屋さんが定期的にプロパンガスを運んでくれ、交換したり検針したりしてくれます。お湯はほとんどすべてガス給湯器を使うので、各家庭に給湯器がついています。今ではほとんどないですが、台風などでガスを交換できずにお風呂に入れない!なんてことがありました。そんなときは近くのおうちへお風呂に入りに行きます。停電していてもガスコンロだと使えるので、台風の停電時もそんなに不便ではありません。

 電気は本土から海底ケーブルがひかれています。海底ケーブルが設置されたのは昭和の中頃。それまでは島にひとつ発電機があり、夕方になるとまわして発電していたそうです。ということは、冷蔵庫もなかったということ。だからばあちゃんたちは干物や漬物などの保存食をつくるのが上手なんですね。

 海底ケーブルを通ってくる電気は安定していて、停電することはほとんどありません。台風のときは本土側の停電で送電がとまることはありますが、そこまで困りません。ご飯は土鍋などで炊き、ポータブル発電機を使って投光器で明かりを灯したり、太陽光で充電できるスマホの充電器も常備してしのいでいます。
 今は海底ケーブルで送られてくる電気ですが、海底ケーブルがいつまでもつかわかりませんし、津波が来たらしばらくは復旧しないと思っています。だから、これから少しずつ島内で発電、蓄電ができる仕組みをつくっていけたらいいなと考えています。

普段から備えて不測の事態も「なんとかなる」ように

普段から備えて、不測の事態も「なんとかなる」ように
家族でため池の水をチェック

 島での暮らしは、インフラを支えてくださっている人との距離がとても近い気がしています。浄水施設の整備をする人、ガスの検針をする人、困ったときに相談する人、ほとんどみんなが顔見知りで島で会えば「また水調子わるいなあ~」なんて話したり。

 私は島に来て、土鍋やかまどでの炊飯を覚え、停電のときの過ごし方を学び、あったほうがいいものをたくわえ(水や充電器など)、常になんとかなる状態を保つようになりました。電気もガスもない時代を島で生きてきたばあちゃんたちは、本当にたくさんの知恵をもっていてとてもタフです。その生活を残しながら、普段から「なくても困らない」生活をしていることがいちばんの防災だと考えています。今後は、発電機やポータブル浄水器、お米とライターと鍋などを常備できる倉庫をつくったりもしたいと思っています。

 インフラのご紹介ついでの余談ですが、電話は現在インターネットケーブル、テレビは電波で受信しています。大雨や台風のときはテレビがうつらなくなります。電波を受け取る機械の老朽化か、最近は天気がよくてもテレビの映りが悪いことも増えてきました。でも、今はインターネットでテレビも見られるし、カラオケなどもできます。なくても困らない便利で楽しいものも取り入れながら、少しずつ島の暮らしを豊かにしていきたいと思っています。

写真・文/あべあづみ

【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。