大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らす女性に日々のことをつづってもらいます。
海水浴客が多く訪れる深島には病院がない
梅雨も明けて夏本番。深島も暑い日が続いています。夏休みに入り、海水浴に訪れるお客さんも多くなりました。熱中症だけでなくクラゲやハチが活発になるこの季節は、私たちも気を張ります。
今回は、島でもし熱中症になったり、クラゲやハチに刺されたら? もしばあちゃんたちが倒れたり、ケガをしたら?という緊急時には命に関わることもある医療についてです。
深島には病院がありません。昔は月に1度お医者さんが往診にきていたそうですが、今ではそれもありません。ケガをしたり、病気になったときには佐伯市内の病院まで行かなければなりません。
風邪や花粉症、ちょっとしたケガなどの際は、定期船に乗ってすぐの蒲江の病院へ行ったりもしますが、産婦人科や小児科はないので、妊娠中や子どもの検診、病院は1時間かけて佐伯市内の病院へ行っています。
「大変ですね」と言われますが、私たちは現在頻繁に行くわけでもなく、かたや毎月病院に通っているばあちゃんたちは、ついでに買い物をしたりランチをしたりと楽しそうです。
ありがたいことに、ばあちゃんたちも子どもたちも元気。毎日のように外に出て、たくさん遊んだりお話したり笑ったりするのが健康の秘訣です。ときどき熱が出ても、「よく食べよく寝て治す」を基本に、本当に気をつけなければならないことさえ気をつけていれば、何度も病院に通う必要もなく、健康に過ごせると考えています。
また、子どもたちのことに関しては、熱性けいれんや乳児の熱やRSウイルス、熱が出てぐったりするなど、病院へ行く目安や、通常気をつけておかなければならないことを病院の先生に事前に聞いています。なにに関してもそうですが、ネットには情報がたくさんあるため、どれが本当の情報かわからなくなったり、不必要に不安に駆られてしまうことがあるので、専門の方に聞けるときに聞くようにしています。
緊急時は船で救急隊、ときにはドクターヘリも
もし、島の人が倒れてしまったり、一刻を争う事態になったときは、他の地域と同じように119に電話します。固定電話からだと大丈夫なのですが、スマホから電話するとときどき延岡(宮崎県)の消防につながってしまうので注意が必要です。119に電話をすると、蒲江の消防署から救急隊員が船に乗って島にきてくれます。このとき、来る船は基本的に瀬渡し船。夜中でも走ります。
その間、島では倒れた人のお薬手帳や保険証の準備、島外の家族への連絡や港まで搬送するための車の準備などをします。大体私が消防や救急とのやりとり、家族への連絡や保険証の準備はばあちゃんたち、夫が車の準備といったように、それぞれができることを速やかにこなします。
救急隊が島に着いたら、倒れた人やけが人を引き渡し、船で蒲江へ行き、救急車で搬送されます。こんなとき、普段からかかっている病院や服薬の有無などの事前共有、とまではいかなくても、お互いの状況をある程度知っていることがとっても大切だと感じます。
深島のお客さんがクラゲやハチに刺されたり、ケガをしたときも同じです。小さなケガなら私たちで対処(絆創膏や市販の消毒液をお貸ししたりなど)しますが、判断がつかないときは消防署に連絡をして相談します。
119に連絡をして、あまりに状況がひどいとき、一刻を争うときにはドクターヘリもきてくれます。学校のグラウンドがヘリポートになっていて、ドクターヘリがグラウンドに降りる前に車でそこへ搬送して待機しておきます。要請から20分ほどで到着するので、とても心強い存在です。
船で陣痛が。病院について1時間で出産
ちなみに、出産は佐伯市内の産婦人科でした。妊娠発覚から出産まで月に1、2回通院しました。長女のときは夜中に島で前期破水して、父の船で蒲江まで連れて行ってもらい、そこから夫の運転で佐伯の病院へ行き、入院。次女のときは夜、「なんかおなか張るなあ~」と思い早く寝てみたものの治らず、念のため病院に電話して夜11時頃自家用船で島を出て、蒲江に向かいました。船であぐらをかいて座っていたせいか、陣痛の間隔がどんどん短くなり病院に着いて1時間もかからず産まれました。
そんな状況を知っている病院だからこそですが、3人目の長男は計画分娩で出産日を決めて入院させてもらい、促進剤を打って出産しました。
これは、「島で陣痛が始まってからでは間に合わないかもしれない」、と双方が思っての対応です。おかげで出産まで安心して過ごせました。産婦人科も小児科も他の病院も、島に住んでいることを理解してくださるところが多く、とても助かっています。
日々の積み重ねで危険を防げることも
私が島に来てからのおよそ10年でドクターヘリが来たのは3回程度、救急の対応も5回ほど。その度に、消防や救急隊とお話をし、緊急時に必要なものや対処法などを聞くと同時に、関係性を深めてきました。また、年に1度救命救急講習を深島で開いてもらっており、救命救急の知識や実技も身につける努力をしています。
また、島に暮らし始めて、今までよりも自分の体調に敏感になった気がしています。ばあちゃんたちもそうですが、具合が悪いときは休む、病院に行く目安をだいたい決めておくことも大切です。
子どもたちの症状は病院に電話で相談し、どうなったら病院に行くべきかをしっかり聞いておく、夏は水分をとっているかばあちゃんたちにも確認する、ケガをしないように気をつける、子どもたちに危険なところをわかってもらう、そんな日々の積み重ねで防げることはたくさんあります。
深島は穏やかで平和な温かい島ですが、常に危険とも隣り合わせ。そのことを忘れずに、自分たちの身は自分たちで守る術を身につけること、また緊急時の対応や連携を明確にしておくこと。わたしたちは島の人、瀬渡し船、そして救急や消防の皆さんの協力やサポートがあるからこそ、深島で安心して生活できています。この安心をこれからも守るべく、そしてさらに安心して暮らしていける島にしたいです。
<写真・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。