住民12人ネコ70匹の離島の特産品。ばあちゃんが教えてくれた「白いみそ」

大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らす女性に日々のことをつづってもらいます。

「深島みそ」はかまど仕込みの白いみそ

深島の特産品「深島みそ」
深島の特産品「深島みそ」

 深島には「深島みそ」と呼ばれる麦みそがあります。各家庭でつくられていたみそを平成8(1996)年頃、深島婦人部が改良し商品として販売、その後私たちが引き継いでいます。
 深島みそは麦麹たっぷりの麦みそです。昔ながらのかまど仕込みと白さが特徴で、麦麹の優しく素朴な甘さとふわっと香る独特の香りが魚介類にとてもよく合います。材料はすべて国産で余計なものは入っていません。材料やつくり方だけではなく、島の海風やおばあたちの思いも深島みそのおいしさ、魅力の1つです。

深島みそは3日間かけて仕込む

 深島みそは3日間かけて仕込みます。1日目は麦麹づくり。まきを割りかまどにくべ、お湯をわかして麦を蒸します。1回に仕込む麦の量は100kg。蒸した麦に種麹を混ぜて丸2日温度管理をしながら寝かせます。3日目にはかまどでお米を炊き、大豆を炊いて麦麹と塩を混ぜ込みます。これが意外と力と体力が必要で、90歳にもなるばあちゃんたちがしていた作業とは思えないほどのものです。

 働き者のばあちゃんたちにとってみその仕込みは生きがいにもつながっていましたが、みんなが喜んでくれることがいちばんうれしかったようです。お金よりも、人が喜んでくれること、そして深島で楽しく生きていけることを幸せに思うばあちゃんたちだからこそ、製品化し守り継がれてきた深島みそがあるんだなあと思います。
 深島みそは、これまでの深島とこれからの深島をつなぐ大切な宝物だと思っています。

深島みそ開発の発端は「農村女性起業」

石垣と緑の段々畑
石垣と緑の段々畑(昔はてっぺんの木のところまですべて畑だったそう)

 深島では以前麦が栽培されていました。その麦を使いみそをつくっていたらしいのですが、今のようにお米や大豆は混ぜずに、麦麹と小麦を混ぜて1年ほど寝かせて食べていたそうです。じつは、深島みそを今の形に改良したばあちゃんいわく「赤くて硬い麦みそは好かん」とのこと。きっと、もっとこうしたらきれいでおいしいみそができる!と思っていたのだと思います。そのみそを実現したのが深島みそですが、そのきっかけは昭和後期から平成初期ごろに流行した「農村女性起業」と深い関わりがあります。

 この「農村女性起業」、私の修士論文の研究テーマでもあります。農村女性起業とは、「生産者の視点」と「生活者の視点」を合わせもった女性たちが、地域の特産品づくりや生活技術の発展・伝承に取り組む活動のこと。当時、田舎の女性の地位向上やコミュニティ形成などを目的に、全国的に漁協や農協の婦人部など女性グループの社会進出(なにかを商品化してお金を稼ぐこと)が進められました。深島を含む大分県の離島の婦人部も例外ではなく、それぞれの地域で特産物を商品化し販売する動きが活発になりました。なぜばあちゃんたちが「みそ」を選んだのか詳しいことはわかりませんが、「なにか商品化して売ってみないか? と言われたときにみそしかないと思った」と言っていました。

開発の発端は「農村女性起業」

 また、みそ生産施設をつくってもらったときに、なぜわざわざかまど炊きにしたのか?と尋ねてみました。かまどの方が火力が強く、麦もお米もおいしく炊き上がるのはもちろんなのですが、まきを使えばガス代がかからないこと、もしものとき(ガスがたりなくなったときなど)にもみその仕込みができることが理由だそう。

調味料として幅広く使える深島みそ

調味料として幅広く使える深島みそ

 私は麦みそではなく合わせみそで育ちました。初めて深島みそと出会ったときは使い方が分からず、家でおみそ汁をつくってもばあちゃんのような味にはならず、使いこなせないでいました。その後、ばあちゃんに教わったり、自分でいろいろ試してみたのですが、深島みそはおみそ汁以外の調味料としての使い方が幅広いことに気がつきました。

 おみそ汁以外のみそ料理を検索すると、みそ炒めやみそ煮などが出てきますが、深島みそでつくるとどれもコクが出るのに「みそ感」は出ず、みそ炒めやみそ煮が苦手でも食べられます。カレーやシチュー、スープなどの隠し味にしても、色が変わらずみそ感も出ないので本当におすすめです。酢みそはもちろん、マヨネーズと混ぜてディップソースにしたり、お肉につけて唐揚げの下味にしたり、ドレッシングをつくったり、和風でも洋風でもいけてしまう万能調味料なのではないかとすら思っています。

 ちなみにわが家では、深島みそ以外にも数種類のみそを常備していて、豚汁や貝汁のときには深島みそ、なめこや野菜のみそ汁のときは合わせみそや米みそなど、具材によってまた気分によって使い分けています。

深島のおもてなし料理「ぶえん汁」のつくり方

 ばあちゃんたちの得意料理、島のおもてなし料理といえば、ぶえん汁。島でとれた魚のアラを使った魚のみそ汁です。親戚が帰ってきたとき、友だちが遊びにきたとき、孫が帰ってきたとき、お客さんが来たときに出てくるぶえん汁は、島でとれた新鮮な魚を使います。子どもたちが釣ってきた小さなイシモチやホゴなどは下処理をしてそのままおみそ汁に。魚からだしが出るので、ほかにはなにも入れません。

「ぶえん汁」のつくり方
野菜を入れてもおいしい

【深島みそのぶえん汁レシピ】

<材料>
 魚のアラ(どんな魚でもOK) 適量
 深島みそ 1人分で20g前後

<作り方>
 ①鍋に水と魚を入れる
 ②鍋を火にかけ、沸騰したらアクをとる
 ③魚のだしが出たらみそをとく
 ④器によそい、お好みでネギなどをちらす

<コツ、ポイント>
魚は白身や青身がおすすめ。
島ではホゴ、クロ(メジナ)などを使います
キビナゴでも〇。
だしがよく出る魚のときはみそ薄めにするとおいしい。
みそはこしても、こさずにそのままといても〇。

 使う魚によって、つくる人によって少しずつ味が変わるぶえん汁。ぜひつくってみてください。

<写真・文/あべあづみ>

【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。