大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らすあべあづみさんに日々のことをつづってもらいます。今回は、島で獲れるイセエビと敬老の日について。
イセエビ漁が解禁、早速豊漁に
9月からイセエビ漁が解禁しました。早速、私たち(といっても夫とスタッフであるけいたくんの2人)も漁へ行ってきました。
イセエビ漁といっても、うちの場合は魚をとる網と一緒です。網を仕かける場所によって、とれる魚が違ったり、イセエビやセミエビがとれたりします。1つの網で50m~100m。網を小さな船にのせ、漁場につくと手作業で海に入れていきます。翌日の早朝、仕かけた網をまた小さな船であげるのですが、これも手作業です。大きな魚がかかっていたり、石に引っかかっていたりするととっても重たいそうです。
その後、これまた手作業で、網にかかった魚やエビたちを外していきます。複雑にからんでいたり、魚のヒレが刺さりそうになったり、エビに暴れられたり、島の人たちは簡単そうに外すのですが、一筋縄ではいかない作業です。
とれた魚はお刺身で食べたり、干物にしたり、深島みそのみそ漬けにしたり、アラはだしをとってだし入りみそにしています。
今年は初日からイセエビがたくさんとれて、大きいものは1kgを超えていました。市場に出すといい値段で売れるのですが、わたしたちは売ることはせず、島に泊まってくださった方の夕飯や、知人への贈り物にしたり、島のみんなで食べてしまいます。
ばあちゃんたちの大好きなイセエビのおみそ汁
深島では伊勢海老といえばお祭りでのおみそ汁。例年深島では毎年9月9日と1月9日にお祭りがあります。お祭りといっても、神主さんがきてくださり、みんなで宴会をする簡素なものですが、とても楽しみな行事の1つです。
そのお祭りに欠かせないのが伊勢海老です。9月1日に漁が解禁すると、夫を含め島のおいちゃんたちが毎晩エビをとる漁(建網漁)に出かけます。島のみんなでとる、島のみんなの伊勢海老です。
ばあちゃんたちはイセエビのおみそ汁が大好き。島ではお刺身や焼いたものよりもおみそ汁が人気で、そのため頭はすべておみそ汁に入ります。えびのダシと深島みその相性が本当に抜群で、深島に嫁いでよかったー!と思う瞬間でもあります。お客さんが来ていたら一緒に食べようと誘ったり、体調不良などで来られなかった人のおうちにはごちそうを持って行ったり、おいしいものやうれしいこと、お祝いごとなどはみんなでおすそ分けしあい、分かち合う。深島のすてきな習慣です。
ただ、島のだれかが亡くなった年などには行わず、またコロナの影響で近年はしばらく行われませんでした。昨年久しぶりにお祭りが行われましたが、今年はまた中止に。
中止になると島のみんなで行うイセエビ漁はしないため、島のおいちゃんたちは「たっちゃん(夫)、そこに網かけてイセエビとればいいやねえか(イセエビとったらいいよ)。お客に出しちゃれの(お客さんに出してあげなさい)」と言ってくれます。おかげさまで今、うちのいけすにはイセエビがいます。
このイセエビたち、深島にご宿泊くださった方に食べていただきたいと思っています。追加料金をいただく民宿などが多いですが、深島ではイセエビも普段みなさんが食べない魚も、そんなに区別はしていません。それぞれが「好き」なものが「いいもの」であって、市場価値が高いから「いいもの」というわけではないと思っています。
確かに、私も深島に嫁いで最初のイセエビこそとてもテンションがあがりましたし、今でも足まで分解して食べるほど大好きですが、「カツオの刺身と伊勢海老どっちがいい?」と選択を迫られれば、もしかするとカツオをとるかもしれません(笑)。
秋はおいしい魚がとれ始めるので、誘惑がたくさんです。
ごちそうを囲んで、みんなで過ごす敬老の日
先日の敬老の日には、ばあちゃんたちを新しくつくったcafeに招待し、イセエビなどの食事をふるまうことができました。ばあちゃんたちと子どもたち、みんなで食べるご飯は格別においしかったです。ばあちゃんたちにも喜んでもらえて、私たちも幸せです。カニやイセエビを食べるときは無言になりがちですが、子どもたちがいるからか「みて、ここ身がいっぱいある!」「足の身もきれいにとれた!」「おみそ汁おいしい」「おっきいイセエビ!」と会話も笑顔も絶えないとてもにぎやかな食卓となりました。
敬老の日、子どもたちはばあちゃんたちにアイスクリームのかわいいパフェをプレゼントしていました。「いつもありがとう」は照れくさくてなかなか言えませんが、こうやって年に数回でも感謝の気持ちを表す場を持ちたいと思っています。ばあちゃんたち、いつもありがとう。長生きしてね。
さて、夫がとったイセエビを深島に来てくださった方に食べていただきたい、と書きましたが「島の暮らし体験プラン」でご予約いただいた方には、いけすから好きなエビを選んでもらおうと思っています。また、お天気や海の状況次第にはなりますが、一緒に漁に行くこともできます。夕方網を入れて、朝早く起きて漁に行く、まさに深島の暮らしの一部をぜひご体感ください。大切な人とおいしいものを囲んで笑顔でいただく。そんな日常が深島にはあります。
<写真・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。