「天文の町」へ移住。プラネタリウム・プランナーとして活動する女性

30歳を目前に「海沿いに住みたい!」「一軒家でのんびり暮らしたい!」と考え、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住した女性が日々の暮らしや岡山県の魅力をご紹介。今回は、井原市美星町で地域おこし協力隊として活動するプラネタリウム・プランナーをレポート。

星空の楽しさを伝える女性が美星町へ移住

かわいじゅんこさん
星空をガイドするかわいじゅんこさん

 神奈川県逗子市で「宙(そら)の学校」を主宰する、かわいじゅんこさん。肩書は「プラネタリウム・プランナー」です。かわいさん自身が名づけたため、これを名乗るのは日本で一人だけ。星空を見上げる楽しさをたくさんの方に知ってもらうため、逗子を拠点に移動式プラネタリウムやワークショップの開催、講演など幅広く活動されてきました。

 しかし、新型コロナウイルスの影響でイベントの数は激減。そんななか、井原市で地域おこし協力隊(以下:協力隊)として活動していた友人からある日電話があったそうです。

「美星町で、星に詳しい人を協力隊で募集してるよ。応募するしかないでしょ!」

 もともとお母さんのご実家が井原市にあったかわいさん。「関東での今後のスケジュールもとくにないし、岡山県行っちゃおうかな」と軽いノリで移住を決めたのだそう。協力隊の面接を終え、2021年9月から美星町での協力隊の活動をスタートしました。

「天文の町」美星町。移住後の暮らしの楽しみ方

美星町の夜景
美星町の星空(写真提供:美星天文台)

「晴れの国」である岡山県は、別名「天文王国」とも呼ばれています。晴天の日が多いため星が見えやすく、また大気が安定しているので星の揺らぎが少なく、天体観測にも最適だからです。

 そのなかでも、岡山県南西部に位置する美星町は、天文台やスペースガードセンター(宇宙ゴミや地球に近づく可能性のある小惑星の観測を行う機関)を有し、「美星町」の漢字のごとく、美しい星を守るための施策が行われています。たとえば、道路沿いにある街灯。星空の光がよく見えるよう、街灯の光は下向きになるように設置されているのです。

 関東での生活が長かったかわいさんですが、今までと異なるスタイルの美星町での生活を楽しんでいます。海に囲まれた逗子とは一変、青々とした広大な山に囲まれた美星町での暮らし。いちばんの驚きは、野菜が安くておいしいことだったそうです。

 スーパーに行くのではなく、直売所などに出向き、旬のものを手に入れ「これを使ってなにをつくろうかな」と考えるように。「柿を干し柿にして『☆柿』としてパッケージにし、知り合いに配ったりしました」とお茶目でかわいいエピソードも教えてくれました。

 逗子に住んでいるときの移動手段は電車などが主でしたが、移住してからは車中心に。休日には県外にも足を伸ばし、趣味である博物館、美術館巡りを楽しんでいるそう。また、現在の住まいは築100年ほどのお母さんの実家。ここを修繕したい、あそこを整理したい、と考え始めると止まらず、家に手を加えることも移住暮らしの喜びになっています。

2拠点生活で行う、星に関する活動

取材中

 かわいさんの年間スケジュールは美星町と逗子、半々の2拠点生活。夏になると星空のイベント開催があり、逗子に帰る日数が多くなります。移動手段は車。その距離は合計約700km。なかなかハードな道のりと感じますが、逗子に到着し、壮大な海を見ると心が落ち着くのだそうです。

 移住先である美星町では、星に関することを中心に幅広く活動をしています。取材にうかがった日は、市役所の方をはじめ、同じく美星町で協力隊として活動されている方、天文関係の方々などと、月に一度天文台で行われる定例会のほか、11月に行う「星空保護区2周年イベント」や「天文宇宙検定」の打ち合わせ、雑誌の掲載記事に関するミーティングなどなど、星に関するスケジュールがびっしり!

打ち合わせ中

 夜には、美星町に星空を見にきたお客さんに向けての星空ガイドを行います。美星の広い空の下、星に関する豆知識や観察のポイントなど、おもいしろく、テンポよく、わかりやすく語るかわいさんの世界観にググッと引き込まれ、異世界へ迷い込んだような不思議な感覚におちいるほど。

 また美星町では、かわいさん以外にも「星の郷☆美星マイスター」と呼ばれる人たちがおり、星空を守る人たちの輪を広げるため、星空の魅力を伝える活動をしています。

移動式プラネタリウムとともに全国各地へ

移動式ドーム
移動式プラネタリウム

 さらに、かわいさんが主な活動としているのが2009年から個人で始めた「移動式プラネタリウム」です。空気でふくらむドーム型のテントを自家用車に乗せて移動することができるため、このプラネタリウムとともに全国各地を周られています。

 北は北海道から南は沖縄まで、設置場所はショッピングモールや学校、病院など多岐に渡り、たくさんの方々に星空の魅力を伝えています。

 2023年はドイツで初めてプラネタリウムが生まれて100周年の年。これを記念して、全校生徒50名以下の小学校を巡る活動を実施(しかも基本無料で行っているのだそう!)。現在、岡山県内を中心とした小学生に星空を体験してもらい、感動を与えています。

美星天文台
美星天文台(写真提供:美星天文台)

 11月11日・12日に東京ビッグサイトで開催される「デザインフェスタVol.58」ではブース出展し、天文王国おかやまと広島カープのコラボTシャツ、美星を題材とした手ぬぐいといった、天文関連グッズを販売予定だそう。

 積極的に活動を続け、周りの人たちにパワーを与える、まさに輝く星のようなかわいさん。「移住」といって1つの拠点に在住するのではなく、さまざまな地域へ出向き活動する、フレキシブルな生活の仕方にも魅力を感じますし、次はどんなイベントがあるのだろう、どんな企画をするのだろう、と常にワクワクを与えてくれます。

<取材・文> mamiko

mamiko
栃木県茂木町出身。大学時代は京都で暮らした後、大阪の老舗ヴィンテージショップにて販売員に。30歳を目前に、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住。ブログやSNS等で笠岡市の情報発信をしたり、地域交流イベントを開いたりなど、さまざまな活動を行っている。