大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民12人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らすあべあづみさんに日々のことをつづってもらいます。今回は、島の通学、通園事情について。
市役所と何度も打ち合わせた離島の登校問題
住民12人の深島には、保育園や小学校がありません。小学校中学校は休校扱いなので、ない、というのとは少し違うのですが、それについては今回の記事では言及しません。島で唯一の子どもであるうちの子どもたちは現在、小学校1年生と、5歳の年長さん、そして2歳です。長女は今年の4月から小学校に通い始めました。島の学校ではなく本土の学校に通っています。
本土の学校に通うとなると、船で片道約25分かかります。定期船で通うなら朝夕の送り迎えに2~3時間とられ、運賃もかさみます。自家用船で渡ることも不可能ではありませんが、1日4000~5000円の燃料費がかかります。その都度仕事場から離れるわけにもいかず、いずれにせよ現実的ではありません。
時はさかのぼること約8年前。長女がおなかにいるときに「学校どうするか」問題の話し合いが始まりました。
休校になっている学校を再開するのか、本土の学校に通うのか、引っ越すのか、再開するとしたらどんな形で、通うとしたらどうやってなど、じつに6年をかけて、何度も話し合いました。教育委員会も市役所も担当の方が何回か変わり、その度に同じ説明を繰り返し、なかなか進まなかったことが本当にむずがゆく大変でした。
イライラしたり、もどかしい気持ちになったり、なげやりになってしまったりもしましたが、島の人たちも一緒に考えてくれたり、休校になっている学校の閉校を訴えたり、島のみんなの問題として話してくれたことで、なんとか島で暮らす親としての責任を負うことができたのかな、と思います。子どもたちのことを思ってくれる島のみなさんに感謝です。
結局、本土の学校に通うことになり、通学には定期船が出てくれています。朝7時頃に深島を出る、学校へ行くためのスクール便です。帰りは夕方16時に蒲江を出る第4便に乗って帰ってきます。
本土の学校は数年前に統合し、旧蒲江町でひとつの小中一貫校になりました。そのため、遠方の子どもたちはスクールバスで登下校しています。長女は定期船のスクール便で蒲江につくのが7時40分頃。定期船乗り場付近のこどもたちは徒歩での通学ですし、スクールバスは対象外。なので、特別にコミュニティバスを利用して学校に向かいます。学校まではコミュニティバスで10分ほど。朝のコミュニティバスは佐伯市内の病院に通うおじいちゃん、おばあちゃんがよく利用しているようで、運転手さんも含めて何回か乗ればもう顔見知り。こうやって、みんなで見守ってくださったり、気にかけてくださったり、昔とは形は少し違っても、地域で子どもを育てる、という言葉がしっくりきます。
島の子育て世代が直面するさまざまな負担
一方、下の子2人は本土のこども園に通っています。小学生未満は子どもだけで定期船に乗れないので、大人の付き添いが必要です。わたしたちがみその配達や買い出しで出るときは一緒に、それ以外の日は蒲江に住む祖母(夫の母)が送り迎えをしてくれます。
ただやっぱり、それは今のわが家だからできること。今後、ほかの家族が島で暮らしたいと思ったとき、うちの子どもたちが大人になって島で子育てしたいと思ったとき、蒲江に頼れる人がいなければ、成り立ちません。
学校に関しても、中学生になって部活を始めたら帰りの定期船に間に合いません。「部活は学校の活動とは別」という認識で、スクール便は部活には合わせてもらえません。島だから仕方ない、と諦めることは簡単ですが、そこで諦めてしまったら深島の未来をつぶしてしまうことになるかもしれない。私たち以外の子育て世帯が移住したいと思ったとき、少しでもさまたげになるものは改善しておきたい、と考えています。
現在、こども園の送迎と中学生の帰宅時間の2つが通学、通園問題の大きな課題です。じつはこの問題、島だけでなくほかの中山間地域や都市部でも起こっていることではないかと思います。当事者ががんばればなんとかなる、家族のうちだれかの働く時間を調整したり、仕事を変えれば、金銭的負担をすれば、そんなふうに各家庭で工夫してちょっと無理をして対応している方も多いと思います。
私たちがなんとかしているからこそ進んでいかない問題でもあるような気がします。困ってはいるけど苦言を呈していいものかわからない、そもそも要望として伝える場所がわからない、そんな時間もない、そう考えるご家族も多いのではないでしょうか。
実際に、まわりのお母さんたちと話すとこども園にも送迎バスがほしいよね、とよく聞きますが、市役所に行って担当の方に話しても「そんな要望はあべさんからしかでていない」とはねのけられてしまいました。
この町で育ててよかったと思える地域づくりを
過疎地域では人口の流出が問題になっていて、移住政策や生活インフラの整備が進められています。子育て世帯のサポートや教育環境もその一つではありますが、その前に「通いやすい」「通うためのサポートがある」を整えてもらえたら、もっと子育て世帯も残る。子育てをする親の目線で整備を進めていけば、子育て世代にやさしい町をつくっていけるんじゃないかなぁと、勝手ながら思っています。
人を増やそうとしてもこれからは人口減少の時代。人を増やすよりも、人が少なくなっても安心して暮らせる町をつくっていくこと、まずはこれからこの地域で暮らす、育っていく子どもたちとその親の負担を減らし、ここで育って(育てて)よかったと思える町づくりができるといいなと思っています。
「島だから」声をあげやすいということを最大限に活用して、「島ができたんだから」と市内のいろんなところにサポートを広げていけたら最高だなと思い、佐伯市が子育てしやすい町になるようひとりでも声をあげていきます。
しんどいことも、やめたくなることも、わが家が諦めればそれですむこともたくさんありますが、諦めてしまったらきっと20年後深島は無人島になってしまう。もっとたくさんの小規模集落がなくなってしまう。諦めないで伝え続けることが、未来のためになるはずだと信じて、これからも伝え続けていきます。
余談ですが、小学校もこども園も、児童の人数が少ないからこそかもしれませんが、先生たちとの距離も近く、とてもよくしてもらっています。困ったことがあったとき、天候が悪くて行けそうにないとき、子どもたちの特性、いろんなことを相談したりお話ししたりできることは、子どもたちにとってもわたしたち親にとっても本当にとてもいい環境です。小学校ではオンラインでも授業を受けられるため、長女は天候が不安定なときは島で授業を受けています。こども園でも「今日は波大丈夫だったー?」「台風きてますねえ」と島の事情を一緒に考えてくださり、まわりの環境に恵まれているなあとあらためて感じています。
<写真・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。