きらびやかな獅子舞が楽しい。移住した呉市倉橋島で「鞴祭り」に参加

広島県呉市の倉橋島へ地域おこし協力隊として移住した前中詩織さん。2023年3月に3年間の任期を終え、そのまま定住することに。今回は島で受け継がれている伝統の祭をレポート。

毎年11月に行われる獅子舞「鞴祭り」

獅子止め
広場で舞う獅子とそれを退治する獅子止

 11月5日はよく晴れた日曜日。呉市倉橋町灘地区で伝統のお祭り「鞴(ふいご)祭り」が行われました。鞴とは、鍛冶屋さんが火を起こすための送風機のこと。石材産業が盛んだった灘地区では石を加工するノミを1日1回は鍛冶屋さんに鍛えてもらう必要があり、その火を起こすための鞴がなくてはならないとても大事なものだったそうです。

 そして、石材の仕事は大変危険がともなう仕事であることから、桂濱神社(倉橋町にある国の重要文化財)の分祀として灘地区にある石山神社をまつり、その神事としてこのお祭りが行われています。

 また、祭りで行われる獅子舞は、勢いやすごみを感じさせる迫力ある舞い。昭和10(1925)年から行われているそうで、愛媛県の大三島にある大山祇神社(おおやまづみじんじゃ)の獅子舞を、愛媛出身の石工さんが取り入れたものなのだとか。

137段の石段の上にある「石山神社」

石山神社
石山神社での神事の様子
獅子舞が奉納
神事の後は境内で獅子舞が奉納される

 当日は早朝から準備が行われます。私もありがたく役をいただき、衣装も用意されました。1人ではうまく着られず、何人かに手伝ってもらいながら、私の役「ひょっとこ」が完成しました。さぁ神社へ上がります!

 目指す先の石山神社には、137段もの石段が! 少し傾斜もきつめなので手すりがついているのがとてもありがたい。みんな登ってきたときは「はぁ疲れた」と声が漏れてしまうくらい(笑)。でも、春はとても桜がきれいに咲く絶景スポットでもあるので、ぜひその時季にも訪れてほしい場所です。

 そして午前8時30分、祭りの衣装を着て神社の境内に集まり、神事が始まりました。静かな空間に神主さんの祝詞と太鼓の音が響き厳かな雰囲気が漂います。無事に神様への神事が終わると、いよいよ灘地区の獅子舞の始まりです。

きらびやかな衣装とドラマチックな舞いが魅力

獅子と獅子止の闘い
獅子と獅子止の闘いの終盤の様子

 この獅子舞は物語になっているのがおもしろいところ。悪魔や災いとされる「獅子」が猛り狂い神様を襲おうとします、それを「獅子止(ししどめ)」と呼ばれる神の使者が退治。その様子をドラマティックに舞い、表現しています。

 獅子の舞いは力強く、本当に生きているような動きで舞います。中に入る人によっても獅子の性格が変わり、何度見ても飽きないのが灘地区の獅子舞なのです。昔は、今よりも舞う時間が長く酸欠になることもあったとか!

 それほどまでの熱のある舞いと、パーティ仕様かと思うほどきらびやかになる姿にも驚き。キラキラの飾りと一緒に獅子の体についている小さい丸いものは、「申(さる)」と呼ばれる地域の方がひとつひとつ手づくりしているもので、獅子の体から落ちたものを拾うと厄除けになるそうです。

地区内をまわり悪魔祓いと獅子舞を奉納

鬼、ひょっとこ、獅子止、獅子
前から鬼、ひょっとこ、獅子止、獅子

 またこの獅子舞には獅子や獅子止のほかに、鬼やひょっとこも登場します。その役割は、獅子が舞うときは獅子をあおったり獅子止を守ったりする役。そして、灘地区の家をまわり、鬼とひょっとこ、獅子が玄関先で行う「悪魔祓い」にも参加します。

「しゃぎれ~!」の声を合図に太鼓の音が響き「悪魔祓いー!」と言いながら鬼とひょっとこは手に持つ棒をゆらし鳴らし、獅子は体を揺らし悪魔祓いをします。

広場での獅子舞
広場での獅子舞。笛や太鼓もお祭りには欠かせない

 島なので、家が海のほうにも山のほうにもあり、風景を楽しみつつクルマで移動。それぞれの家で悪魔祓いをした後、広い庭や広場で獅子舞を奉納し、最後に石山神社の石段の下に戻り、獅子舞を行って祭りは終了となります。

伝統の祭りを絶やさない努力

獅子の舞を指導
獅子の舞を熱心に指導

 練習は2週間前から始まります。今年は新しく獅子になる人もいて練習も熱が入っていました。島外へ出ている方も戻ってきて参加したり、ほかの地域にも呼びかけ参加をしてもらい「やめんように続けていきたい」と地域の方が伝統を守る努力されています。

 私はお世話になっている灘地域の方に誘ってもらい去年から参加。この祭りを大事に思うお話をたくさん聞き、私自身が祭り好きなこともあり、楽しんで参加しています。まったく倉橋町にゆかりもなかった移住者の私を受け入れてくれるのもありがたいことですし、この獅子舞は地域の大切な伝統だと思うので今後もお手伝いしていきたいです。

厄除けの“申”
祭りの後いただいた厄除けの“申”

 祭りの後、獅子についていた申もいただきました! 玄関につるして飾っています。地元の祭りにないものなので、こういった祭り後も楽しさが続く工夫は興味深いと思います。

<取材・文・写真/前中詩織>

前中詩織さん
兵庫県出身。広島県最南端の島、呉市倉橋町の元地域おこし協力隊。大阪でグラフィックデザイナー、兵庫ではガラス工場で商品を製造。地域おこし協力隊を退任した後も島に住み、イラストやモノづくりといった得意分野を生かし、倉橋町の魅力を楽しく発信している。