「芸術家と子どもをつなぐ」笠岡市キャンドルアーティストの取り組み

30歳を目前に「海沿いに住みたい!」「一軒家でのんびり暮らしたい!」と考え、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住した女性が日々の暮らしや岡山県の魅力をご紹介。今回は、笠岡市神島に自身のアトリエをもち、岡山市内で子ども向けの絵画工作教室を開くキャンドルアーティスト・平山りえさんをレポート。

子育てをきっかけに故郷の笠岡市へ

平山りえ
キャンドルアーティストの平山りえさん

 笠岡市出身のキャンドルアーティスト・平山りえさんは、以前は大阪、東京の都心でウェブデザイナーや小学校の教員として働いていましたが、妊娠をきっかけにフルタイムでの働き方が難しくなり、2008年に当時の仕事を退職しました。

 時間に余裕ができ「大人になって習いごとをするなら今だ!」と思った平山さん。当初はプリザーブドフラワーを習うつもりでしたが、習いごと・資格スクールの情報誌を見た際に、「珍しい習いごと特集」で紹介されていたキャンドルに興味をもつことに。

 その頃は、キャンドルの教室自体がかなり珍しく、東京で3件、大阪で2件ほどしかなかったそう。当時住んでいた大阪のスクールへ通い始め、キャンドルの技術を習得していきました。

愛用の制作道具たち
愛用の制作道具たち

2011年、まだ幼い子の子育てをするうえで、ご両親のいるまちに一度帰って今後の仕事や生活を考えよう、と地元笠岡市へ帰ります。
「都会にしか住まないつもりでしたし、一度帰るつもりがこんなに長くいるとは思わなかったです(笑)」(平山りえさん)

 代わり映えしない毎日よりも、刺激的でさまざまな情報があふれている都会に魅力を感じ、都心での暮らしが長かったため、20年ぶりに帰ってきた笠岡市は知り合いも少なく、自分のことを知らない人たちばかり。
 家業を手伝いながら「せっかくキャンドルを習ったのだし、地元の人たちと仲よくなるきっかけにもなって、少しでも自分も住みやすい環境にしたい」と実家の2階でキャンドル教室をスタートさせました。

 その後、現在のアトリエ兼スクール「Liriel candle design(リリエルキャンドルデザイン)」を笠岡市神島にある祖父母の家を改装しオープン。また東京にも同名のスクールをオープンし、月に2回、トータル10日間ほど東京で活動する2拠点生活を行うことに。

地元キャンドル教室から作家へ転身

光をまとうキャンドル
やさしい光をまとうキャンドル

 そんな平山さんに新たな転機が訪れます。自身のキャンドル教室を周知するために、広島県福山市で開催されるハンドメイドイベント「ふくやま手しごと市」に出店したときのこと。岡山県倉敷市にある大原美術館ミュージアムショップでの商品企画の声をかけられたのです。

 企画の内容は「モネの『睡蓮』を模した、透明感のあるガラスのような、ほかにはないキャンドル」というかなり難易度の高いもの。「普通そんなことできないよ!」と思いつつも、試行錯誤を重ねた作品は無事完成! また、平山さんはこの作品ができるまでの過程をSNSにアップし続けていました。

 すると、SNSを見た福山市の老舗ギャラリーショップからコンタクトがあり、個展を開催する運びに。さらに、その個展をきっかけに三越や伊勢丹など、百貨店での展示をすることに。
 もともと人にものごとを教えることが好きで、キャンドル教室を始めた平山さんでしたが、作家として個展を行うようにもなっていきました。

子どもと芸術家をつなぐ絵画工作教室

美しい作品
幻想的でレトロな、美しい作品たち

 作家として、スクールの教師として、活動を行っていましたが、コロナ禍になると2拠点生活が難しくなり一度東京のスクールを閉め、今後の活動について考えていたなか、子ども向けのアロマストーン本の出版依頼が。もともとレトロなデザインや渋い色が好きだった平山さんにとって「子ども目線のかわいいってなんだろう?」と悩み、作品をつくるのがかなり大変でした。

「自分の子どもたちに作品を見せて『これってかわいい?』と何度も聞きました」と話す平山さん。2021年に発行されたこの本をきっかけに、それまでは大人向けの教室を開いていましたが、子どもを対象にしたことも今後はできるかもしれないと感じたそうです。

 そして、自分のもつものづくりの技術や、これまでに知り合った作家さんたちとの出会いを生かし「本物の作家さんと子どもをつなぐこと」を始めていきます。

3つの拠点で創作活動

図工キッズ
図工キッズでの制作の様子

 岡山県内のプロの芸術家に声をかけ、立ち上げたのが「図工キッズ」です。岡山市内にあるこの教室ですが、当初は地元でありアトリエもある笠岡市でオープンしたいと思っていました。しかし人口比率を見たときに、笠岡市では何人の生徒さんが集まるのか? ビジネスとして成り立つのか? と考え、泣く泣く断念。

 現在、図工キッズに通う生徒は、ホームページを見て来てくれた子が大半ですが、オープン時は近所の子どもたちにチラシを2000枚ほど手配りしたのだそう。今では、通っている子どもの保護者からは「ほかの習いごとは続かないけど、ここは続いてるんです!」とうれし言葉をいただくことも。

子どものペイント
子どもたちは自由な発想でペイントする

「たとえば、ほかの教室では級や段があったりしますが、図工キッズでは到達や段階などがないので、子どもはやりやすいのかなと思います。評価されることもないし、つくるものもこれが正解! というものはなく、とにかく自由につくってみよう! アイデアが浮かんだらどう表現するか、なんとかする方法を考えよう! ということを伝えます。自由ななかでものごとを進める習いごとは、ほかにはないのかなと思います」

作品
図工キッズの生徒たちが作った作品

 現在は図工キッズ、笠岡のアトリエでのスクール、東京でのスクール(オンライン授業)を並行して行っています。住む場所や活動する場所、仕事の幅や自分の可能性など枠にはまり1つに捕らわれるのでなく、柔軟に視野を広く持つ平山さんだからこそ、人との縁やタイミングを大切に感じることができるのでしょう。

 このスクールをきっかけに、新たな可能性を生み出すクリエイターが生まれるかもと、思うとワクワクが止まりません。

<取材・文> mamiko

mamiko
栃木県茂木町出身。大学時代は京都で暮らした後、大阪の老舗ヴィンテージショップにて販売員に。30歳を目前に、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住。ブログやSNS等で笠岡市の情報発信をしたり、地域交流イベントを開いたりなど、さまざまな活動を行っている。