ごちそうはゆで卵入りの茶わん蒸し。住民11人の深島で過ごすお正月

大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民11人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らすあべあづみさんに日々のことをつづってもらいます。今回は、深島で過ごす年末年始をご紹介します。

島での年越しは網漁、もちつきでにぎやかに

年末年始の深島の様子

 深島で暮らすようになる前、お正月は毎年わたしの祖母の家に行っていました。今でも数年に1度は祖母の家に家族でお邪魔して過ごしています。祖母の家ではおせちを一緒に詰めたり、お正月飾りをしたり、こたつでゴロゴロしたり、ミカンを食べたり、箱根駅伝を観たり、そんな年末年始を過ごすことが多いですが、今回は深島での年越しでした。

カワハギの皮を剥ぐ

 普段過ごしている場所と変わらないからなのか、年末年始のせわしなさが見えないからなのかわかりませんが、深島にいると変わらず年末が差し迫っている感じがありません。故に仕事納めも大掃除もテキトー、どころかしていません。
 ただ、来客が増えるのでじーじ(義父)と夫、島に帰省中のけいたくん(11月でいったん島を離れました)、親戚のおじさんで2日続けて網を仕かけにいきました。

 子どもたちも冬休みのため、朝からわいわい。初日はあまり魚がとれなかったのですが、2日目は大量で魚をさばくのも1日がかりでした。子どもたちもカワハギの皮はぎをお手伝い。

カワハギの皮剥をお手伝い

 30日はおもちつき。数年前まではばあちゃんたちが機械でついていましたが、子どもたちが生まれてから復活した行事です。わが家と松下家2軒分の鏡もち(ばあちゃんたちは「おすわり」といいます)と、あんこもちやヨモギもちをつくります。ほぼ1年分のおもちができ上がります。

 ばあちゃんたちも、子どもたちも、親戚も帰ってきてみんなでわいわいする1日。昔もこうやってみんなでおもちをついてたのかなぁ、子どもたちの声が島に響き渡っていたんだろうなぁと、思いをはせる日でもあります。
 余談ですが、深島のおもちは大きい! 2つ食べたらおなかいっぱいになるくらいの大きさです。

深島のおもち
できたおもち

 大晦日にはみんながばあちゃんちに集まって、ご飯を食べてのんびり過ごしました。

ソーラン節を披露する子どもたち
ハマっているソーラン節を披露する子どもたち

深島のごちそう、ばあちゃんの茶碗蒸し

ばあちゃんの茶碗蒸し

 深島のごちそうといえば「ばあちゃんの茶碗蒸し」。具だくさんでとってもおいしくて、島の人もみんな昔から大好き。初めて食べたときは具の多さと、茶碗蒸しの中から出てくるゆで卵にびっくりしました。
 ほかの地域でもびっくりする具を入れるところがあったりするのかな? お正月にはカラフルな「ふ」とゆり根が加わりいつもに増して具だくさんです。

 夜はのんびりしながら、11時半ごろにみんなで年越しそばを食べて、12時を迎えたら「今年もよろしくお願いします」とお互いに頭を下げて、すぐに解散します。元気があれば深島大明神へ初詣に行くのですが、この日は親戚の家族1組が初詣に行っただけでした。

 初詣といっても、とくに大明神でなにかあるわけではなく、ちょうちんに電気が灯るくらいです。ほとんどの人は1月1日の午前中にそれぞれ自分のタイミングで、もしくはだれかを誘って、「今年もよろしくお願いします」と手を合わせに行きます。

いつものように過ごす子どもたち

 お正月も元気に遊びまわっていた子どもたち。凧あげをしたり、釣りをしたり、いつものように過ごしました。お正月ならではの風景や習慣のようなものは少なく、お正月感も新年な感じもあまりしない深島ですが、「日常」の営みのなかで粛々と続くこの暮らしがとっても居心地よく、大好きです。

<写真・文/あべあづみ>

【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。