三重県南部の海沿いの町、尾鷲市に地域おこし協力隊として移住した郷橋正成さん。移住コンシェルジュとして日々奮闘していますが、そんな日々で出会った人や出来事をつづってくれます。今回は、大阪で飲食店を経営しながら、週末限定のお店を尾鷲で開いたご夫婦に話をうかがいました。
平日は大阪、週末は尾鷲でお店を経営する2拠点生活
今回ご紹介させていただく移住スタイルは、尾鷲と大阪での2地域居住です。しかも、両地域で飲食店や民泊を経営される敏腕っぷり。
ビジネス的な観点からも尾鷲を見ていただいている。そんな羽尾ご夫婦にお話をおうかがいしました。
羽尾さんは、大阪市北区にて創作和食の店と特区民泊事業を経営するかたわら、2019年11月には尾鷲で週末特化型の飲食店「ほんじつのさかな」を開業されました。
奥様のご両親が尾鷲にご在住で何度も尾鷲を訪れられるなか、年々さびしくなっていく漁村をもどかしい気持ちで見てこられたという。
「立派な建物だなー、いい街並みだなーと、眺めていた趣のある建物も徐々に失われゆくなかで、なんとか尾鷲でできるることはないか、という思いは大きくなっていきました」
尾鷲をアピールできるものとして目をつけたのが「魚」でした
常に尾鷲にいられるわけではないが、週末のあいた時間にできること…。なにより継続可能なチャレンジとして、ご主人の得意分野でもある飲食での勝負を決意されるまでにさほど時間はかからなかったそう。
それからは、気になっていた古民家を巡り大家さんを探したり、どのような料理を出すかなど考える日々。そんなちょうど1年ほど前に私たちが運営している、サブリース物件を見に来ていただいたのがご縁の始まりです。
「大変ですねー。移動が大変では?」という質問には、ご主人のおもしろい回答がありました。
「楽しめるかどうかに重きを置くんですよ。運転も好きだし、なにより空間を変えるってのは最高のリフレッシュですね。最近は3時間半かけて、あえて下道での移動をすることも。高速を使わないで移動していると新しいことを思いついたり、いいお店を見つけたり。今回もすてきなストーブを売っている店があって寄り道してきました」
自分は先入観から経営者は移動時間を嫌うイメージがありましたが、ご主人には当てはまらないご様子。尾鷲での開業を楽しまれているのも納得がいきました。
「みんながみんなそうではないけど、名古屋からだったらもっと近いわけだし、こんな働き方したい人、まわりにはたくさんいますよ」
「はたから見ればなにもない田舎ってよくいわれますが、一歩踏み入れればそこには都会にはないものがたくさんあって。私にとっては魅力があふれてますよ」
2地域を行き来することで再確認できる広い視野。住んでいると忘れてしまうような魅力があるのだと思いました。
店舗になる古民家を決められてからは、週末尾鷲に通いつめる日々。しっくいの壁塗りや床張り、外壁塗装などほぼすべての改装をDIYで手がけられました。
「しっくいとかは初めてやったんですが。今はネット上に先生がいますからね。こういった改装も楽しめると思ったのが、この物件を選んだポイントの1つ」
楽しめるかどうかに重きを置く。ご主人のおっしゃっておられた言葉が行動のすべてなんだと感じました。
大阪で経営されているゲストハウスは欧米からの旅行者が多く、年々ゲストのニーズがコアになってきているとご主人は話してくださいました。よりディープな日本を求め、訪日観光者が田舎に進出するのは必須であると。
「大阪でゲストハウスを始めた頃は、近所の方も不思議そうな顔で旅行客を見ておられたんだけど、今では町の方が折り紙を教えてくださったり、すごくいい関係が築けています」
今後は尾鷲でゲストハウスの開業も検討中ということで、そのためには行政的な町の整備が必要と教えていただきました。尾鷲の町の人たちと訪日観光客がコミュニケーションをっといる場面を想像すると、なんともほほえましい光景だと思います。
自分たちも定住や移住をテーマに活動していて、よく目の当たりにする「田舎には仕事がない」といった問題。ご主人に話を聞いていると「田舎で仕事をつくる」ということにさほど大きなハードルは感じないように思えました。そしてなにより自分次第なのだと。
ご主人がおっしゃるように「だれにでも当てはまるわけではない」ですが、田舎には起業といったチャンスがたくさんあるのかもしれません。今回は、ビジネス的な観点も含め、尾鷲での2地域居住を始められたご夫婦に暮らし方をうかがいしました。皆様のライフスタイルに響くものがあれば、と思います。
郷橋正成さん
京都出身の30代。リゾートスタッフ、漁師、サラリーマン、家具職人などを経て2018年8月から尾鷲市の地域おこし協力隊に。現在、おわせ暮らしサポートセンターで活躍中。