常陸大宮市で「悶絶マラソン」開催。険しいコースと癒しの湯でおもてなし

茨城県常陸大宮市の地域おこし協力隊として東京都から移住した谷部文香さんは、2年間の任期を終え、そのまま定住することに。今回は、常陸大宮市諸沢地区で行われたマラソン大会と温泉施設についてレポート。

開催場所は山あいにある、自然豊かな諸沢地区

案内看板
岩井橋を渡った先にある、三太の湯とモロサワキャンプ場の案内看板

 常陸大宮市の山あいに位置する諸沢地区は、市の中心地から車で約30分、清流・久慈川にかかる岩井橋を渡り、しばらく車で向かった先にあります。

 はるか遠くに富士山も一望できる大パノラマが広がる休場(やすんば)展望台や絶景が見られる籠岩(かごいわ)などがあり、自然豊かな場所として知られています。

ミツマタ
ミツマタ群生地。春の訪れを告げる花で黄色い花が咲き乱れる

 道端には四季折々の花や木々が見られ、とくに春は、桜や菜の花がとてもきれいに咲いています。また、和紙の原料としても知られるミツマタの群生地も。すべて地域の方々が何年もかけてていねいに手入れをしてきたのだそうです。

アップダウンの激しい「諸沢悶絶マラソン」

休憩スポット
マラソンの途中にある休憩スポット

 そんなのどかな諸沢地区で2024年4月に開かれた「諸沢悶絶マラソン(通称:MMM)」。今回が2回目の開催となるこのマラソン大会は、諸沢地区の区長さんと諸沢を気に入った主催者が地区内にある「モロサワキャンプ場」で出会い意気投合し、諸沢の山道をフィールドにした、交通ルール遵守の有志によるマラソン大会に発展しました。

 前年は、25人程度だった参加者も、今回は70名近くに! マラソン大会への期待も高まっています。

ランナー
ランナーは、県内のマラソン大会で好記録を叩き出す猛者ばかり

 スタートとゴールは、諸沢西地区センター前。主催者から競技説明、区長さんからあいさつのあとに参加者と地域住民がセンター前に集合し、記念撮影を行いました。午前8時、クラッカーの音とともにランナーが一斉に出走。あいにくの小雨でしたが、元気よくスタート!

林道
諸沢悶絶マラソンのコースの一つ、林道ヤブ沢線

 そもそもなぜ「悶絶」なのかというと、整備された道ではなく、基本的に上りと下りばかりのアップダウンの激しい山道をひたすら駆け巡るコースだから。

トンネル
諸沢悶絶マラソンのコースの一つ、地割(写真提供:諸沢地区住民)

 岩山が大きく割れていることに由来する「地割」と呼ばれるエリアを通るなど、最後まで険しいコースが続きます。全長約30kmのマラソン大会ですが、トレイルランニング大会といったほうが近いかもしれません。

MMM
地域住民が手づくりした「諸沢悶絶マラソン(MMM)」案内看板

 似たような山道が続くこともあり、ランナーが道に迷わないよう、ポイントごとに地域住民やスタッフが案内係として立っています。また、地域住民お手製の「MMM」の看板もあり、アットホームな雰囲気も感じられます。

「悶絶」コースを楽しむだけでなく、諸沢地区の手が加えられていない豊かな自然や地域住民によるおもてなしが、このマラソン大会の醍醐味でもあります。

ウマ
柵ごしからランナーに伴走しようとするサービス精神旺盛なお馬さんも(写真提供:諸沢悶絶マラソンスタッフ)

 諸沢にある牧場では、かわいらしいお馬さんがランナーをお出迎え。

 マラソン後半に位置する老人ホームでは、ランナーへの差し入れを準備したり、入居者の方々が手づくりの旗を振り太鼓をたたいて応援したりして、地区全体でマラソンを盛り上げようという思いが伝わってきます。

1位
第1位のランナーがゴールする瞬間(写真提供:諸沢悶絶マラソンスタッフ)

 ゴールでは、おはやしとともに南京玉すだれでランナーを歓迎するなど、地域住民のさまざまな工夫も感じられたマラソン大会でした。ランナー全員が無事完走するも、1位と最終ランナーの時間差は約3時間10分。まさに、険しい「悶絶」コースだったといえます。

マラソンのあとは、三太の湯で疲れをいやす

サンタの湯
やまがたすこやかランド 三太の湯の入口

 マラソンのあとは、諸沢にある温泉施設「やまがたすこやかランド 三太(さんた)の湯」で多数のランナーが疲れをいやしました。

 肌がスベスベになる美人の湯として知られる三太の湯。市民のみならず県外からも多くの人が訪れる人気の温泉施設です。施設内には、ローマ風の柱が特徴の東館と洋風のつくりが特徴の西館があり、四季折々の美しい自然を露天風呂から楽しめます。

弁当
三太の湯から配られたおにぎり弁当

 今回のマラソン大会開催にあたり、ランナーとスタッフ全員に、三太の湯からおいしいお弁当が配られました。

 そもそも三太の湯という名前は、やさしい巨人・三太伝説から命名されています。昔から各地に「だいだらぼう」または「だいだらぼっち」などと呼ばれる大男の伝説が存在しています。この伝説は、最初は村人から恐れられていた大男が、村のための力を貸すことで次第に村人から親しまれるようになるものの、いつの間にかどこへ行ってしまうというお話です。

石像
三太の湯の目の前にある、巨大な三太の像

 その昔、この辺りが諸沢村だったころ、三太という大男があらわれて、険しい斜面の開墾に精を出す村人たちの手助けをしたという話が残っています。三太伝説は、一人だけの力ではなく、多くの人たちが力を合わせてできることの大切さを伝えているのだそう。

 今回のマラソン大会も、主催者のみならず地域住民のおもてなしなど、多くの方の協力があってこそ実現できたのだと思います。第3回目の開催がさらに盛り上がることを期待したい! そして、マラソンをしなくても日々の疲れをいやしに、観光のついでに、ぜひ三太の湯にも足を運んでもらえるとうれしいです。

<取材・文・写真/谷部文香>

谷部文香
東京都八王子市出身。都内の大学を卒業後、介護職や学芸員を経験。ライターとしても活動をするように。大学で歴史学を専攻し、お城や地域文化を研究するなど、根っからの歴史好き。2021年に茨城県常陸大宮市へ地域おこし協力隊として移住し、地域の方々を取材・発信する。任期終了後、そのまま定住し、現在はフリーランスのライター・広報として、茨城県と東京都を中心に活動中。