鹿児島県の離島・与論島で地域おこし協力隊として働く小倉有希子さん。今回は、与論島で年に3回行われている国指定重要無形民俗文化財の「与論十五夜踊り」をご紹介します。
与論島で満月の夜に行われる「十五夜踊り」
毎年、旧暦の3月、8月、10月の年3回、十五夜の夜に行われている「与論十五夜踊り」。2024年は4月23日に与論島の地主(とこぬし)神社で開催されました。与論十五夜踊りは、嶋中安穏(島の安寧)や五穀豊穣、無病息災を祈り捧げるお祭りで、祭りが始まったとされる1561年から約460年受け継がれてきました。1993年には国の無形民俗文化財に指定されています。
踊り子たちは、一番組と、二番組で構成されます。一番組はお面をかぶり、二番組は頭巾をかぶり顔面を隠すことで神様の使いとなり、合同で踊る「雨(あみ)たぼうり」という雨ごいから始め、一番組、二番組がそれぞれの踊りを交互に披露します。一番組は、能や狂言を取り入れられた大和風の踊りを、二番組は、奄美群島や琉球の芸能を取り入れた踊りを、それぞれいくつかの演目で神様に奉納します。
今回は、約40年ぶりに披露される踊りもありました。
本土と琉球の文化が入り混じった構成は、鹿児島県最南端に位置する与論島だからこそつくられた、ほかにはない特有の文化です。
また、踊りのなかで使われる言葉には、与論の方言「ゆんぬふとぅば」が取り入れられています。与論島の方言は、沖縄や鹿児島の方言とも異なり、とても独特です。そのため意味を理解するのは難しいのですが、想像しながら踊りを理解しようと試みるのも楽しみ方のひとつです。
存続の危機を越え、伝統行事をみんなで受け継ぐ
460年受け継がれてきた十五夜踊りも、ずっと順調に継承されてきたわけではありません。踊り子や島民の参加者の減少などから、存続の危機がささやかれた時期もありました。
そのような状況を打破するために、これまで続けられていた踊り子の世襲制の緩和や、保存会の設置など、さまざまな対策が取られています。現在では、移住者も踊り手に志願することができるようになり、島民とともに島の伝統文化を受け継ごう、ということになりました。平成9(1997)年には13名まで減少した踊り子も、2023年度時点では20名を超え、平均年齢も10歳以上若返るなど、継承に向けて明るい兆しが見えています。
また今回、町内の中学生も海洋教育(※)の授業の一環として十五夜踊りの見学にきていました。事前授業として、実際の踊り手から与論十五夜踊りについての講話を受けたうえでの見学。授業内ではQ&Aでたくさんの質問が出ていました。「なぜ仮面をかぶるの?」「なにを目的として行われているの?」。また、なかには、「十五夜踊りを今まで見たことがない」という子も。事前講話の内容を振り返りつつ、実際に踊りを見学することで、もっと島の伝統芸能に興味や関心をもってもらえたら、と期待をいだきました。
(※島から出たあと、社会を生きていく力を育成するための地域と連携した協働的な探究学習のこと)
祭りの終盤には、一番組、二番組合同の踊り「六十節」を訪れていた島民、観光客と一緒に踊りました。
この「与論十五夜踊り」、2024年はあと2回。9月17日(旧暦8月15日)、11月15日(旧暦10月15日)に開催される予定です。
9月17日には、獅子舞や綱引きも合わせて披露されます。また、島内では「とぅんがもーきゃー」と呼ばれる、子どもたちが月夜に隠れながら軒先にある十五夜へのお供え物を「とぅんがとぅんが」と言いながらこっそり頂戴する、というかわいらしいイベントも同時に行われています。夕方頃から、徒歩や自転車などで島内を楽しそうに走りまわる子どもたちの姿をぜひ探しにきてください。
11月15日には奉納相撲が開催されます。子どもたちが奮闘する姿から大人の屈強な取組まで、見どころ満載です。月夜の下、島の伝統芸能に触れながら、島民とともに祭りを盛り上げてみませんか。
【小倉有希子】
2021年より与論島にプチ移住。一旦島を離れるも与論島での生活を求め地域おこし協力隊に応募。2022年4月から与論町教育委員会所属地域おこし協力隊に就任。小・中・高校と与論町内すべての学校で行われている与論町海洋教育の推進を担当。与論の子どもたちと与論島全体を題材にして、探究学習に取り組んでいる。