北海道札幌市で生まれ育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は、春の山菜採りの様子をレポート。
山のアスパラといわれる山菜「オオアマドコロ」
北海道の北に位置する天塩町。町の東側にある運動公園を取り巻くように約3kmの散策路が続く「てしおこもれびの森」は、野鳥が飛び交う町民憩いの森です。
ここではバードウォッチングのみならず、早春から山菜を採ることができ、北の生命力を探す楽しみの場でもあります。5月初旬、春の日差しを背に受けながら、「オオアマドコロ」という山菜を採りに出かけてきました。
オオアマドコロは漢字で書くと「大甘野老」。別名「山のアスパラ」とも呼ばれ、20歳過ぎまで北海道で暮らしていた私にとっても初めて耳にする山菜です。えぐみはなく、かすかに甘さが感じられ、おいしくてモリモリ食べたくなりますが、それほどたくさんは採れません。
食べる際は、若芽のはかまを取り除いてゆでたり、炒めて調理します。味見用に少量をラップに包んで電子レンジにかけると、トウモロコシに似た甘い香りが漂い、少し驚きました。味もトウモロコシに似た甘さで二度びっくりです。
今回案内してくれたのは、得意の郷土料理では地元の新聞にその腕前を取り挙げられるなど、天塩町で充実した生活を送る伊藤千枝子さん。
「新芽は有毒の野草と似ているので注意が必要ですが、この辺りはオオアマドコロがわかりやすいので安心して採れます。はかまを取り除いたら、節を切り落として調理するのがコツ。節はあまりおいしくありません」(伊藤さん)
オオアマドコロのホクホクした歯ごたえを楽しむ
生まれも育ちも天塩町という伊藤さんが調理を担当し、地域おこし協力隊と組んでつくった「受け継ぎたい北海道の食」動画コンテスト(北海道農政事務所主催)の作品は、最高賞である優秀賞を4連続で受賞。その記録はだれにも破られませんでした。5連覇を目指すもコンテスト自体が終結したため、そのままレジェンドとなったのです。
「おいしいものは手間がかかるのよ」と手間を惜しまない伊藤さん。山菜を採り、家庭菜園の野菜とともに調理して、自分で焼いた皿に盛る。まさに、すてきライフを実践する生活の達人です。
通常地元では、自分が山菜を採りに行く場は秘密にすることが多いのですが、おおらかな伊藤さんは気前よくオオアマドコロが自生する場に案内してくれました。足元は柏の枯葉が積もり、一歩ごとに鳴るカサカサという足音を楽しむ春の散歩となりました。
雪が解け、春らしくなる5月上旬。狙うのは若芽です。土すれすれのところに指を入れると、ボキッと折れやすい箇所があり、根本を壊さないよう折って摘んでいきます。長さはだいたい15~20cmくらい。
収穫したオオアマドコロは、料理上手な伊藤さんの手にかかると春らしい味覚で楽しむことができます。サッとゆでたり、アルミ箔で蒸し焼きにしたり。ご自身が焼いたお皿に盛り、春緑を目でも楽しみます。近所の森で採れた素朴な山菜がごちそうに変身する瞬間です。
今回は、丁寧にソテー。無塩のフランス産エシレバターを使って甘味を生かしつつ、最後に塩で味をととのえました。茎から根元にかけてホクホクとした歯ごたえで、ニラやホウレンソウとも少し違う食感です。
オオアマドコロのほか、天塩町で採ることのできる山菜はまだまだたくさんあります。なかには高級料亭でしかお目にかかれないものも。雪に覆われた寒い冬から恵みの季節の始まりを象徴する山菜について、これからもお伝えしていきたいです。
散策した森ではこの時期、山菜のほか満開の桜も見ることができました。森の中でワイルドに咲く桜を見ると「ああ、北海道に帰ってきたな」と思うのです。
※オオアマドコロとほかの山菜を見間違えてしまう可能性があります。山菜を採取する際は、必要に応じて精通する地元住民に見分け方を教えてもらったり、採取場所に入ってもよいか許可を取るなど、十分留意してください。
<取材・文・写真/三國秀美>
【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。