鹿児島県の離島・与論島で地域おこし協力隊として働く小倉有希子さん。今回は、2024年5月に与論島で開催された「やんばる駅伝」についてご紹介します。
第31回のやんばる駅伝が与論島で開催されました
2024年5月17日、第31回やんばる駅伝の与論大会が行われました。「やんばる」とは沖縄北部地方を指す言葉で、大会には沖縄本島から国頭村(くにがみそん)や本部町(もとぶちょう)、周辺の島々から伊江島(いえじま)、伊平屋島(いへやじま)など14の市町村が参加。各チーム9人のランナーがタスキをつないで43.1Kmを走りぬきました。
結果は開催地である与論島チームが優勝! 開催地で初優勝というこれ以上ない結果に。ゴールを駆け抜けた瞬間、与論チームのメンバーが最終ランナーを囲み、胴上げ。さらには監督も胴上げし、勝利の喜びを共有しました。
島の至るところから島民の声援が飛び交い、小さな子どもから高齢者まで、ランナー全員に温かなエールが響きました。
ランナーに厳しい「ピャーヌパンタ」がある与論島
与論島は珊瑚の隆起した島で、島のもっとも高いところで97mほど。一見走りやすそうに思えますが、実際に島をまわるとなだらかな坂から急こう配まであり、なかなかランナーには厳しいコースです。
とくにピャーヌパンタ(パンタは与論の方言で丘の意味)と呼ばれる坂は長く急こう配が続く、まさに「心臓破りの坂」です。ランナーも厳しい表情をしつつ、一生懸命足を上げて走りぬきました。
与論町チームの川上嘉久監督は「思いがけず、地元開催で優勝できて感無量です。選手一人ひとりが日頃からちゃんと走って、がんばってきた成果が出たので、すごくうれしいです」とコメント。
キャプテンを務めた原田選手は、「チームのみんなに助けられて最高でした。今回で31回目の開催になるやんばる駅伝の与論大会で優勝することができてうれしかったです」と喜びの声があがりました。また、運営兼選手を務めた朝岡選手からは、「みんなが想定以上に走った。調子の悪い選手も次につながるような走りをして、チームワークを発揮してくれた。MVPはキャプテンの原田選手」とメンバーを労いました。
与論町が「やんばる駅伝」に参加できるようになるまで
ここで気になるのが、鹿児島県である与論町がなぜ沖縄北部地方をさす「やんばる駅伝」の一員なのか。これは与論町とやんばる地域の皆さんに古くから友好的な関係性があったからであるといえます。
沖縄本島の最北端から与論島までは約21km。沖縄北端の国頭村からは、それぞれの島を目視で見ることができるほどの近さです。伊平屋島、伊是名島も、漁船で4~5時間でわたれる距離に位置します。
沖縄北部地域との交流は古く、とくに国頭村とは戦前から交流が続けられ、近年姉妹都市盟約も締結されました。
1993年に地域教育の取り組みの視察で伊是名村(沖縄県)の人たちが与論島を訪れた際に、伊是名村でトライアスロンの大会が開催されている話を聞き、同年に与論島から地酒を担ぎ参加したそう。そのときに現地で行われた歓迎会で、伊平屋島・伊是名島・伊江島の三島で行われている「やんばる駅伝」の情報を耳にし、帰島後に、あらためて参加の意志を示したところ、翌年1994年に開催された第4回やんばる駅伝より与論島のオープン参加が認められました。それから継続的に出場し、第10回大会でついに与論島での大会開催がかない、正式に参加することが認められました。
島の距離が近いだけでなく、友好的な協力体制を相互に維持してきた歴史があってこその現在です。
大会後の懇親会では、各地域より持参された地酒と与論町役場職員が朝から煮込んだヤギ汁や豚汁がふるまわれ、終始笑顔で互いの健闘を称えあいました。地域のバンドの演奏も加わり、最後まで大盛り上がりです。
与論島と沖縄本土の島々。違いはありつつもつながるものもあり、心から楽しみながら、ひとつのものごとをつくり上げる姿勢や、島全体が一体となって応援し、運営をサポートする姿をみていると、心が穏やかになります。これも私の好きな与論の姿です。
来年は伊江島開催。駅伝ファンも、島ファンも旅好きも必見です!
【小倉有希子】
2021年より与論島にプチ移住。一旦島を離れるも与論島での生活を求め地域おこし協力隊に応募。2022年4月から与論町教育委員会所属地域おこし協力隊に就任。小・中・高校と与論町内すべての学校で行われている与論町海洋教育の推進を担当。与論の子どもたちと与論島全体を題材にして、探究学習に取り組んでいる。