道北だけに自生する「テシオコザクラ」北大天塩研究林で鑑賞ツアー開催

北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は希少な野草「テシオコザクラ」探索の様子をレポート。

道北のごく一部で咲く「テシオコザクラ」

テシオコザクラ
蛇紋岩地帯に咲くテシオコザクラ

 道北の5月下旬は花見の時季。岩場に咲くサクラソウ科のテシオコザクラは、天塩町の隣町である幌延町を中心に、道北のごく一部でのみ見られる固有種です。

 今回探索した、幌延町問寒別地域に位置する北海道大学天塩研究林は「日本でもっとも北に位置する大学所有の森林」(公式サイトより)で、年に4回のみ一般開門するとのこと。そのうちの貴重な1回がこの花見となりました。ちなみに、テシオコザクラという名前は、天塩研究林内で発見されたことが由来となっています。

 北海道宗谷地域を中心に活動するプロの自然ガイド、嶋崎暁啓さんが秘境の花見ツアーを開催し、天候やヒグマの出現状況など条件が整って実現した今回の花見。生まれて初めて見るテシオコザクラへの期待に、胸が高鳴ります。

テシオコザクラ探索
前日は雨天のため、流れが速くなった沢を黙々と歩く参加者

 テシオコザクラ群生地までは入り口から約2km。嶋崎さんから事前に「できるだけ長い長靴をご用意ください」とのメッセージがありましたが、現地でその理由がわかりました。雨上がりの増水した渓流は足元が滑りやすく、計6名の参加者は転ばないよう注意しながら黙々と歩きます。

見渡す限り広がる北大天塩研究林

北海道大学天塩研究林
参加者全員分の入山届を記入するガイドの嶋崎さん

 研究林は午後2時には門が閉まるため、時間厳守のツアーです。立て看板にはテシオコザクラ群生地までの経路図とともに、注意事項としてこのあたりがヒグマの生息域であることが明記されていました。

 参加者に緊張が走るなか、入山をチェックするスタッフがいるわけでもなく、どちらかというとのどかな散策が始まりました。見渡す限り研究林で、このあたりの厳冬期はマイナス30℃を下回ることもあるため独自の植生となっています。

群生地への道にはヒグマの足跡も

ヒグマの足跡
ガイドは足元を指し「ヒグマの足跡ですね」

 テシオコザクラ群生地まで、8種類のスミレをはじめ、どこに足を下ろしてよいのか戸惑うほどの野草にあふれる散策道が続きます。嶋崎さんがひとつひとつの野草を丁寧に説明し、自分がどういう部分にひかれているかを語るそばで、参加者は聞き耳を立てながら写真を撮り、あっという間に時間が過ぎていきました。

 散策途中はぬかるんだ道が多く、「ヒグマの足跡ですね。すぐ近くにいるわけではありませんが、そう古くはないです」と嶋崎さん。この足跡の大きさは20cmくらいで、爪部分がぬかるみでわかりやすくなっていました。嶋崎さんは説明の合間に声出しや手をたたくなど、安全の確保に余念がありません。

テシオコザクラとの出会いは一期一会

テシオコザクラ
蛇紋岩の岩と岩の間で咲くテシオコザクラ

 歩きだしてから1時間半ほどでたどり着いた群生地で見るテシオコザクラは、風に揺れながらもけなげに花を開き、見るものをひきつけます。参加者は岩にはりつきながら思い思いに撮影を楽しみました。

 花のそばにある蛇紋岩の表面には蛇のような模様が見られ、岩石自体は青っぽく少しキラキラしています。ゴツゴツした岩肌と対照的にふんわりと咲くテシオコザクラは高さ15cm程度で、花びらの色は白。まれに薄いピンクのものもありました。

「来年もテシオコザクラが同じように咲くとは限りません。研究林が来年も開門するのか、そのときタイミングよく開花するのか、晴れているのか、すべて未定です。テシオコザクラは一期一会なのです」と嶋崎さん。「今だけ」「ここだけ」のテシオコザクラ花見を締めくくりました。

テシオコザクラ散策
戻り道もまた新たな発見あり。ゆっくり、みんなと歩く

 参加者のなかには、SNSを通じて今回のツアーをみつけ東京から参加した植物愛好家もいました。「思ったより足元がやわらかくて歩きやすい」「虫よけにはハッカ油が効くわね」など、参加者同士の会話があるだけでもチーム感が出て安全に歩くことができました。

 私は周囲から「チャンスがあったらテシオコザクラだけは見るべき」とアドバイスを受けての参加でしたが、あとから思うと偶然知ったツアーとはいえ参加を決めて本当によかったです。

 散策道はぬかるみ以外、比較的平坦で歩きやすく、小学生の団体も見かけました。テシオコザクラ撮影を存分に楽しんだ翌日に感じた筋肉痛は、北海道らしい岩場の花見のよい思い出となりました。

*問い合わせは北海道大学天塩研究林(電話:01632-6-5211)、または自然ガイドの嶋崎暁啓さんまで。

【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。