北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は地域おこし協力隊として運営する地域食堂「テシオダイナー」の様子をレポート。
貸しスペースを利用した朝食の地域食堂
北緯44度以北に位置する天塩町。6月に入ると日の出は午前4時前になり、地域おこし協力隊として初めて迎えた夏は、この長い朝にとても驚きました。4時を過ぎるとまぶしくて寝ていられないほどです。
移住して3度目となる今年の夏。この「長い朝」を活用したいと半年以上かけて企画したのは、貸しスペースを利用した朝ご飯の地域食堂でした。
メニューはシンプルにトーストとゆで卵
2023年は卵の供給不足がありました。天塩町のスーパーでも卵の品薄が続き、不安そうな住民の顔は今でも忘れることができません。だからこそ、今年はシンプルながらゆで卵がついたモーニング・メニューを提供したいと考えました。このメニューなら、ワンオペでも回すことができます。
ときどき天塩町産の卵も提供していますが、これは地元の建設会社・相互開発の宮越勝さんが集落の廃校を買い取って始めた平飼いの養鶏場のもの。自然な色の黄身が売りです。くせがなく優しい味で、最近は町内でも少しずつ出回るようになってきました。
町を訪れる人々の交流の場をつくりたい
ファストフード店のない天塩町。これまでキャンプ場やバンガロー、そしてライダーズハウスに宿泊する観光客は朝食をとる場所を探す必要がありました。コンビニの店先でパンをかじり、おにぎりをほおばる若者の姿を夏にはよく見かけます。
また、町内で働く外国人が立ち寄る場所が少ないのも事実。交流の場も含め、カフェのような地域食堂を提供したいという気持ちは募りました。そして周囲のアドバイスも借りつつ、6月から8月までという「夏だけ朝だけ」の地域食堂「テシオダイナー」を貸しスペース「サニースペース」にオープンすることにしたのです。
こうしてオープンした「テシオダイナー」は、さまざまな人とコミュニケーションがとれる朝活の場となりました。オープン早々「散歩の途中で犬と来られたら」という声が聞かれたため、すぐに外ベンチを用意し、ドッグフードも準備しました。都市部ではよく見かけるドッグ・カフェですが、動物好きの自分が天塩町で運営できることになるとは、喜ばしい限りです。
移住者が溶け込みやすい天塩町
協力隊の活動に地元の支援は欠かせません。住民の皆さんは心優しく「朝どんなに早くても人手がたりなかったら手伝いに行くわよ」「皿洗いくらいなら手伝いましょうか」と、折に触れて声をかけてくれます。そうしたところも天塩町の魅力で、移住者としても溶け込みやすい町です。
移住者に対して親切なのは、「天塩町は官庁のまち」で転勤者が多かったから。「初めまして。いつまでいるの?」というよく聞くあいさつからも、それがうかがえます。
歴史ある天塩川の河口に位置する天塩町は、川を交通手段としていた時代には道北経済の中心地でした。木材から穀物栽培、そして漁業や酪農へと主要産業がシフトした経緯から、モノ・ヒトは流通するもの、という考え方が浸透しているようです。
サニースペースでのカフェ運営の先輩は、看護師として働く高橋貴子さんです。彼女が主宰するコミュニティ・カフェ「テトテプラス」は4周年を迎え、地元新聞にもたびたび取り上げられました。
コロナ感染症拡大の頃は何度もやめようかと考えたそうですが、月1回ほど開催されるカフェはいつも大盛況。「丁寧に告知すること。豆のひき方でもコーヒーのおいしさは変わるので、コーヒーにはこだわってほしい」など、アドバイスをいただいています。
夏休みには子ども食堂を開催予定
サニースペースのオーナーである計良徹さんをはじめ、高橋さんが提供する「場の継続」が、天塩町を活性化させる地元力です。ふたりのアドバイスを聞きつつテシオダイナーを育て、夏休みには子ども食堂の機能を加えるなど、この夏は朝の天塩町を新発見するつもりです。
<取材・文・写真/三國秀美>
【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。