「エゾの三絶」天塩町の特大シジミが解禁。プリプリふっくらした初夏の味

北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は天塩の名産、シジミについてレポート。

エゾの三絶といわれた天塩のシジミ

天塩川のしじみ
天塩川のシジミ。なかでも緑がかった淡色シジミは「青シジミ」と呼ばれ、ほぼ町外に出ることはない

 天塩町に移住した当初、地元新聞の記者との雑談で初めて耳にしたのは「エゾの三絶」という表現。三絶の「絶」は「絶品の食」を意味し、つまり「エゾの三絶」とは北海道が誇る3大味覚のこと。江戸時代、函館奉行所にいた幕臣、栗本鋤雲(くりもとじょうん)が記した書に記されています。

 天塩川のシジミは100年以上前から「エゾの三絶」のひとつとして有名でしたが、道民でも「ほとんど手に入らないでしょう」とあきらめるほど、希少な貝でした。
 ちなみに三絶の残りの2つは、厚岸湾のカキと十勝川のフナ。十勝川のフナ料理は今ではお目にかかれないものの、厚岸湾のカキは全国に出荷され、物産展ではカキメニュー目当てに行列ができるほどの人気です。

天塩漁港
天塩川の河口は天塩漁港につながる。天塩町は港町でもある

 2024年のシジミ漁は6月16日に解禁され、天塩川で始まりました。続いて幌延町のサロベツ原野に位置するパンケ沼での漁が始まるそうです。サロベツ原野の正式名は利尻礼文サロベツ国立公園。国立公園での漁は他に類を見ません。

 シジミの育成を第一に考え、漁場を毎年少しずつ変えることで天然シジミは守られており、漁獲量が減少するなかでも特産としてそのブランド力を維持しています。

5年かけて特大サイズのシジミに

シジミの選別機
ガラガラ回る選別機で洗浄されサイズごとに分けられる

 北るもい漁業協同組合天塩支所が取り扱うのは天然シジミのみ。つまり稚貝を放流することなく自然に育ったものだけを取るのが天塩のシジミ漁であり、その漁獲量は漁師ごとに決まっているそうです。

 サイズの大きさが売りの天塩のシジミですが、もともとそういう種類なのではなく、育てるのに長い期間をかけているから。最近では5年以上育てている、と話す漁師の間谷章男さんは漁獲量が減っていることをとても残念がっていました。

天塩町のシジミ直売所
6月17日から町内直売所でシジミの販売が開始された

 直売所で販売されるシジミのサイズは「中」「大」そして「特大」です。すべて1kg単位で販売されており、私が行った販売初日は買える量がひとり5kgまでと制限されていました。

 販売時間は10時から16時までですが、初日は朝7時から行列ができ、人気の高さがうかがえました。なかでも特大サイズはあっという間に売りきれてしまうほど。遠方から駆けつける人や、季節の贈答品としてその場で全国各地への配送を依頼する人がいたりと、シジミを囲んでにぎわう直売所はまちの風物詩そのものです。

シジミ潮汁は漁師がつくった地元の味

シジミ潮汁
塩と少しのコショウを加えてシジミのうま味を楽しむ

 かつて天塩町の漁師はシジミをそのままゆで、塩を加えるだけの潮汁で味わっていたという伝統があります。その潮汁は去年、道の駅てしおにショップをもつ株式会社天塩の國が、お土産として販売し始めました。

「天塩のシジミ潮汁はかつて漁師飯でした。まちの特産味覚をより多くの旅行者に持ち帰ってもらいたい」と熱く語る社長の吉光和敏さんは、物産展などで自ら売り場に立ち、シジミラーメンなどを販売。天塩のシジミの魅力を広めようと奔走しています。

3cmを越える特大シジミと希少な青シジミ

天塩町の特大シジミ
一円玉と比較すると大きさがわかる。特大粒は直径32ミリを超える

「特大」サイズのシジミともなると貝の直径は3cmを超え、迫力ある見た目に。だしだけではなく、プリプリふっくらした身も味わうことができる初夏の味覚です。

 これまで貝がらの色が黒ければ黒いほど高級と思い込んでいましたが、緑がかった淡い色のシジミこそが希少な「青シジミ」であることを学びました。「青シジミ」は味が濃厚で、かつては黒シジミよりもさらに高級品として取り扱われていたそう。現在はほとんど獲れないことから、直売所では選別せず販売されています。特大シジミの迫力に隠れてはいますが、「青シジミ」は天塩町に来ると味わうことができる幻の味覚かもしれません。

<取材・文・写真/三國秀美>

【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。