小さな集落と交流。伝統を次世代に受け継ぐ手伝いをする団体とは

小さな集落との交流を経て、そこから見えてくる“日本らしさ”を舞台表現という形で発信するユニークな団体「GOKIGEN Nippon」。地方の新しい楽しみ方を提唱し続けるライター・大沢玲子さんが同団体の活動内容、日本の小さな町村の魅力に迫ります。

小さな町村に息づく豊かな“3つの間”を伝承していきたいと一念発起

GOKIGEN
ⒸGOKIGEN Nippon

「100年先も、凛としてたくましく ゴキゲンな日本を。」

 そんなビジョンを掲げ、日本の小さな集落を巡り、さまざまな活動を続けるユニークな団体があります。その名は「GOKIGEN Nippon」代表者は北原太志郎さん。東京でのサラリーマン生活を経て30歳で故郷の南信州・松川町にUターン。飯田市役所勤務を経て独立。現在、松川町の「観光まちづくりセンター」で観光を軸としたまちづくりに関わる一方、「GOKIGEN Nippon」の事業化にまい進しています。

 筆者が北原さんと知り合ったのは、ちょうど「GOKIGEN Nippon」が設立されたばかりの2018年、信州本の取材のときでした。それから約2年を経て「これまでの活動の集大成を発表するイベント“GOKIGEN祭り”を開くのでぜひ来てください」とお誘いが。名前もユニークな「GOKIGEN Nippon」の正体とは? 渋谷の会場に足を運びました。

 イベント冒頭から度胆を抜かれました。舞台に現れたのは真紅の法被風の衣装に身を包んだ十数名のメンバー。太鼓や篠笛の音といった和の要素がミックスされた音楽に合わせ舞い、飛び、叫ぶ。御神事を思わせるような力強いパフォーマンスに会場は一気に異空間に突入。同団体のビジョンを体現した踊りだといいます。

 ここから北原さんによる「GOKIGEN Nippon」が目指すビジョンや設立経緯についての解説がスタート。北原さんが今の活動に至る原体験は「22歳の時、幼少から長く離れていた故郷、南信州で数々の伝統芸能に出会ったこと」だったとか。

 南信州は湯立神楽といって釜に湯を立て神に捧げる神事・霜月祭りを始め、歌舞伎、獅子舞など伝統芸能が多く残る地としても知られています。こうした地域に根差す行事に触れ、「自分は日本人なんだ、ということをあらためて意識し、同時に日本の地域は宝の山にあふれていると強く感じたんです」と語る北原さん。そこから仕事の傍ら、日本各地に足を運び、地域の人々の暮らしに触れる活動を開始しました。

「限界集落のような小さな町村にこそ、凛々しく誇りを持ち、たくましく“ゴキゲン”な暮らしを営んでいる人が数多くいらっしゃる。その姿を目の当たりにして、各地域の“3つの間”、つまり受け継がれてきた豊かな時間(歴史)、空間(自然)、人間関係(人とのつながり)、そこから育まれる生活の知恵などを次世代に継承していかねばならない。その担い手を育成していくことも自分のミッションなのでは、と考えたんです」

 そんな思いに突き動かされ、20~30代のメンバー約10人で「GOKIGEN Nippon」を結成。日本あちこちを巡り関係性を構築していきます。

各地の伝統芸能、祭り、農作業などを体感し“生き方”を見つめ直す

かやぶき屋根
ⒸGOKIGEN Nippon

 現在、交流を続けているのは次の7つの地域、奥会津(福島)、佐渡(新潟)、利賀(とが・富山)、遠山郷(とおやまごう・長野)、東出雲(島根)、蒋淵(こもぶち・愛媛)、糸島(福岡)。メンバーが各地を訪問し伝統芸能や祭り、農作業などを体感。気づいたことや学んだことを内観し、自分の生き方を見つめ直す場としてワークショップなども開催しています。

 さらに、イベント冒頭でパフォーマンスが披露されたように、同団体では日本の魅力や地域社会に息づくものを継承、発信していくスタイルに“舞台表現”を採択しています。

「かつてYOSAKOIソーランの学生チームや社会人になってからもミュージカル公演などに関わった経験から、舞台表現には“人の心や社会に訴える力がある”と確信したことが着想の契機になっています」(北原さん)

 こうして100年超という年月を経て受け継がれる伝統芸能や祭りのように、後世に“日本の心”を伝えられるような舞台を作り、伝承していくことをゴールに掲げています。

獅子舞
ⒸGOKIGEN Nippon

 ここで実際に活動するメンバーが登壇。スライドを上映しながら、各地域の魅力や具体的な活動内容の一部について教えてくれました。

 奥会津との交流を担当する諸遊直子さんは、「田植えを手伝ったり、ワラや植物の蔓を使った生活工芸品の作り方を学んだりして、古から受け継がれる手仕事の文化に触れることができました」と語ります。また、佐渡担当の杉山実優さんは地元の方々と一緒に茅葺屋根をふき、交流を深めたとか。

 その後も五箇山(ごかやま)で知られる南砺市利賀村の伝統芸能・獅子舞や、東出雲の特産品・天日干しの干し柿作りについてなど、各地域の温故知新な魅力が紹介されました。

干し柿
ⒸGOKIGEN Nippon

 筆者も初めて知る場所が多くあり、美しいスライド写真を見ているだけでも思わず行ってみたくなります。しかし、自然は時に苛酷な厳しさをもはらみ、都会の便利な生活に慣れた者にとって地方での暮らしは決してキレイ事だけではすまないはず。

 後編では、同団体が交流をしている7つの地域のうち、3エリアに実際に住んでいるゲストスピーカーが登壇。なぜ彼らは小さな町村での暮らしを選んだのか。リアルなトークセッションをお送りします。

<取材・文/大沢玲子>

たび活×住み活研究家 大沢玲子さん

鹿児島出身の転勤族として育ち、現在は東京在住。2006年から各地の生活慣習、地域性、県民性などのリサーチをスタート。『東京ルール』を皮切りに、大阪、信州、広島、神戸など、各地の特性をまとめた『ルール』シリーズ本(KADOKAWA)は計17冊、累計32万部超を達成。18年からは、相方(夫)と組み、アラフィフ夫婦2人で全国を巡り、観光以上・移住未満の地方の楽しみ方を発信する書籍『たび活×住み活』シリーズを立ち上げた。現在、鹿児島、信州、神戸・兵庫の3エリアを刊行。移住、関係人口などを絡めた新たな地方の魅力を紹介している。