鹿児島県最南端の与論島へ移住。「海洋教育」の普及活動に従事

鹿児島県の離島・与論島で地域おこし協力隊として2024年6月まで働いていた小倉有希子さん。今回は与論島独自の取り組みである「海洋教育」と、その活動の普及と認知拡大のために島で行われたセミナーについてご紹介します。

与論島独自の取り組みである「海洋教育」

鹿児島県最南端に位置する与論島
提供:一般社団法人ヨロン島観光協会

 与論町は2019年から「与論町海洋教育」を推進し、2024年で6年目を迎えています。「海洋教育」と聞くと、海に特化した学習のことと思われることが多いのですが、じつは海だけに関することではありません。

 与論町は鹿児島最南端に位置する周囲23.1km、リーフ(珊瑚礁)に囲まれた小さな島です。四方を海に囲まれた与論島はその条件から独自の文化や習慣、言語などが育まれてきました。
「与論町海洋教育」では、与論島すべてを題材として、この海に囲まれた島とどのように生きていくかという問いを子どもたちにもたせます。そして探究的な学習を重ねることにより、子どもたちが「生きる力」を身に着けていくという、与論独自の教育を理念に掲げた取り組みです。

 2022年には文部科学省より、与論町内すべての小中学校が「教育課程特例校」としての認可を受け、海洋教育科「ゆんぬ学」(ゆんぬは与論という意味)を設置しました。現在、総合的な学習の時間の一部を利用し、各学校の特色を生かした独自の授業を考案・実施することで、子どもたちの「島だちの力」の育成に取り組んでいます。
 また、町内の鹿児島県立与論高等学校においても、総合的な探究の時間に「ゆんぬ」を設置し、島内の地域サポーターの方々、また行政の方々、さらには島外サポーターも増え、各大学の先生や大学生との交流を通し、探究活動に取り組んでいます。

 近年、学校や一部の地域からのサポーターにより、与論町海洋教育の意義や活動が活発になる一方で、保護者やほかの地域の方への理解を得ること、広く認知してもらうことが課題として挙げられていました。そこで、新たな取り組みとして2023年度より地域向けのシンポジウムを開催し、2024年度は中高生の保護者の方をターゲットとしたセミナーを実施しました。

取り組みの一環として「海洋教育魅力化セミナー」を開催

与論町海洋教育魅力化セミナーのゲスト講師であるアメッド・モヒさん
清水建設株式会社ビジネスイノベーションセンター室執行役員室長 アメッド・モヒさん

 6月19日に行われた「第2回与論町海洋教育魅力化セミナー」では、与論町海洋教育の取り組みについての紹介からはじまり、特別講演として、島外からゲスト講師2名を招きました。
 1人目の講師である、清水建設ビジネスイノベーションセンター室執行役員室長、アメッド・モヒさんからは、「これからの次世代に必要な力~有限の出会いを無限の可能性へ~」をテーマに、2人目の講師の鹿児島大学南九州・南西諸島域イノベーションセンター、藤枝繁センター長からは、「探究学習を通した進路実現の可能性」というテーマで、与論町教育委員会の中山義和教育長からは「生き方の論を与える島で子どもを育てませんか」というテーマでそれぞれ話してもらいました。

与論町海洋教育魅力化セミナーのゲスト講師である藤枝繁センター長
鹿児島大学南九州・南西諸島域イノベーションセンター 藤枝繁センター長
与論町海洋教育魅力化セミナーで話す与論町教育委員会の中山義和教育長
与論町教育委員会の中山義和教育長

 アメッド氏は、今後与論島において地域課題を解決する人づくりと事業づくりの仕組みを強化することを目的とした「与論島アカデミー」の構想、今後の与論島モデルを構築していく重要性について講演。藤枝氏は、アメッド氏の講和も踏まえ、探究活動を経験した子どもたちの可能性や、大人がどのように子どもたちをサポートすべきかについて、さまざまな視点からアドバイスを。中山教育長は、ご本人が日頃より掲げているキャッチフレーズである、「最南端は最先端」について、なにが最先端なのか、町の教育委員会としてどのようなことに積極的に取り組んでいるのか、また今後の与論町海洋教育の可能性についてなどの話をしました。

 セミナー当日は、地域の人63名に、運営、関係者を合わせ、計81名が集まりました。出席者からのアンケートでは、内容に満足したとの意見も多くあり、「海洋教育」という名前から生じる誤解や疑問などを多少払拭することができたように感じました。また、2023年の開催時と比較すると、聴講者の顔ぶれも変化し、この取り組みに興味をいだいている人が島内に増えてきていることを実感。
 チーム与論として、島が一丸となり、子どもたちの成長をサポートしていく道筋への確かな手応えも感じることができました。

 とはいえ、まだまだ道半ば。今後、島の未来を育てていく子どもたちが、この活動を通してどのような変化をもたらすのか。今後も継続して取り組むことでかえってくる反応が不安でもあり、楽しみでもあります。

島内外へ拡がっていく海洋教育の輪

与論町の海洋教育メンバーの集合写真
与論町の海洋教育メンバー

 私が与論町で地域おこし協力隊として教育分野に任命された当初は戸惑いが大きく、「海洋教育とはなにか、一体なにをすればよいのか」を模索する日々でした。しかし、活動で島のさまざまな人に出会い、それぞれの思いや取組み、情熱に触れ、この人たちのサポートが少しでもできれば、この取り組みを少しでも多くの人達に理解してもらえたら、と思い日々業務に向き合ってきました。

 与論島は小さな島ですが、可能性と魅力にあふれ、活気に満ちています。この島で育った子どもたちが、与論町独自の教育を通して頼もしく未来を担っていく姿を想像し、この取り組みが島内だけにとどまることなく、島外からも協力者が増え成長していく様子を、チームの一員として感じることができる日々は、私にとって幸せな時間でした。

 与論島では中学生からふるさと留学生の受け入れも行っております。鹿児島県最南端の小さな島、与論島で行われている最先端の取り組みを通して、力強くたくましく生きる力を育む、「海洋教育」に触れてみませんか。

小倉有希子
2021年より与論島にプチ移住。一旦島を離れるも与論島での生活を求め地域おこし協力隊に応募。2022年4月から2024年6月まで与論町教育委員会所属地域おこし協力隊として活動。小・中・高校と与論町内すべての学校で行われている与論町海洋教育の推進を担当。与論の子どもたちと与論島全体を題材にして、探究学習に取り組んだ。