金融業からブドウ農家へ。岡山美星町に移住しておいしいブドウを全国に届ける

30歳を目前に「海沿いに住みたい!」「一軒家でのんびり暮らしたい!」と考え、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住した女性が日々の暮らしや岡山県の魅力をご紹介。今回は、岡山県井原市美星町(びせいちょう)の地域おこし協力隊で活動後、美星町でブドウ農家になった男性をレポート。

「地元岡山で農業を始めたい」自然豊かな美星町へ移住

青空と緑が美しい畑の風景
美星町の美しい景色

 岡山県西南部にある井原市美星町は山々に囲まれた穏やかな町。美しい星が見える天文台や、高原地域ならではの野菜などで知られています。
 そんな美星町でブドウ農家を営むのが「美星コメットファーム」代表の柏野翔さんです。

ブドウを収穫する男性
ブドウを収穫する柏野翔さん

 柏野さんは岡山県倉敷市出身。金融系の仕事を経験した後、友人の勧めで香川県にある農業の会社に勤め始めました。農業は未経験でしたが、仕事を通して「農業って楽しい」と思うようになっていったのだそう。ですが、それと同時に農薬や除草剤を使うことに抵抗を感じるようにもなりました。

「できるだけ農薬などを使いたくない。それなら大規模生産の会社ではなく、自分で農業を始めるか!」と一大決心。やるなら地元岡山で始めたい、と場所を探し、美星町地域おこし協力隊に入隊、移住しました。

野菜栽培の地域おこし協力隊からブドウ農家へ転身

ブドウがたくさんぶら下がっている畑
(株)美星コメットファームの農園

 協力隊での活動ミッションは「耕作放棄地の解消」でした。そこで柏野さんが始めたのが、使われていない畑を使用した野菜の栽培。ここで直面したのが、無農薬や無肥料での栽培の難しさ。もっとも大変だったのが、知り合いもまだ多くない移住したばかりの土地で、野菜の販売先を探すことでした。

 1年ほど野菜づくりを行った後、周りからの勧めもあって、ブドウ農家の道へシフトチェンジすることに。地域おこし協力隊2年目、3年目はブドウづくりに専念しました。活動時間は定められているものの、収穫時期など忙しい期間は時間も関係なく作業を行う日も多かったのだとか。そして、協力隊3年間の任期を終えた後、「美星コメットファーム」を立ち上げ、2024年ブドウ農家として4年目を迎えました。

甘くてしっかりとしたニューピオーネを育てる

男性が袋のかかったブドウを触っている
ブドウの作業を行う柏野さん

 ブドウを育てるにあたって大切なのが、昼間は明るく、夜は暗い環境。美星町はそれが整っています。さらに夏は暑く冬は寒い、昼と夜の寒暖差がしっかりある、ということも大切なポイント。

 樹勢に合わせた着果量の見極め、1本1本、1枝1枝、1房1房の適期作業に務めます。なるべく化学的なものには頼らず、良質な堆肥や緑肥など自然の力に頼った栽培で、じっくり時間をかけて育てていきます。

黒い色で大きな粒のブドウ
看板商品の「ニューピオーネ」

 このような条件がそろって完成するのが柏野さんのブドウ。つくっている品種の8割は「ニューピオーネ」です。私も食べさせてもらったのですが、その甘さに驚きました。さらに味に深みがしっかりあって、一粒一粒の満足感が高い!

 現在柏野さんが利用している畑の広さは約1万2000㎡。ブドウの木の本数でいうと約110本前後です。この数をほとんど1人でこなしているんですか!?と驚きましたが、さらにびっくりなのが、ブドウを育てる際に除草剤を使っていないということ。通常より手間がかかる方法ですが、ここに柏野さんの農作物やお客さんへの思いを感じました。

美星町から全国へ。販路拡大しながら地元に根づく

ブドウを透明な袋に入れている
出荷作業も全て手作業で行う

 毎年8月中旬から9月末にかけて収穫するブドウは、美星町近郊の直売所や岡山県内、さらには関西のスーパーや百貨店に並びます。また、オンラインでの販売も行っており、関東のお客様も多いのだとか。

 また、イベント出店などにも挑戦しており、2024年11月には神奈川県で行われる「特選グルメフェア(北陸×瀬戸内×神奈川)」でピオーネを販売する予定です。

「売り先を見つけるのが農家をしていていちばん難しいかもしれません」と柏野さんはいいます。普段は作業服でブドウを育てていますが、ときにはスーツを着て営業に行くこともあります。

男性が網のついた帽子をかぶって作業をしている
炎天下の中、1つ1つていねいに作業を進める

「営業活動は大変ですが、自分の足で売り先を見つけることで『美星コメットファーム』として商品を販売できます。また、お客さんの反応をダイレクトに知ることができるので、栽培のしがいがありますし、いいものをつくろうって思えるんです」

 そう話す柏野さん。また、農作業以外にも、住んでいる地域の自治会参加や消防団の活動など日々美星町でやることはたくさんあります。
「美星町の人の力がないと、おいしいブドウはつくれないので」

 明るいすてきな笑顔と人柄が伝わって、ブドウのおいしさももちろんですが、この人柄だから地域の人にもお客さんにも愛されるんだろうな、と感じました。美星町、ブドウ、そして柏野さんのキャラクター、たくさんの方にその魅力を知ってほしいです。

<取材・文> mamiko

mamiko
栃木県茂木町出身。大学時代は京都で暮らした後、大阪の老舗ヴィンテージショップにて販売員に。30歳を目前に、岡山県笠岡市へ地域おこし協力隊として移住。ブログやSNS等で笠岡市の情報発信をしたり、地域交流イベントを開いたりなど、さまざまな活動を行っている。