UCLA出身の女性が北海道増毛町で米づくり「夜中までトラクターで田起こし」

北海道札幌市で生まれ石狩市で育ち、東京や中国・天津市でもさまざまなキャリアを積んだ後、2021年の暮れに北海道天塩町へ移住。現在は地域おこし協力隊として活動する三國秀美さんが、日々の暮らしを発信します。今回は、元増毛町地域おこし協力隊である嘉門宏美さんの単独米づくりをレポート。

留萌管内地域おこし協力隊が集まり食を学ぶ研修会を開催

ワークショップの様子
ワークショップで自身のつくった「ななつぼし」について語る嘉門宏美さん

 秋になると、留萌(るもい)振興局が、「留萌管内地域おこし協力隊ネットワーク」と連携した研修会が開催します。今年は食による地域活性化について実際的に学ぶという目的のもと、「留萌管内版おむすびプロジェクト」としてレシピづくりのワークショップが行われました。

UCLAから国際開発に携わり、増毛町で米づくりを

茶碗に盛られたお米
研修会で提供された「ななつぼし」。コクやツヤ、甘味のバランスが絶妙で、おかわりする隊員が続出

 ワークショップで使われたお米は、留萌市に隣接する増毛(ましけ)町で稲作に挑戦する嘉門宏美さんの「ななつぼし」。元増毛町地域おこし協力隊でもある嘉門さんは高校卒業後、直接UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に進学したスーパーエリートです。

 世界を舞台に国際開発に携わる嘉門さん。アジアをめぐる旅をとおしてたどり着いた「幸せとはなにか、土地を豊かにし地域から世界とつながりたい」という生き方を実践する手段として、米づくりを選んだと話します。そんな彼女がつくったお米は、とても深みのある味わいでした。

田んぼの風景
稲刈りを待つ田んぼ。乾燥と脱穀後11月初旬に新米の出荷を予定

 その後行われた農園見学会は、あいにくの雨模様。「今見えている田んぼの反対側は、ちょうど海を見ながら農作業ができます。夕日を見ながら作業する時間がいちばん好き」と嘉門さん。増毛町のこの風景が定住の決め手となったそうです。

夜中も田起こしするタフな米づくり

田んぼの向こうに見える海
田んぼから見える海(後日撮影)

 ただ、そう簡単に賃貸借農地と縁があったわけではなく、だれに聞いていいのかわからず悩む日々が続いたのだそう。農業後継者とは違い、自分の理想とする自然栽培を目指していたため、周囲との調整が本当に大変だったと当時を振り返ります。「女子」「ひとり」と賃貸借には不利な状況があったのも想像に難くありません。

「春は夜中もトラクターで田んぼを起こす作業を続けた」ほどのタフな生活に加え、狩猟に出かけたり、インバウンド向けのツアーガイドも担当。そして生活費のために、今もアルバイトを続けています。2024年の春先にはタイを訪問して現地の人との交流を広めたそうで、周囲の人からは「いつもいない」といわれるほどの忙しさ。そんななかでも絶えず笑顔で日々を送る嘉門さんは、尊敬する協力隊先輩のひとりです。

米づくりとは切り離せないアートという存在

乾燥中の稲
稲は乾燥が難しいとのこと。徐々に脱穀を待つ稲が増える

「米づくりとアート」。一見結びつかない言葉ですが、「一面雪景色になる田んぼを楽しくしたい」という嘉門さんは、冬季に仲間とアイスマン雪像をつくるインスタレーションを行っています。自然に近いところで暮らし、風土を育て、カルチャーを担ううえで、アートは「身土不二」(体と土とは一つであり、身近なところでその季節に育ったものを食べて生活するのがよいとする考え方)と同じくらい大切な要素であり、その理想を仲間とも共有したいと言います。

米袋
米袋からもアートを感じられる。大切に食べたくなる図案

 変わりゆく地球環境のなかで、個人が、地域が、地球に対してできることを探し続ける嘉門さん。マハトマ・ガンジーの言葉「Be the change you wish to see in the world.」つまり、「自分自身が見たいと願う変化となれ」を座右の銘に、今日も田んぼに出かけていきます。

こちらを見ている犬
冬は犬ゾリをひく愛犬たち。主である嘉門さんの帰りを待つ

<取材・文・写真/三國秀美>

【三國秀美(みくにひでみ)さん】
北海道札幌市生まれ。北海道大学卒。ITプランナー、書籍編集者、市場リサーチャーを経てデザイン・ジャーナリスト活動を行うかたわら、東洋医学に出会う。鍼灸等の国家資格を取得後、東京都内にて開業。のちに渡中し天津市内のホテル内SPAに在籍するも、コロナ感染症拡大にともない帰国。心機一転、地域おこし協力隊として夕日の町、北海道天塩町に移住。