スイスから山形県小国町へ。山間の集落で地元素材を使ったお菓子を販売

スイスで暮らしていた家族が山形県小国町へ移住して6年。山間の自然に囲まれた集落で小さなお店を営む女性に小国町で暮らす魅力を聞きました。

スイスから帰国後、小国町で小さなお店を営む

お店の外観。古い木造の小屋のよう。木のベンチと白いパラソルが設置されている
山間の“おやつやさん”、Naëbaco

 山形県小国町は、山形県の西南端、新潟県との県境に位置しています。東京23区がすっぽりと入る広い町内は、その大半が広葉樹の森におおわれた山々。朝日連峰、飯豊(いいで)連峰にはさまれていることから山好きにはよく知られている町です。

 そんな風光明媚な町で生まれ育ち、海外生活を経て、再び小国町で暮らしている川崎ひかりさんに町での暮らしについて話を聞きました。

女性がハーブを摘んでいる
お店の横にある畑でハーブを摘むひかりさん

 ひかりさんは、スイス人の夫、ふたりの子どもと4人家族。小国町の中心地から車で15分ほどの田んぼや森に囲まれた小さな集落で暮らしています。

 大学進学を機に小国町を離れ、関西で6年ほど暮らした後、山形県米沢市、小国町、再び関西で生活。そしてまた小国町に戻り、その後夫(当時は結婚前)が暮らすスイスへと渡りました。

 スイスで結婚し、子育てをしていましたが、「子どもに日本の文化に触れさせるために、1、2年ほど日本で暮らしてもいいかなと思って」(ひかりさん)、2018年に家族で小国町へ移住。

2階のカフェスペース。木の壁や床の広々とした空間
Naëbacoの2階は広々としたカフェスペース。子ども連れでものんびりできる

 そして2年が過ぎ、スイスに戻ろうと考えていたタイミングで、新型コロナウィルスが流行したため、しばらくは小国町で暮らし様子をみることに。仕事は、子育てがあるので自宅の近くでできることを考えて、2021年にNaëbacoというお店をはじめました。

新鮮な地元の材料でつくるNaëbacoのお菓子

大きなカゴの皿にカヌレが10個ほど並べられている
取れたての新鮮な卵を使ったカヌレ

 Naëbacoは自称「おやつやさん」。お菓子屋を名乗るのは、おこがましいそう。実家が米農家ということもあり、当初はもちやもちの加工品を販売していましたが、小麦粉を使ったお菓子もはじめることに。

「実家の田んぼを少し借りて小麦を栽培しています。まだ2年目で、去年はよかったんですけれど、今年はちょっとダメでした。肥料がたりなかったみたい。小国は湿気も多いのでそれも影響しているのかな」と笑顔で話すひかりさん。

 お店の開業、小麦の栽培、子育てと、けっして簡単ではないことをやっているのに、とても軽やかに肩に力をいれずに取り組んでいる印象を受けます。お菓子も「常に同じものをつくることにすると無理がでてくるので、そのときにあるものを自分に合わせてつくっています」と、そこも気負わず。

みずみずしいブルーベリーがのった手のひらサイズのタルトが皿に並んでいる
みずみずしいブルーベリーを使ったタルト

 お店を訪ねた日は、カヌレとブルーベリータルトが並んでいました。カヌレはとても人気で、「遠方から買いに来るお客さんもいるので、早くに売りきれることもありますよ」と町の人が教えてくれました。

窓の外の田園風景。ススキやハーブを行けたかご。新鮮な平飼いたまご。石板を掘ってつくったお店の看板
お店は自然に囲まれていて、訪れた人もリラックスできる環境

 カヌレは、近所に住むお母さんが平飼している鶏の取れたての卵を使用。外はカリっとしながら、中はもっちりしっとりで、卵の濃厚さを味わえます。またブルーベリーも採れたてで、果実のフレッシュさが見てわかるほど。お店の前に置かれた鉢植えから摘んだばかりのレモンバーベナのハーブティも驚くほど香りが高い。材料の新鮮さと味の濃さは「自然豊かな小国町だから」なのだそう。

雪やカメムシに苦労しつつ山の暮らしを楽しむ

植物が生い茂る畑に立つ女性
お店の隣にある畑から必要なものが採れる気軽さがいい

 4度目の小国暮らしをしているひかりさん。小国町で暮らすことの魅力を聞くと「水がおいしいので、食べものもおいしいです。なにより自然が豊かで、窓を開けたらすぐに外に出られますし、子どもが外で遊んでいる様子が家の窓から見られるので安心」。

 小国町は住民の顔が見えるので子育てしていて安心感がある、そして、「助けを求めると、助けてくれる人がいます」と。その言葉は、移住を考える子育て世代には大きな魅力です。

銀色のトレイに並んだ数種類の摘みたてのハーブ
畑には何種類のもハーブが植えられていて、なかには自生したものも

 ほかにも、料理をつくっていてシソやネギがちょっとほしいと思ったとき、隣の畑に採りに行く便利さも魅力。スーパーに行かなきゃ、という窮屈さがないそう。

 半面、自然が厳しすぎるとも。夏は暑くて湿気が多い、冬は雪が積もるので除雪作業も必要。「秋はカメムシが飛んでくるんですよ。気持ちいいな~と思って窓を開けたらカメムシが入ってくる。窓を閉めても入ってくるので、外に出すのにひと仕事です」と笑って話してくれましたが、厳しいといいながら楽しそう。“カメムシが多いとその冬は雪が多い”といわれている小国マメ知識も教えてくれました。

乾燥キクラゲを両手ですくっている
キクラゲも栽培し販売している。こちらも人気

 そんな自然が豊かでときに厳しい環境での暮らしを、スイス人の夫も楽しんでいます。スイスで中低山や自然を案内するガイドをしていたので、日本では子ども向けのキャンプやサバイバルキャンプを企画したり、海外旅行者の国内ハイキングガイドをしたり。小国町は自然が好きな人にとって住みよい町なのかもしれません。

移住者が集まってまち歩きマップを制作

女性4人、男性1人が道の真ん中に集まって笑顔でポーズをとっている
「白い森まち歩きマップ制作委員会」のメンバー。(後列左から)川崎ひかりさん、欠端彩乃さん、(前列左から)舟山康名さん、遠藤桃代さん、佐々木佑真さん

 小国町は、面積は広大ですが中心地にお店が集まっているので、便利さもあるそう。観光やビジネスで訪れた人、また移住したばかりの人などに小国町の魅力を知ってもらいたいと、ひかりさんを含む移住者5人と小国町役場で「おぐにまち歩きマップ」を制作しています。

ペン2本が制作中の地図の上に置かれている
制作中の「おぐにまち歩きマップ」。2025年2月から町内の道の駅や役場などにて配布

 移住者の目線で選んだおすすめの場所やお店を熟考し、紹介コメントを寄せています。ひかりさんがコメントをしている場所のひとつ、「いづみや金物店」は一見、閉店しているような店構え。「だけど、中に入ると昭和レトロなデザインの食器があったりして、タイムスリップした宝探し気分になれるんです!」と、熱く語ってくれました。

 小国町を訪れたら見どころが凝縮されたマップを参考に、ぜひまち歩きを。ひかりさんをはじめ制作委員会メンバーのリアルかつ、ほっこりするような小国愛を感じるコメントから、まちの魅力が伝わってきますよ。

協力/小国町産業振興課
撮影/星 亘(扶桑社)、取材文/カラふる編集部