大分県南部、佐伯(さいき)市蒲江(かまえ)から船でおよそ30分のところにある住民11人の小さな離島「深島(ふかしま)」。島の周囲は約4km、20分も歩けば集落すべてを回ることができる小さな島で、70匹の島ネコに囲まれ暮らすあべあづみさんに日々のことをつづってもらいます。今回は、深島で感じる季節の移ろいについて、それぞれの季節の空や海の様子と、深島ならではの過ごし方をレポートします。
島で暮らして気づいた季節の移ろい
私は、深島に移り住むまでは、食べ物や植物で季節を感じることが多くありました。春といえば、フキノトウやタケノコ、セリをとったことを思い出します。夏は山の緑が濃くなって、まるでブロッコリーのように見えたり。秋になれば庭の柿が実り、通学路にはクリが落ちていました。キンモクセイの香りがふわっと香るのも大好きでした。冬は北風が寒くときどき雪が降り、暖かい食べ物や飲み物がおいしくなります。
大分県内と比べて少し温暖な気候の深島は、植生が違うためか風景や植物で季節を感じることがあまりありません。春は緑や花が増えますが、冬でも花は咲いています。キンモクセイは過去にじいちゃんが何度も植えたらしいのですが、なぜか島では育たないそう。柿は昔は実っていたようですが、今ではなぜか渋柿になっていて、カラスたちが食べています。春の山菜も少ないし、ウグイスは寒いうちから鳴き始めます。
島に来たばかりの頃は、深島は大好きだけど、これまで本州で過ごしていたときと同じように季節を感じることができず、それだけが少し残念だなあと思っていました。
でも、最近は島に来る前とは違った季節の感じ方ができるようになり、なんだか少し「島の人」に近づけたような気がしています。深島では春夏秋冬だけでなく、梅雨の時季や秋雨の頃、冬と春の間、などの微細な季節の移ろいを感じることができます。私も、食べ物や気温だけでなく、海の色や空の色、空気感で季節を感じることができるようになりました。
ツワブキから始まる深島の春
深島の春はツワブキから始まります。春というより、冬と春の間かもしれません。1月の半ばあたりからばあちゃんたちがソワソワし始め、定期船までの道の途中で、両手いっぱいのツワブキを摘んで歩くようになります。足も腰も膝も痛い痛いと言いながら、ツワブキの新芽を見つけるとそんなことは忘れるようで、草むらも分け入ってズンズン進み、30分戻ってこないことも。
見ているほうが心配になるので、私も子どもたちも島のおじちゃんも、2月から2か月ほどは毎日ツワブキの観察が欠かせず、見つけ次第摘んでばあちゃんたちのところに持って行きます。摘んだ後のツワむきも深島の風物詩。この風景が見られるようになると、もうすぐ暖かくなるなあと、春の訪れを感じます。
春になると、海は少しペタっと、透き通った冬の海から、ゆらゆらとして少しぽてっとしたような、もやもやっとした海になります。灰色がかった空の色はきれいな水色に、島のあちこちで咲く花たちと空の水色のコントラストがとてもきれいな季節です。
ゴールデンウイークも間近になると時折、濃い青に真っ白な雲が浮かぶ夏の空が見られるようになります。海は相変わらずもやもやな日も多いのですが、空の色を映したような濃い青やエメラルドグリーンのようなきれいな色になる日があります。
そして、そんな海で始まる海遊び。海遊びといえば夏かもしれませんが、深島では春と夏の間にも海遊びがあります。もちろん子どもたちは泳ぎますし、とても暑い日は大人も普段着のまま海に浸かって涼みます。でもシュノーケリングをするほどの水温と気温ではなく、ちゃぷちゃぷ遊ぶくらいがちょうどいい、というのが深島の夏の始まり。深島では公式の海開き行事などはなく、遊泳期間も決まっていないため、ゴールデンウイークにはみんなで泳いでいました。
ゴールデンウイークが過ぎると今度は梅雨が来る頃。梅雨はどんより曇り空が多く、海もなんだか重たそうに見えるようになります。最近はしとしと雨の降る梅雨ではなく、大降りの雨になることも多いですが、雨上がりのきらきらした景色は梅雨ならでは。島の緑色がだんだんと濃くなり、夏が近づいてきます。晴れの日の朝は朝露がとてもきれいです。
また、梅雨の時季はイサキが釣れる季節。深島のcafeと宿から見える海に浮かぶ磯「ウスバエ・ナカノハエ・ツバクロ」のあたりに釣船が並ぶようになります。じーじ(夫のお父さん・義父)がイサキを持ってくると、今年もイサキの季節だなあと感じます。
夏が来ると青い空に入道雲が浮かび、海もはっきりとした青に変わります。
一方で台風が近づくと海も空も空気も一変。大きなうねりで白い飛沫が磯を打ち付けます。海はにごり、本当にここで泳いでいたの!?というほど荒れてしまい、自然の脅威を感じますが、これも深島の夏。荒れた海もとてもきれいです。
暖かい日はネコと日向ぼっこ
夏休み期間の深島は来島するお客さんの対応で大忙し。繁忙期を抜けると、秋がやってきます。9月になると気温は高くても海は深い青緑に、空はすーっとした空になります。そしてなんといっても伊勢海老とイカの季節。最近は行われていませんが、毎年9月9日は大明神様のお祭りがあり、9月に入るとすぐに島の人たちみんなでイセエビ漁をしていました。
「今日はいくつとれた」、「明日はあの辺りに網をかけてみよう」、という会話が毎日のように続きます。9月も半ばを過ぎるとだんだんとイカの話題も増えてきます。「港でこれくらいの大きさのイカを見た」、「昨日釣れた」、「市場でいくらで売れたそうだ」、などそれもほとんど毎日島のあちこちで話題になります。近年は、秋になるとカツオが釣れることが増えてきました。季節で釣れるお魚が変わるのも深島の楽しみのひとつです。
夏が終わって秋が来たと思ったら、すぐに冬が訪れます。秋の深緑の海がより一層冷たそうな色に変わりますが、ときどきびっくりするような透き通った青になることがあります。私は秋の海と冬の海がいちばん好きです。ぜひ一度寒い季節の海も見にきてください。
冷たい北風が吹く深島の冬ですが、晴れて風のない日は穏やかでポカポカ陽気。とても気持ちがよく、そんな日はネコたちと日向ぼっこします。また、深島の冬といえば魚のしゃぶしゃぶ! 島に来て初めて食べるものがたくさんありましたが、冬はとくに魚がおいしく、心も体もほっこりと温まります。
深島に来るまで知らなかった季節の移ろいの感じ方。はっきりした春夏秋冬の変化だけでなく、その間にある季節の移ろいのグラデーションは、本当に心を豊かにしてくれます。小さな変化を毎日感じられる島の暮らしですが、きっと皆さんの近くにも小さな小さな変化があるはず。ときどき空を見上げたり、小さな植物や生き物たちに目を向けてみてくださいね。
<写真提供・文/あべあづみ>
【あべあづみ】
住民12人の小さな離島「ふかしま」の島民。「深島を無人島にしない」をミッションに、夫と2人でぃーぷまりんとして深島みその製造やinn&cafeの運営をしています。深島にすむ人も来る人もネコもほかの生き物たちも、みんなが今よりほんの少し幸せになれる島を目指しています。尊敬する人は深島のばあちゃんたち。ふかしまにゃんこ(@fukashima_cats)、深島活性化組織Deepblue