農業未経験から女性2人で干しイモづくり。移住でかなえた自分らしい仕事と暮らし

「第1回 ニッポン移住者アワード」で、「ウェルビーイング賞」に輝いたのが、茨城県ひたちなか市で干しイモファームを営む鈴木梨紗さんと北川千晴さん。そのほか、仕事や子育てなど、地方移住で自分らしいライフスタイルを実現した3人をご紹介します。

友人同士でファームを運営。地域に溶け込みながら干しイモづくりに奮闘

畑の中で笑う女性2人
ひたちなか市の鈴木梨紗さん・北川千晴さん

 茨城県の県庁所在地、水戸市に隣接した太平洋沿いの自然豊かなまち、ひたちなか市。干しイモの生産量日本一でも知られます。

 ひたちなか市で干しイモづくりに奮闘している、鈴木梨紗さんと北川千晴さん。「第1回ニッポン移住者アワード」では、「ウェルビーイング賞」を受賞。女性2人で就農し、地域の協力を得ながらたくましく生きる姿が高く評価されました。

 鈴木さんの「農業やらない?」のひと言に北川さんが呼応し、東京近郊からひたちなか市に移住。農家などでの修行を経て、2021年に「ヤマブキファーム」を開業しました。ともに農家の出身ではなく、開業までには多くの苦労があったそう。「修業先をはじめ、たくさんの人に支えられました」と話します。

「ヤマブキファーム」では、サツマイモの生産から干しイモの加工、販売までを一貫して行い、形がふぞろいなイモもムダなく活用。SDGsにも配慮する真摯な姿勢は地域に支持され、第3回日本さつまいもサミットでは「Farmers of the year 2021-2022」を受賞。全国的にも注目のファームになりました。

 ひたちなか市では、移住を検討する人にオーダーメイドの体験会を実施。先輩移住者と交流しながら、暮らしまわりの環境を確認できます。また、県外出身の子育て世帯を対象に住宅取得費用を助成するなど、移住者を支援する制度も充実しています。

アートを起点に造形教室、ものづくり事業へ。まちの魅力をさまざまに表現

日本家屋の縁側に座る笑顔の女性
ひたちなか市の臼田那智さん

 美大卒業後、東京でアーティストとして活動していた臼田那智さん。2016年にひたちなか市那珂湊地区の芸術祭に参加し、地域の人たちと協働するアートの魅力に開眼しました。

「地区で300年以上続く伝統神事『みなと八朔まつり』を守る人たちの思いに感銘を受けたことも、移住を決意した理由です」と話す臼田さん。2017年に移住後、水戸市の看板デザイン会社で働きながら、祭りを題材に子どもたちとつくり上げるアートプロジェクトに注力。その延長で、移住3年目には造形教室を立ち上げます。

 結婚を機に、夫婦でものづくり事業「ヤナチ製作所」として、祭りやイベントのポスター、まちのモニュメントなど地域の魅力を表現する制作を展開。2022年には長女が誕生し、より地域に溶け込みながら幅広く活動に取り組んでいます。

山の恵みと人との結びつきに支えられて。病を乗り越え新しいチャレンジも

田んぼの中で笑う家族
小国町の佐藤 茜さん

 山形県南西部に位置し、山に囲まれた小国町は、雪に覆われる冬の景観が美しいまち。子育て支援医療給付制度や、移住者が対象の住宅・リフォーム支援などの施策が充実しています。

 東京で3人の子どもを育てながら保育教諭として勤務し、多忙な毎日を送っていた佐藤茜さん。「家族と向き合う時間をつくりたい」と夫と話し合い、2021年に小国町へ移住しました。

 小国町では、希望の収入や時間に合わせて仕事をアレンジし、自分らしい生き方ができる「マルチワーク」を推進。移住を検討する人たちの相談に対応しています。また、移住者の女性が中心となって発足したコミュニティー「つむぐ」では、移住者同士や地域の人たちと交流する機会を設け、移住後の暮らしをサポート。

「移住前の下見で役場の人たちが親身に対応してくれ、移住者コミュニティーの存在も決め手でした」と話す佐藤さんですが、なんと移住直後に悪性リンパ腫が発覚。その後抗がん剤治療を開始し、翌年には寛解しました。「療養中は地域の人たちにも支えてもらいました。家族だけでは乗りきれなかったと思います」(佐藤さん)

 2023年には町の助成金制度を使用し、無農薬・無添加の山の恵みを販売するECサイト「きせつ家」をオープン。病気をきっかけに育て始めた天然のヨモギ茶や山菜などを販売しています。2024年には第4子を出産し、夫婦で農業を始めるなど、新しいチャレンジもしながら豊かな暮らしを送っています。

移住のきっかけは結婚。暮らしを充実させながら地域活性化に貢献

笑顔で並ぶ8人の男女
常陸大宮市の松原 功さん(前列右)

 茨城県の北西部に位置し、里山の自然とまちの要素をもつ常陸大宮市。東京で会社員をしていた松原功さんは、2018年、常陸大宮市で地域協力隊として活動していた妻との結婚を機に、常陸大宮市に移住しました。

 自身も地域おこし協力隊で3年間活動し、退任後はWEBサイト制作の仕事をしながら、地域おこし協力隊OBOGネットワークの副代表を務めるなど、コミュニティー支援や地域活性化に取り組んでいます。

「常陸大宮の魅力は、美しい自然、手仕事や食の文化、地域の人たちとの自然で温かな交流」と語る松原さん。2023年に子どもが誕生。初めての子育てでは、自身も地域のつながりに助けられたそう。

 常陸大宮市では、移住希望者を対象に、アクティビティ体験や農業体験、先輩移住者や地域の人と交流する体験プログラムを用意。

 また、新婚世帯や子育て世帯への家賃補助や住宅購入の際の補助、25年間賃貸住宅として住むと持ち家となる子育て世帯向け住宅の整備を進めており、令和7年3月より入居者の募集を開始するなど、住まい関連の支援も充実しています。そのほか、妊娠期からフォローする子育て支援や、全国でも珍しい不妊治療費の全額助成も実施。

 現在は、地元の魅力を動画コンテンツなどで伝える市民放送局「ひたちおおみや放送局Keydecke」でも活動する松原さん。「『番組を見て自分たちの地域に誇りをもてた』との声をいただくことに喜びを感じています」と話します。

移住で自分らしい暮らしを実現した人を表彰する「ニッポン移住者アワード」

壇上に並ぶ受賞者たち
「第1回 ニッポン移住者アワード」受賞者

 全国の自治体などからの推薦によって候補者を募集し、移住で理想的な暮らしを実現した人たちを表彰する「ニッポン移住者アワード」。2024年12月に第1回目が行われ、12自治体18組の移住者がエントリーしました。

 自己実現・家族の幸せ・地域貢献・コミュニティー活性化・事業立ち上げ・伝統継承・次世代育成など、さまざまな視点で審査され、大賞ほか各部門賞を選考。

 同時に各自治体などの取り組みも審査し、移住者や地域の人たちにとって魅力的な移住促進施策を行っている自治体が表彰されました。

<取材・文/カラふる編集部>