「第1回 ニッポン移住者アワード」で「地域創生賞」を受賞した佐賀県有田町の上野菜穂子さんと、「地域産業賞」を受賞した愛媛県伊予市の上田沙耶さん。そのほか、地元産業の振興に取り組む2人の移住者をご紹介します。
佐賀県西部にある有田町は、日本を代表する伝統工芸品である有田焼の産地。江戸時代からの建物が建ち並ぶ内山地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
上野菜穂子さんは、400年以上にわたって暮らしに焼きものが根づくこのまちに魅かれ、2017年に地域おこし協力隊として移住しました。空き家の利活用に取り組みながら、まち全体を百貨店に見立て、まち歩きと買い物を楽しめる「うちやま百貨店」を企画。多くの観光客が訪れる毎年恒例のプロジェクトに育て、新設店も増加していきました。それに加え、町の銘菓「ちゃわん最中」の復活も成功させています。
「伝統あるまちで移住者がなにかを始めるのは簡単ではないですが、まちの人との関係をコツコツ築き、周囲を巻き込みながら行うことが大切だと思います」と話す上野さん。伝統あるまちに新しい未来を織り込んだ取り組みが評価され、「地域創生賞」を受賞しました。協力隊退任後はNPO法人「灯す屋」事務局長として、新しい取り組みに挑戦する人をあと押ししながら地域の活性化に取り組んでいます。
有田町では、移住定住サイト「ありた暮らし」や相談窓口で、移住希望者をサポート。新築住宅の取得支援や、空き物件の情報提供や空き家の活用に対する費用補助などの制度もあります。
大学在学中に移住し、まちの魅力を引き出すモノ・コトづくりを展開
愛媛県の県庁所在地、松山市から約10kmに位置し、瀬戸内海の景観に恵まれる伊予市。移住定住ワンストップ窓口「いよりん」では、先輩移住者がカウンセラーとなり、地域の団体と連携しながら移住相談に対応しています。
移住を検討する人を対象に、オーダーメイド型の体験ツアーの実施やお試し住宅を用意するほか、10日間働きながら滞在できる、ふるさとワーキングホリデーも実施。空き家の活用で費用を助成する制度も設け、移住定住を促進しています。
上田沙耶さんは2020年、大学4年生のときに横浜から父の故郷である伊予市双海町に移住。オンラインで講義を受けながら、地域おこし協力隊の活動をスタートしました。地元のおいしいものを届けるECサイト「ふたみおうち便」を皮切りに、地域の魅力を発信中です。
原動力は「幼少期から訪れていた、大好きな双海に活気を取り戻したい」との思い。祖父母が営んでいた喫茶店の復活、さらにクラウドファンディングの活用でゲストハウスを整備して「泊まれる喫茶店」を開業するなど、独創的な取り組みを連発しています。
協力隊退任後の2024年2月には、地域総合商社を設立し、一軒貸し宿やシェアハウスの運営、はしご酒イベントなどを展開。「ミッションは双海のファンづくり。地域の魅力を磨き、必要なモノ・コトをしなやかにつくり続けられる存在でありたいです」(上田さん)
こうした地域資源を生かす事業展開のスピード感と実行力が評価され、見事「地域産業賞」を受賞しました。
「深海魚でまちおこし」をミッションに直送便を考案
静岡県東部、富士山と海の景観に恵まれた沼津市。青山沙織さんは、将来の起業を念頭に、神戸市の航空機メーカーから沼津市の地域おこし協力隊に転身。「深海魚漁が盛んな戸田地区でのまちおこしがおもしろそう。ここでの経験を起業に生かしたい、と決意しました」(青山さん)
移住初年度の2018年に「駿河湾の深海魚アートデザインコンテスト」を手がけ、翌年にはより規模の大きい「深海魚フェスティバル」を成功させます。
そして2020年、コロナ禍に突入したことで、港で未利用魚や未活用魚を直接買いつけ、箱詰めして全国に届ける「深海魚直送便」を発案。めずらしい深海魚が福袋のように届く直送便は人気を呼びました。
「漁師さんの収益増加や廃棄魚の削減にも貢献でき、手ごたえを得ることができました」と話す青山さん。協力隊卒業後も直送便を継続しながら、特産品の開発など順調に事業を展開しています。
沼津市では、移住を検討する人の相談に対面やオンライン、LINEなどで対応。また、民間事業者と連携した「ぬまづ暮らしオススメ隊」が移住から定住までをサポートし、オーダーメイドでルート設定できる2時間無料の市内タクシー案内も用意しています。そのほか、お試し移住の宿泊費を最大5泊まで補助する制度や、県外から移住し、新たに就業した人などを対象に交通費を支給する制度も。
名産のミカンを通じてフードロス削減や生産者の所得向上を達成
愛知県で会社員をしていた今田隼輔さんは、自然豊かな環境での暮らしを希望し、2023年に夫婦で沼津市に移住。「2人が好きなアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台になったことも沼津を選んだ理由でした」と話します。
地域おこし協力隊として、地域産品の開発や販路拡大をミッションに活動。2024年3月には、名産の西浦ミカンを使った日本初のミカン果汁100%のスパークリングドリンクをリリース。これまで廃棄されていた規格外品のミカンを原料として使うことで、生産者の所得向上やフードロス削減にも貢献しています。
さらに、「沼津エリアに小規模規模事業者が委託できる加工場がない」という課題を解決するため、ジュースやジャムの加工施設の設立に着手。「輸送費の負担を減らすことで一次産業の所得向上につなげたい。2025年10月までの完成を目指しています」(今田さん)
移住で自分らしい暮らしを実現した人を表彰する「ニッポン移住者アワード」
全国の自治体などからの推薦によって候補者を募集し、移住で理想的な暮らしを実現した人たちを表彰する「ニッポン移住者アワード」。2024年12月に第1回目が行われ、12自治体18組の移住者がエントリーしました。
自己実現・家族の幸せ・地域貢献・コミュニティー活性化・事業立ち上げ・伝統継承・次世代育成など、さまざまな視点で審査され、大賞ほか各部門賞を選考。
同時に各自治体などの取り組みも審査し、移住者や地域の人たちにとって魅力的な移住促進施策を行っている自治体が表彰されました。
<取材・文/カラふる編集部>