「第1回 ニッポン移住者アワード」でグランプリに輝いたのは、長野県原村の橘田美千代さん。三重県桑名市のスペイト・ダニエルさんは地域でバイリンガル教育を立ち上げ、「子ども未来賞」を受賞。そのほか地域資源やポテンシャルに着目し、事業化した2人をご紹介します。
村の子育て環境を充実させたい。地域の人たちとともに保育園を設立
長野県諏訪郡原村は、八ヶ岳の西麓に広がる高原に位置し、四季折々の自然に農村風景が溶け合う美しい村です。
この原村で「乳児の預け先がない」という地域課題に向き合い、保育園を開設した橘田美千代さん。東京で45年以上乳児保育に関わった後、2020年に移住しました。
「当初は花を育てながらのんびり暮らすつもりでした」と話しますが、村の保育園は産休明け保育に対応しておらず、若い両親が困っていることを知り、地域の人たちとプロジェクトを発足。寄付やクラウドファンディングを活用して、2022年に「八ヶ岳風の子保育園」を開設しました。
0歳から2歳まで定員20人の園では、無添加の手づくりおやつや食事にこだわり、自然体験を重視した保育を実践。休耕地を借り、野菜も育て始めました。「恵まれた環境での少人数保育は、子どもたちの心の成長がよく見えます」(橘田さん)。
子どもたちの健やかな成長のサポート、子育て課題を村全体で取り組む姿勢が評価され、見事グランプリを受賞した橘田さん。現在は保護者の希望に応え、5歳児までの定員40名の保育園の設立に向けて、さらに奮闘中です。
原村では、現地出身者や先輩移住者など、さまざまなメンバーからなる「田舎暮らし案内人」が、移住希望者を親身にサポート。移住前の見学では、一度に複数の不動産物件を巡れるツアーへの参加や、移住体験住宅の利用ができます。また、3歳未満児の保育料負担軽減に取り組むとともに、令和5年度には子ども・子育て支援拠点を開設し、子育て支援の充実を図っています。
子どもたちの可能性を広げるバイリンガルプリスクールを設立
三重県北部、名古屋市から25km圏にある桑名市。「中部エリアで子どもを育てるなら桑名がいちばん」を目標に掲げ、育児にもっとも手がかかる3歳未満の子どもの保護者を対象に、リフレッシュや一時預かりに使えるチケットを支給しています。
子ども医療費の助成では所得制限を設けず、高校生まで対象を拡大。移住定住施策では、働く世代の移住者が市内で住宅を取得すると、最大100万円を助成する制度を設けています。
そんな桑名市で未就学児向けの英語教育スクールを運営し、次世代を担う子どもたちの成長をあと押しする「子ども未来賞」を受賞したのが、スペイト ダニエルさん。
オーストラリア出身のダニエルさんは、名古屋で英会話スクールを運営した後、子どもたちへの英語教育を実践する場所として住環境と緑の自然に恵まれた桑名を選び、2014年に移住。2018年、1歳半から幼稚園年長までを対象とする「桑名インターナショナルプリスクール」を開園しました。
「子どもたちは完全英語のスクール生活を送り、バイリンガルに育つことで、たくさんの可能性を身につけます」(ダニエルさん)
スクールは国の無償化対象基準を満たす認可外保育施設で、保護者の負担を軽減。「卒園生を地域に送り出し、コミュニティ全体の英語力アップにつながっている実感もあり、英語教育者として幸せを感じています」と話します。
人と人をつなげ、まちを盛り上げる都市型キャンプ場を開業
埼玉県南東部に位置する越谷市は、東京都心から25km圏内にあるベッドタウン。若い世代にも越谷の魅力を伝えようと、空き家バンクのマッチングや市内で創業する際の初期費用の一部助成など、移住者を応援する事業を行っています。
また、長時間預かりを実施する「こしがや『プラス保育』幼稚園」の整備や、高校生相当までの医療費を一部支給するなど、充実した子育て支援制度も魅力です。
妹尾早南さんは、2016年に夫の転勤で兵庫県から越谷へ転居。自然が豊富で、外から来る人を歓迎する気風の越谷がすっかり気に入り、2000年に永住を決意しました。
しかしその直後、コロナ禍に突入。行動が制限されるなかで「近くにキャンプ場があればいつでもリフレッシュできる」と事業化を構想し、会社を設立。行政や団体の創業イベントなどで活動しながら計画を推し進め、2024年に3月に「キャンプナノ越谷キャンプ場」を開業しました。
徒歩や電車で行ける都市型キャンプ場は、テレビでも取り上げられて話題に。「キャンプそのものを楽しむのはもちろん、キャンプと農業体験や防災、食などを組み合わせて人と人がつながる場にすることが目的。キャンプをきっかけに、越谷が好きになる取り組みをどんどん展開していきます」(妹尾さん)
伝統の花づくりを新しいなりわいに。産地の魅力を高める拠点づくりにも挑戦
福井県の県庁所在地で、城下町の歴史をもつ福井市。髙橋要さんは大学卒業後、地域づくりの仕事を志し、2015年に福井市に移住。地域おこし協力隊として実績を積みました。
退任後は、コーディネーターなどの立場で数多くのプロジェクトに参画。さまざまな地域課題に向き合うなかで、高齢化や後継者不足により、福井の県花で、高級花として重用されるニホンズイセンの生産農家が減少していることを知ります。
「若い世代にニホンズイセンの魅力を知ってもらい、産地の風景を未来につなげたい」と、2021年に仲間たちと合同会社「ノカテ」を設立。流通にのらなかった花をブーケに加工して販売し、「なりわい」の可能性を広げています。
2024年夏には、産地の観光や交流の拠点を目指し、越前海岸沿いの花畑の景観を楽しみながら過ごせる一棟貸しの宿「点景」を開業。新たな生業づくりと地域の魅力向上に取り組んでいます。
福井市では、オンラインで移住相談が可能。市での暮らしをイメージしやすいよう、親子ワーケーションプログラムや移住体験ツアーを実施しているほか、移住者同士の交流会も開催。また、移住者への支援金の交付や、30歳未満で市内の中小企業に就職した人を対象とした奨学金の返還支援制度も設けています。
移住で自分らしい暮らしを実現した人を表彰する「ニッポン移住者アワード」
全国の自治体などからの推薦によって候補者を募集し、移住で理想的な暮らしを実現した人たちを表彰する「ニッポン移住者アワード」。2024年12月に第1回目が行われ、12自治体18組の移住者がエントリーしました。
自己実現・家族の幸せ・地域貢献・コミュニティー活性化・事業立ち上げ・伝統継承・次世代育成など、さまざまな視点で審査され、大賞ほか各部門賞を選考。
同時に各自治体などの取り組みも審査し、移住者や地域の人たちにとって魅力的な移住促進施策を行っている自治体が表彰されました。
<取材・文/カラふる編集部>