山形県小国町に地域おこし協力隊として移住した岩手県出身の欠端彩乃さんが、町での体験などを発信します。今回は地域住民が主催するイベント「雪の中の大冒険」をレポート。
豪雪地帯だからこそできる雪のイベント開催
世の中は春の足音が聞こえてくる3月。小国町は、まだまだ雪景色が広がっています。町中心部から南へ車で25分。旧小玉川小中学校を会場に今年で11回目となる「雪の中の大冒険」が開催されました。
町内でも降雪量のトップを競う小玉川地区では、2025年2月には3m越えの積雪量を記録しています。3月まで雪があることを自慢したいとの思いからはじまったイベント。さまざまなアトラクションで雪を存分に楽しむことができます。
メインは雪の迷路。ライトアップで幻想的な雰囲気に
メインとなるのは、雪の大迷路。旧小玉川小中学の校庭の広大な跡地に、大人も隠れる高さの迷路が出現。前夜祭では、ライトアップされ幻想的な雰囲気に大人もうっとり。心安らぐ風景が広がっていました。
また、雪山を背景にした打ち上げ花火も。周囲は山々に囲まれているため打ち上げた音は反響し、全身に響きわたります。体全体で受け止める花火をはじめて体感しました。
地域の伝統行事「歳頭焼き」も開催
いちばん来場者の視線が集まったのは、伝統行事である歳頭焼き(さいずやき)。歳頭焼きとは、ほかの地方ではどんと焼きなどと呼ばれる小正月行事の火祭りのことです。
前夜祭ではその伝統行事を再現。年男として巳年生まれの男の子が火を点けます。イネ科植物のマコモダケが使用されたため、ほのかに香ばしい香りが漂います。冷えきったほおがだんだんと温かくなり、炎が天高く燃え上がる頃には心もじんわりと温まっていました。
地元の青年団を中心に地域の人の力でイベントをつくる
イベント準備の指揮をとるのは、小玉川青年団・イチコロのみなさん。とってもエネルギッシュな集団です。イチコロは地区の集落名の頭文字をとり名付けたものだそう。会場準備や翌日の運営をお手伝いのために朝8時に集合していました。
私たち地域おこし協力隊や、地元の高校生のほか観光ツアーで訪れた人も手伝いに参加。人のつながりが希薄化してきているなか、若者を巻き込める力に驚きました。初めましての人とも打ち解け、すぐに仲間となれる雰囲気は小国町ならでは。元気な地元の人の姿に自然と協力者が集まるのでしょう。
雪の巨大迷路は、半日ほどで前夜祭当日に完成させるとのこと。普段から除雪に慣れているみなさんにとって、除雪機の運転はお手のもの。除雪機から噴き出す雪のシャワーは見事に高く舞い上がり、みるみるうちに完成していきます。
一方で、苦労していることも。イチコロの藤田鉄也さんは、「雪の量は予想がつかず毎年苦労しています。12月頃からアイデアを出し合い、降雪量を予測して今年のイベント内容を決めているんですよ」と教えてくれました。
高校生や女性は、校舎内で備品準備やアトラクションの道具製作に取り組みます。お互いに“○○ちゃん”と呼び合い、アットホームな雰囲気。女性もとってもパワフルな人ばかり。裏方作業ですが、休憩時間前には集合して黙々と作業を続ける姿が印象的でした。
今年初の人間ボウリングなどアイデアのつまったアトラクションも
当日は、アトラクションも満載。人間ボウリングは、今年初めての開催。そりなどに乗り、ピン目がけて斜面を滑ります。ストライク目指して途中で進路変更する子どもなど、その技術に驚かされる場面も。
また全国で人気のティラノサウルスレースも。小国町では、雪面を走り早さを競います。走るたびにティラノサウルスの顔が揺れる姿はかわいく、観客は思わず笑顔に。
そのほか、スノーフラッグや迷路内での宝探し、スノーモービルで引っ張られるバナナボートも行われました。
こうしたアトラクションのアイデアは、イチコロのみなさんが子どもの頃に楽しかった思い出を、今に合わせたかたちで再現しているそう。2017年には、「輝けやまがた若者大賞」、2018年には「チャイルド・ユースサポート賞」を受賞。自分たちが楽しいと感じられることをやることが評価につながる秘訣なのかもしれません。
地域の人の力で地元を盛り上げるイベント
イベントの最後を飾ったのは毎年恒例のもちまき。前夜祭を含め無事に終わったことに感謝し、運営側から来客に振舞われます。2日間お手伝いに参加した高校生は、「事務作業に関わりました。想像より大変だったけど、この作業があるからイベントが成り立つんだなと知り、たずさわれてよかった。たくさんの人の協力があって無事に成功となりうれしかったです」と話してくれました。
また藤田さんは、「最初は来場者も少なく、自分の子どもなど身内がお客さんでした。だんだんと来場者も増え、今ではやりたいこともやれるようになってきました。当時、お客さんだった自分の子どもが今では手伝う側になり、名前の分からない方たちも協力してくれるまで、イベントが成長してとてもうれしいです」とこれまでを振り返り、笑顔で答えてくれました。
2025年は278人の来場者を記録。町内のみならず、関東方面からも訪れる知名度のあるイベントとなっています。地域のシンボルでもある閉校校舎を活用し、地元の人の力で地域を明るくする。その活動が多くの人をひきつけるのだと感じました。来年のさらなる拡大に期待大です。
<取材・文/欠端彩乃>
欠端彩乃さん
岩手県盛岡市出身。山形県の大学で民俗学を専攻し、同県小国町地域おこし協力隊となり、町の歴史民俗資料館の立ち上げに取り組む。地域に息づく文化やそれらの人びとの思いに関心をもち、地域を超え次の世代へ受け継げたらと、発信している。