激務、不妊治療、ワンオペ育児…私が娘と田舎に移住したわけ

[憧れの田舎暮らしを母子でスタート 第1回]

 東京のIT企業でバリバリ働いていた祥子さんは、2年前の秋に当時2歳のお子さんと母子で岡山県和気郡和気町(わけちょう)に移り住み、長年憧れ続けた田舎暮らしを手に入れました。夫は仕事の都合で都心を離れられず単身赴任です。祥子さんの移住への強い思いをとおし、田舎暮らしのリアルと和気町の魅力をうかがいます。

田舎暮らしに憧れたきっかけは高校生のとき

和気町(田んぼ)
求めていたイメージ通りの「田舎の風景」

 2018年9月に当時2歳の娘を連れて、東京から岡山県和気郡和気町に移住してきました。今は在宅でリモートワークをしながら、現地でパソコンのインストラクターをしています。

 子どもの頃から親の仕事で東京、横浜、神戸、海外まで、いわゆる都会のなかを転々としてきましたが、どこへ行っても生活環境や人との距離感、家族との時間の過ごし方など代わり映えしなかった記憶があります。そんな私の田舎暮らしへの最初の憧れは、シンガポールにいた高校生のときでした。いろいろな国の子どもがいるなかで、自分には日本人として日本文化を伝えられる要素がまったく備わっていない気がして、単純かもしれませんが、日本文化を象徴する童歌や絵本の風景に出てくるような日本の田舎に住んでみたいと思ったのです。

和気町の山と川
「まるでフィヨルド!」と感じた和気町の山と川

激務、婚活、不妊治療…いつもなにかに追われていた20~30代

 田舎暮らしへの憧れは残したまま、まずは就職! と東京でWebデザイナーという仕事に就きます。余談ですが、最初の就職時にITの時代が来ると読み、家でもできる仕事を選んだことは、今でも正解だったなと思っています。ただ、当時はIT企業のサラリーマン。今のように働き方の規制も厳しくなく、平日は深夜まで、週末も出勤する日々が平気で続く環境でした。それでも高校生からの憧れは色あせることはなく、暇を見つけては、移住イベントやセミナーに参加し、実際にいろいろな地方も見に行きましたが、なかなかふん切りがつかないまま、気づいたら30歳目前になっていました。
 
 私は中学生の時に卵巣嚢腫を患い、卵巣を1つ切除していたため、結婚、妊娠への焦りがあり、仕事の忙しさに加えて人生設計への不安が立ちはばかります。結局35歳で結婚したのですが、結婚後すぐ、残った卵巣も嚢腫になってしまい…。幸い卵巣は残せたのですが、そこから長い不妊治療が始まりました。

 3度の初期流産を経験し、通院のほかにも鍼治療や漢方治療など、ありとあらゆる手段を取りましたが、いいところでいつもダメになってしまう…。やっと妊娠しても本当に大事な妊娠初期に職場に言えないストレスも大きく、いよいよ40歳が近づいて、このままでは本当に妊娠できないかもしれないと、思い切って39歳で仕事を辞めて最後の1年に賭けたところ、辞めてすぐに妊娠することができました。

子どもとの穏やかな日常
子どもとの穏やかな日常

子育ての大変さと孤独から、心の余裕を田舎暮らしに求めて

 妊娠中から、東京という環境がいけないのかもしれない、子どもが生まれたらますますここにいてはいけないのではないかと漠然と思っていましたが、出産後、想定内とはいえ多忙な夫は子育てに関われず、ワンオペのキツさと孤独は想定以上。「田舎に行ったら、子どもも私も心に余裕ができて、温かい人間関係のなかで安心して暮らしていけるかな…」と移住への思いはさらに強くなり、子育てによくて自分も伸びやかに過ごせる場所を探していました。

 よさそうな地域はたくさん見つけましたが、母子は危ない、子どもがまだ小さすぎる、知り合いもいないのに、など家族の反対もあり、やっぱり無理か…と諦めかけていた頃、たまたま乗った山手線の中吊りで、和気町のポスターに目がとまりました。そのポスターには、大きい文字でバーンと「子育てにいい町、和気町」と書かれていて、背景にはきれいな山と川。なんだかとても気になってすぐに検索し、子どもを連れて現地を直接訪れました。それからなんと3度目の訪問で部屋を決め、あれよあれよと半年後には引っ越したという、今思えばかなり思い切った行動に出ることになります。

 まずは、和気町に移住したきっかけをお話させていただきました。次回は、初めて和気町を訪問した印象や移住の決め手、具体的に移住に向けてなにをしたのかを、お話したいと思います。少しでも移住や田舎暮らしに興味がある方の参考になれば幸いです。

[憧れの田舎暮らしを母子でスタート 第1回]

祥子さん
40代のワーキングマザー。もうすぐ4歳の娘と2年前に東京から岡山県和気郡和気町に移住し、Webディレクターとして東京の仕事をリモートワークをしながら、地元でパソコンインストラクター、月1回パン教室も開催。趣味はフルート、フラダンス。