移住先どうやって見つける? ネットじゃわからなかったこと

「1年後に仕事を辞めて移住する!」と決めた瀬野さん夫婦。でも、移住先をどこにするか、なかなか決められません。毎晩ネットでいろいろ調べるうちに、気になる町を見つけ、訪問しますが…。

1日1つの町を調べて、移住候補地を探す

北海道の市町村が書かれた地図

 現在は、たくさんの移住者に囲まれた生活をしている私たちですが、その当時周りには、移住をした友達などいませんでした。なので、やったことはとても簡単なことでした。
 その名もネットサーフィン…。そして、情報の量にびっくりし、途方に暮れました。情報量がありすぎて、まず仕事なのか、住む町なのか、物件探しからなのかも見当がつきませんでした。

 そこで、私たちは北海道の全市町村が書いてある白い地図をプリントアウトし、毎晩子どもを寝かしつけたあと、仕事から帰ってきた夫と1日1町と決めて、その日のテーマとなった町を調べました。本当にそれはそれは幅広く、市町村のホームページから、不動産情報に求人、食べログにGoogleマップと、あらゆる方向からその町のことを徹底的に調べたのです。それが意外と面白く、晩酌しながらの毎晩の私たちの楽しみになりました。

 Googleマップで町の人を探したり、食べログで食べに行きたい店を考えたり、市町村のホームページでお祭りや町の行事を見たり、小学校の生徒数を見たり、そこに住んだ気持ちになってひたすら妄想をして楽しみました。遠足も行く前のワクワクが一番楽しいのと同じで、「ここに住んでさ、ここに野菜植えて…」と考えるのがすごく楽しかったのです。

 あまり効率的でもなく、参考にもならないやり方ですが、私たちはこんな感じで妄想ずみの町はマーカーで色を塗って、「住みたい町ベスト3」の順を確認しては寝るという日々を繰り返しました。当時2人目を妊娠していた私は、あまりアクティブに動くことが難しかったので、本当に気になった町は、ネットで検索をしまくり、Googleマップで隅々まで歩いたのです。それは、初めて上士幌町に引っ越してきた日、どこを曲がればスーパーに行けるかわかるくらい、完璧でした(笑)。

 休みの日は、ネットサーフィンで情報を得た「北海道移住フェア」のようなイベントにも参加して、そのとき気になっていた町のブースを何軒か訪ね、詳しくお話を聞いたりもしました。各市長村のパンフレットも、かなり熟読。

一番気になった町を訪問。でも「ここじゃないかも」

眠っている子ども

 そしてとうとう、私たちは気になった町ナンバーワンを道南の八雲町に決めました。移住支援も手厚いし、何より山も海もある景色のよさにひかれたのです。すっかり住む気分になって八雲町役場に連絡を取り、まずは夫1人で、町を実際に見に行きました。
 八雲町では、移住担当の地域おこし協力隊の方が2日間、夫に町や物件を丁寧に紹介してくださり、私は自宅でその報告を楽しみに待っていました。
 
 しかし、私たちが出した答えは結局、「ここじゃないかも」でした。
夫は、1日目の夜に「想像以上に便利そうな町だよ。大体何でも揃う。」とホテルから電話で話してくれました。でも、なぜかその話を聞いて「よし、ここに住もう!!」という気持ちにはなれませんでした。言ったことさえ忘れていましたが、そのとき夫に「そんな便利な町でいいの?」と返答したそうです。

 夫が話していた、「移住支援も手厚いけど、どちらかというと若い人より、両親ぐらいの世代がのんびり暮らすのによさそう」という感想も、ピンとこなかった理由かもしれません。そのときは、はっきりとした理由がわからなかったのですが、今思えば私たちが求めていたのは「便利さ」ではなかったからなのだと思います。

新鮮な野菜が並ぶお店

 昨年上士幌町で、都会の方がツアーで来た際に、私たち移住者に質問をする時間があったのですが、皆さん口々に「ここに住んでいて不便だと感じることはありますか?」とか「何がこの町にあればいいと思いますか?」と聞かれました。私たちは「特に思いつかない」と答えました。

 確かに映画館や大きなスーパー、ドラッグストアがあれば生活は便利になるかもしれません。でも欲しいとは思いません。なぜならここには、ここにしかないものがたくさんあるからです。

 大きなスーパーはないけれど、店内で子どもが走り回っていても「大丈夫だよ、見てるから、ゆっくり買い物しな〜」と店員さんが言ってくれます。夏場は週に1度、100円で野菜を買える、農家のお母さんたちが開く野菜市があります。雨が降れば、洗濯物を取り込んでてくれるお隣さんがいて、こんな時期は、子どもたちにマスクを縫ってくれるご近所さんがたくさんいます。

 確かに100均アイテムが1つ欲しいだけで、車を30分走らせなきゃいけない場所ですが、この町には、便利さなんか気にならないほどの豊かさがあります。もちろん「住めば都」と言うように、きっとあのまま移住していても楽しく暮らせていたと思います。でも、本当に親切に2日間に渡って町を案内してもらったのに申し訳なかったのですが、私たちは話し合い、また1から移住先を探すことにしました。

夫が突然「俺、林業をやる!」と言い出した

材木とヘルメットが置かれた林業の現場

 ただ、あのとき八雲町に行ったことが、意外な形で北海道移住の第一歩を踏み出すきっかけとなりました。東京に帰ってきた夫は、帰ってくるなりこう言いました。
「俺、林業をやる!」

 林業の盛んな街、八雲町で、林業の魅力をたっぷり聞いてきた主人は、すっかり木の仕事をやる気になって帰ってきました。林業に挑戦する若者を描いた三浦しをんの小説「神去なあなあ日常」が好きだった私は、そんな夫の決意にすぐ大賛成。こうして私たちは、北海道フェアから、林業フェアまで行くようになったのです。

<取材・文/瀬野祥子(ワンズプロダクツ)>

瀬野祥子さん
2016年に北海道上士幌町に家族で移住。現地でさまざまな仕事を経験し、夫と一緒にデザイン会社「ワンズプロダクツ」を起業、地域のニーズに応えている。