家業を引き継ぐためUターン。地元のイベントを発展させ雇用創出も

―[移住コンシェルジュ・尾鷲市漁村の田舎暮らし/第7回目]―

三重県南部の海沿いの町、尾鷲市に地域おこし協力隊として移住した郷橋正成さん。移住コンシェルジュとして奮闘していますが、そんな日々で出会った人や出来事をつづってくれます。今回はUターンで家業を継ぎながら、町おこしイベントなどを通して地域内のつながりや雇用創出にも力を入れている方を紹介してくれました。

父親が他界し27歳で会社の代表に

小倉裕司さん(29歳)

 高校卒業後、愛知の会社に就職した小倉裕司さん(29歳)さん。23歳で家業である浄化槽管理センター・南清社の仕事を継ぐために尾鷲へUターンして4年ほど経った頃、父親が他界し、「いつかは父親の会社を継ぐつもりではいましたが、こんなに早くなるとは思っていませんでした」と、27歳のとき会社の代表を引き継ぎました。

 浄化槽管理という仕事は、下水道などのインフラが進んでいない地域では欠かせないもので、各家庭に浄化槽を設置し、家庭から出る排水をきれいにするシステムです。

 尾鷲市は人口1万6000人ほどの小さな市で大学や専門学校がなく、20歳を迎えるまでに大半の若者は市外に出ていく傾向があります。その半面20代後半から40代のUターンや移住が多く、今回取材させていただいた小倉さんもその1人。尾鷲に戻ってこられてからは浄化槽管理センターの経営者としてはもちろん、地域の課題にも全力で取り組んでおられます。

地元の町おこしイベントの実行委員長に

2019年に行われた『第三回おわせマルシェ』

 私が小倉さんと初めてお会いしたのは2年前、尾鷲市商工会議所青年部が開催している『第二回おわせマルシェ』でした。そのとき小倉さんは実行委員長を務めていましたがビジネスと町おこし2つの観点から見ても、とても申し分のないイベントでそれを20代の方たちが率先して動かしていることにとても驚きました。

『おわせマルシェ』は回を重ねるごとに出店者と来場者が増え、去年は出店約140店舗、来場者は8000人を超えました。1万6000人の町に8000人を呼ぶイベントをつくり、成功させるのはたやすいことではありません。

『おわせマルシェ』について小倉さんに話を伺ってみると、「地元を盛り上げたいのが一番です。田舎だからこその問題、課題は山積みですが解決していくと宝になります。そんなチャンスがたくさんあるってことなんですよ」
 
 課題をチャンスに変える行動力が小倉さんの魅力の1つですが、それだけではなく「商業的にやっていくだけではダメだし、人がついてこないですね。たくさん失敗もしましたが地元に支えてもらって、みんなでつくり上げました。今回(カラふるの記事)は僕を取り上げていただきましたが、同じように地元を盛り上げたいと思っている仲間がいるからできたことなんです」という周囲の方々を大切にする姿勢にも、小倉さんの熱意を感じました。

家業以外にも新規ビジネスを立ち上げる

空き家の片付けや不用品買取もおこなっている

 尾鷲市の高齢化率は2015年時点で4割を超えており、東京都の2倍近くあります。問題解決にはいろいろなアプローチがありますが、小倉さんは古物商許可や遺品整理士の資格を取り、クロッシングサービスを立ち上げました。1人では片づけの困難な方や、空き家にある家財の処分など、地域の方に大変喜ばれているようでした。空き家となった古民家には所有者の方にとっては処分に困る家具などもありますが、少し手を加えることで需要の生まれるようなアンティーク品が眠っているそう。そういったお宝を買い付けてアップサイクルして販売するために、知人の家具職人と名古屋に工場を構えるほどで、小倉さんの行動力とスケールの大きさには驚かされるばかりです。小倉さんはいつでも「商売」と「地域貢献」2つの視点で動いているように見えます。小倉さん自身が言葉にされる目的も実に明確です。

「地域の課題と向き合い、商売にすることで解決する」

 簡単にできることではありませんが、筆者が見る限りすべてがうまく回っているように感じました。

おわせマルシェを通じて新たな雇用創出を

 小倉さんへの取材も終盤に差し掛かり、次回のマルシェについてたずねたところ「年1回で終わるのももったいないですし、キャパの問題もあって前回は出店者の方にずいぶんお断りもさせていただいたこともあり、今は常設型のマルシェをつくってるんですよ。それなりの雇用にもつながりますし、何より尾鷲に来ていただくきっかけの1つになればと思っています」

 まだまだ手付かずの倉庫を案内しながら大きな夢を語ってくれました。自信いっぱいに話すその構想は、簡単な内容ではありませんが不思議と小倉さんならやれるんだろうなと感じました。一度は地元を離れたUターン者ならではの発想で今、尾鷲に新しい風を吹かせています。

小倉さんの倉庫外観

小倉さんの倉庫内観

課題をチャンスに変える力

 小倉さんの言葉を借りれば「山積みの問題、課題は宝の原石」。課題も解決方法を工夫すれば地域資源になったり、ビジネスチャンスを生み出すことができる。「田舎には何にもない」と言いがちですが、実はそんな側面もあるのだと気づかせてもらいました。

 地元にお住いの方も、故郷を離れた方も今一度『自分の町』について考えてみませんか? そこには思いもよらぬチャンスがあるかもしれません。

―[移住コンシェルジュ・尾鷲市漁村の田舎暮らし/第7回目]―

郷橋正成さん
京都出身の30代。リゾートスタッフ、漁師、サラリーマン、家具職人などを経て2018年8月から尾鷲市の地域おこし協力隊に。現在、おわせ暮らしサポートセンターで活躍中。