コロナ禍で注目される「ワーケーション」。日本と海外の差は?

—[ふるさと旅を10倍楽しくする!/石田宜久]—

コロナ禍でよく耳にするようになった「ワーケーション」ですが、実際に取り入れている人はまだごく少数。そこで今回は、そもそもワーケーションとは何なのか、そして国内外のワーケーション事情について、観光ホスピタリティコンサルタントの石田宜久さんに聞きました。

2021年はワーケーション向けの旅行プランが多数登場

ワーケーション01

 感染者の増加に歯止めが効かない新型コロナウイルス。GoToトラベル事業も地域活性化の効果がいまいち見えなかっただけでなく、感染拡大の槍玉に挙げられてしまう始末……。まだまだ仕事も旅も普段どおりに戻ることはできない状況が続いています。

 そんな中、2020年は仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた「ワーケーション」という言葉がかつてないほど注目されました。住まいのある地域以外で休暇をしながら、テレワークやリモートワークを活用して仕事をするという考え方です。

 12月にはJR東日本と西武ホールディングスが提携し、2021年からワーケーション用の旅行パッケージを事業化すると発表。コロナ禍でワーケーションを推奨する企業も数多く見られました。しかし、日本ではいまだ認知が薄く、疑問も多いのが正直なところ。そこで、観光先進国であり以前からワーケーションが普及しているオーストラリアでの勤務経験があり、実際にワーケーションを働き方の1つとしている私が「ワーケーションとは何か」をご紹介します。

観光先進国ではホテル内に「宿泊者向けワークスペース」も

 前述のとおり、日本では今回のコロナ禍をきっかけに「ワーケーション」という言葉を聞くようになりました。しかし、「会社が許さない」「仕事とプライベートの区別ができなさそう」など、まだまだ消極的な考えが浮かぶ人のほうが多いはず。

 そもそもワーケーションという考え方は、2000年台にインターネット環境が急速に普及したアメリカで生まれたものだとされています。その頃から、観光先進国のホテルやリゾートには、コピー機やファックスといったオフィス機器が完備される「ビジネスセンター」がジムやプールと同様に設けられるケースが増えてきました。

 私が勤めていたオーストラリアのホテルでもビジネスセンターが設けられ、専門のスタッフが常駐。リゾートにおいては、もともと研修や保養施設としての役割もあったため、情報通信に関する設備は一般的なオフィスとは遜色がないほど用意されているのが当たり前なのです。

ワーケーションもやり方はいろいろ

 ひと口に「ワーケーション」と言っても、業種や企業によってさまざまな形がとられています。

 たとえば、「最大〇〇日」と期間が設けられているもの。会社員ならこのケースが大半だと思います。週末から旅先へ出かけ、翌週の月曜から金曜までは旅先で仕事、また週末になると観光を楽しんで帰路につく、といった具合です。いわば与えられた仕事を旅先でこなすスタイルで、「定例会議があるから家族旅行ができない」や「勤務時間に縛られて休暇が取れない」といった課題を解消してくれます。子どもたちがリゾートのプールで遊んでいるなか、お父さんはテレビ会議、なんて形が取れますね。

 一方、私のようなフリーランスや、自分で自分に与えた仕事をこなす個人事業主は、動ける時間は観光に時間を使い、ホテルなどの部屋にいるときには仕事をするといった「仕事場を選ばない」働き方をしている人もいます。

 私は日本各地を飛び回ることが多い仕事をしていますので(現在は移動自粛しています)、もともと仕事場を構えること自体が難しいと言えます。観光地を歩いて学び、ホテルの部屋で原稿を書いたり、セミナー資料をつくるといった仕事の仕方をしています。

 その場に行かなければならない仕事がない限り、ワーケーションの期限はいつまでだっていいのです。そもそもフリーランスが多い海外では、パソコンがあれば仕事ができるSEや、自分の経験が作品に繋がるデザイナーとして活躍されている方が多くいらっしゃいます。常日頃から「ワーケーション」なのです。

 また欧米ではワーケーションのその先、「ブリージャー(ビジネス+レジャー)」という考え方も根付いてます。出張先での仕事を終えた後の数日、そのまま休暇の取得を認めるという制度です。ほかにもキャンピングカーで旅をしながら仕事をする「vanlife」というスタイルも認知されています。世界では、そもそも毎日オフィスに出社して仕事をするという考え方自体がコロナ以前から変化をし始めていたのです。

日本でのワーケーション環境も着実に進歩している

客室のルーター
最近はフリーWi-Fiが利用できるホテルや施設が増えてきているものの……

 日本においては、ここ数年でようやく宿泊施設内でのWiFiが整備、充実してきた段階で、世界と比べるとワーケーションができる環境は4歩も5歩も遅れている気がします。いまだにホテルの宣伝に「WiFi完備」と謳っているところもあるくらいですので。その点ではワーケーションに踏み切るには設備投資がもっと必要だと感じています。

 それでも、ワーケーション普及へと着実に前進しているのも事実。2019年11月には、ワーケーションによる地域振興を期待して「ワーケーション自治体協議会」が設立され、1道6県58市町村が登録。「観光以上、移住未満」をモットーに企業への導入をPRするのと同時に、受け入れ態勢を整える活動が精力的になされています。

 ワーケーションは地方にとっても魅力的な施策なひとつ。地方が課題としている「企業の支社設立」や「オフィスの移転」といった高いハードルに挑むことなく、新しい人口の創出や地域活性化にも期待ができるわけです。まだまだ「する側」と「受け入れる側」両者に課題が多い日本でのワーケーションですが、労働時間の短縮とは違った「働き方改革」を進める1つの手ではないのでしょうか?

—[ふるさと旅を10倍楽しくする!/石田宜久]—

観光ホスピタリティコンサルタント 石田宜久さん
DiTHi(ディシィ)代表。世界最大規模の専門家ネットワーク・外資系リサーチ会社「ガーソン・レーマン・グループ」のカウンシル・メンバーを務める。これまでにセミナーや講演会、観光系専門学校の講師、島根県経営力強化アドバイザーなども経験。趣味は登山、ラグビー、スポーツ玉入れ