高級昆布にカラフルな精進料理 福井を味わうグルメツアー

 10月26日(土)、27日(日)、福井県小浜市にて「御食国 和食の祭典 in 若狭路」が開催されました。古代、皇室や朝廷に食の宝庫として豊かな食を納め、和食の発展を支えた御食国(みけつこく)である若狭・淡路・志摩、そして京都が集結し、上質で豊かな食文化を学び、堪能できるイベントです。

 本イベントへの参加も兼ねた「若狭路ツアー」で若狭の食の魅力を体験しました。

高級昆布でとった出汁の深みを堪能

 福井県南西部に位置する若狭は、北に若狭湾を臨み、南は京都へと続く山間部という海の幸、山の幸に恵まれた地として知られています。江戸後期、北前船の中継地として昆布が荷揚げされた敦賀湊。いまもなお、敦賀は全国有数の昆布加工の産地です。

「奥井海生堂」は、明治4年創業の高級昆布専門店。永平寺に昆布を治める御昆布司を務め、古くより北大路魯山人をはじめ、京都の高級料亭と取引を続ける歴史ある昆布店です。

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奥井海生堂。全国の有名料亭の出し昆布を扱っています

 奥井海生堂で扱う昆布は、昆布倉庫で厳重に管理、保管して出荷します。とくに北海道の利尻島、礼文島で収穫される天然利尻昆布は、専用の昆布蔵で1年から2年、3年と寝かせることで、昆布の臭みや、磯の香りを取り除き、旨味を増した「蔵囲昆布」に仕上げる。なんと奥井海生堂には「30年もの」の昆布もあるそうです。まるでワインのように、時を重ねた「ヴィンテージ昆布」はほぼ、高級料亭へと納められます。「この貴重な昆布を、出汁をとるために惜しげもなくたっぷり使うのが、名料亭なんですよ」と社長の奥井隆氏は語ってくれました。

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奥井海生堂の「昆布蔵」。ミシュラン三ツ星のシェフもフランスから訪れます

 また、敦賀は全国最大の「おぼろ昆布」の産地でもあります。作業場では、酢につけて一晩寝かせた昆布を職人が専用の包丁で一気に削り出していました。透けるような薄さに仕上げるためには、熟練の技を要します。ふわりと雪のように舞う削りたての昆布を口に入れると、ほろりと溶け、豊かな旨みが口の中いっぱいに広がるのです。

熟練の技をもつ職人
熟練の技をもつ職人が、昆布を足で押さえ込み、一片一片ていねいに削ります
削りあがったおぼろ昆布
削りあがったおぼろ昆布。まるで和紙のようです

 敦賀からはレストランバスに乗車。車窓越しに若狭の美しい風景を眺めながら、日本酒とともに若狭の幸を味わいました。

レストランバス
若狭の銘酒とへしこ、小鯛の笹漬け、にしんずし、さいみそ、なれずしなどをレストランバスで味わいました

 「鯖街道」を有する若狭は、サバが古来より郷土料理として身近です。「生き腐れ」といわれるほど足がはやい鯖の鮮度保持のために、独自の加工技術が発達しました。代表的なものが「サバのへしこ」(サバのぬか漬け)。この地域ならではの保存食です。

 贅沢な「利きへしこ」を体験した。

利きへしこ
左から小浜市矢代「民宿かどの」、小浜市田烏(たがらす)「民宿佐助」、美浜町日向(ひるが)「女将の会」のへしこ

 見た目も味わいも異なります。「かどの」のへしこは、キリリとした味わい、佐助のへしこは、ふくよかでマイルドな酸味が印象的、女将の会のさりげない食べ口、しかし後からジワジワくる「後引く」味わいです。

若狭小浜を代表する名物「小鯛の笹漬け」も味比べ

 続いては「利き小鯛の笹漬け」。レンコダイを3枚におろし、うす塩と酢に漬け、笹の葉、昆布とともに、杉の木の香りが漂う小さな樽に詰めて作られた若狭小浜を代表する名物です。日本海の荒海で育った身の引き締まったレンコダイは、漬け込むことで旨みが凝縮し、杉や笹の香りもよく、おつまみによし、酢飯と組み合わせてもとても美味しい。

小鯛の笹漬け
左から小浜市の「津田孫兵衛」「丸海」「田中平助商店」の小鯛の笹漬け

 津田孫兵衛は濃い旨み、丸海はエレガントな味わい、田中平助商店は、やさしいマイルドな味わいでした。こちらもまったく風味が異なります。

 バスで向かったのは「三方五湖レインボーライン」。美浜町・若狭町にかけて広がる、約11㎞の有料道路。ケーブルカーで「山頂公園」へ上ると、日向湖(ひるがこ)、久々子湖(くぐしこ)、水月湖(すいげつこ)、菅湖(すがこ)、三方湖(みかたこ)からなる「三方五湖」の素晴らしい絶景が一望できます。

レインボーライン
レインボーラインの山頂公園は三方五湖を一度に観ることが出来る絶景ポイント

 そして、福井を訪れたら是非味わっていただきたいのが、精進料理です。

 曹洞宗大本山・永平寺のある福井は、禅の教えに基づいた精進料理が息づいている。ここ若狭においても、美浜町の「曹洞宗陽光山徳賞寺」で、食することができる。

曹洞宗陽光山徳賞寺
曹洞宗陽光山徳賞寺。永禄六年(1563年)粟屋越中守勝久が開基

 副住職である栗谷一智氏による精進料理は、僧侶が修行のために食べる料理とは少し異なります。称して「ハイブリッド精進料理」。トマトやキャベツなどの洋野菜も使い、サラダ、マリネなど洋風調理も取り入れた彩り鮮やかな料理がずらりと並びます。

ハイブリッド精進料理
ハイブリッド精進料理。主に食材の調達は「托鉢(たくはつ)」で行われます
精進料理
日によって料理は異なるが工夫を施して彩りを増やしているとか

「美味しく、そして目にも愉しんでもらえる精進料理で、多くの人が寺を訪れ、身近に感じてもらえるきっかけになれば」と、栗谷氏が禅宗の食事に対しての教えをもとに作り上げました。心をこめて仕上げられた料理は、どれも細やかな気配りを感じる誠実な味わい。食べるたびに、身体に穏やかに染み込んでいくようでした。

 さまざまな食を味わった後、訪れた「御食国 和食の祭典」は大盛況。若狭、淡路、志摩、京都の和食が勢揃いするフートコードが設けられ地元ならではの料理を提供。東京の人気和食店「賛否両論」の笠原将弘氏によるトークショー、御食国の食材を使った料理のデモンスレーションや、テレビドラマ「高校生レストラン」のモデルになった県立相可高校食物調理科生徒が運営する「まごの家」による料理講座、たん熊北店副理事長・栗栖正博氏による「京料理講座」などを実施していました。

フードコート
若狭、淡路、志摩、京都の和食が楽しめるフードコート
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笠原将弘氏が御食国の食材を使った料理のデモンストレーションを行っていました

■たん熊

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たん熊北店副理事長・栗栖正博氏による「京料理講座」

 また、京都の有名料亭「菊乃井」「木乃婦」「たん熊北店」「瓢亭」の出汁を飲み比べる「出汁の味わい体験」などの企画も行われ、和食の奥深さを発信するイベントとなっていました。

 和食の原点を垣間見る若狭。ぜひ、歴史ある味わいを堪能しに足を運んでいただきたいです。

<取材・文・撮影/食文化ジャーナリスト・池田陽子>