近年、観光地では景観を守るために、建築物の形状やデザインに制限や規制を設けることがあります。海外では法律で「景観を守ること」を義務化している地域もあるほど。観光ホスピタリティコンサルタントの石田宜久さんに、観光地で意外な建物を探し出す楽しみ方を教えてもらいました。
観光地にすっかり溶け込む建物。じつは新しいんです
上の写真の建物、パッと見て何だかすぐにわかりますか? 訪れた地によってアッと驚く姿を見せてくれる建物の代表格としてあげられるのが、じつは郵便局なんです。生活に欠かせない郵便の拠点で、最近ではゆうちょ銀行ATMとセットで全国各地に必ずある郵便局。だからこそ、その地域に馴染むデザインになっていることが多く、なかには見事に観光地の景観に溶け込んでいるものもあります。
その1つが、三重県伊勢神宮本宮参道沿い、おはらい町の中にある五十鈴川郵便局です。古い建物が多い参道ですが、よくある緑や赤色の看板もなく、景観に配慮したデザインになっています。歴史ある建物かと思いきや、前回の式年遷宮のとき(2013年)に建てられたもので、じつはそんなに古い建物ではありません。ものの見事に歴史情緒ある風情を再現していると思いませんか? 局内では伊勢神宮に関連した絵葉書なども販売されていて、消印も特徴あるものが押されるので、お土産代わりに葉書を出してみるのもいいかもしれませんね。
出雲大社前では、あのコーヒーショップも出雲らしく
世界中で展開してるスターバックスコーヒー。近年のプラスチック問題や二酸化炭素排出問題など、さまざまな環境問題に対応していることでも知られていますが、世界各地に店舗を構えているだけあって、地域の景観にも非常に敏感になっているブランドでもあるのです。
代表的なのが、出雲大社(島根)の参道入口目の前にある「出雲大社店」。縁結びの神様で知られる出雲大社ということで、「和」と「洋」の縁結びをテーマに、店内の空間も大変面白いレイアウトになっています。また、しめ縄をイメージした照明や、出雲勾玉をイメージしたテーブルなど、出雲らしさも満載です。私が訪れた際には、雨だったので人がいませんでしたが、入口の横には縁側をイメージしたベンチが設置してあり、参拝前のちょっとした休憩にも寄りやすくなっています。
古い建物をそのまま生かした銀行も
富山湾に面した岩瀬地区にある、北陸銀行の岩瀬支店。岩瀬地区は古くから日本海を行き来する船の寄港地として栄え、今でも回船問屋郡や酒造や料亭などが軒を連ねる、情緒漂う街並みが残っています。
そんな街並みにあるのがこちらの支店。ここは上記2つとはちょっと違い、明治33年に旧岩瀬銀行が営業を開始した礎をそのまま引き継ぐ形で、現在の北陸銀行がここに支店を構えています。その歴史はなんと110年以上。もともとこの地域に根づいていた建物だけあり、岩瀬地区伝統の格子「スムシコ」が使われ、現在も地域行事の場として使われるなど、地域の文化とともにあると言っても過言ではない店舗です。私もとくに用事はありませんでしたが、内部が気になり、手数料を気にせずATMだけを使いにのぞいてみました。内部はきれいにリフォームがほどこされ、いわゆるフツーの銀行の内観でした。
普段の生活に欠かせない、どこにでもあって当たり前の建物でも、景観が大切にされている地区ではまったく違った風貌をしています。郵便局や銀行は、旅先でも利用する機会があるかと思います。意識して探してみるのもおもしろいかもしれませんよ。
観光ホスピタリティコンサルタント 石田宜久さん
DiTHi(ディシィ)代表。世界最大規模の専門家ネットワーク・外資系リサーチ会社「ガーソン・レーマン・グループ」のカウンシル・メンバーを務める。これまでにセミナーや講演会、観光系専門学校の講師、島根県経営力強化アドバイザーなども経験。趣味は登山、ラグビー、スポーツ玉入れ