ソウルフードが生まれる背景には“必然性”がある
「どうしてお酒のシメにカルビクッパなんだろう?」と後日気になった私は、十日町市民に聞いてみました。夜遅くまで空いている店が少なく、何となく締めが「玄海」になったのでは、と答える人。自分が飲み始めた頃から締めは玄海のカルビクッパだった、と答える人。その回答はさまざまです。とにかくかなり以前から「玄海のカルビクッパ」は十日町市のソウルフードとして根付いていたようです。
さらに調べてみると、十日町市の飲食店には全国チェーンのお店がほとんどありません。つまりは地元の飲食店が頑張って経営しているということ。これは非常に珍しく、十日町市のような人口5万人くらいの街に行くと「駅前に全国チェーンが数店舗あるのみ」という状況が多くなります。もっと人口が少ない地域になると外食する店舗自体がありません。言うなれば、この人口で多くの地元の飲食店が残っていることが素晴らしいことなんです。
もうひとつ興味深かったのは、新潟の冬の寒く長い夜を仲間と語り合って過ごすために外食文化が発達した、という説。たしかにこの地には“はしご酒文化”が確立されていて、少なくとも2軒、多い時は4〜5軒ははしごするそうです。
私は、このような外食・はしご酒文化があるからこそ「玄海のカルビクッパ」がソウルフードになりえたと考えています。1軒目は新潟という土地柄、日本酒と日本酒に会う地産の食がメインになります。したがって、締めにはちょっとパンチが欲しくなる。だからこそ最後は「玄海のカルビクッパ」で締めたくなるのではないでしょうか。今では私もこのコースがルーティンになっています。もはや、十日町市を訪れる時の定番です。
ソウルフードを知ることはその地域を知ること
私が地方創生で大切にしていることは「その地域にしかない価値」です。その地にしかない価値を創ることは簡単なことではありませんが、ソウルフードのように地域の人に愛され続ける料理は非常に魅力的な地域資源だと思います。なぜなら「玄海のカルビクッパ」のように、その地域のソウルフードとなった“必然性”が背景に必ずあるからです。
ソウルフードを知ることはその地域を知ることになります。そんな視点でソウルフードを楽しむと、旅はもっと楽しくなると思います。さらには十日町市在住の人や出身者と話す際も「玄海のカルビクッパ食べました!」と語るだけで一気に距離が縮まります。
旅した時にはぜひ、その地域のソウルフードに注目してみませんか?
ソーシャルビジネスプロデューサー 大羽昭仁さん
おおばあきひと●’62年、愛知県生まれ。博報堂の社員時代には地方博覧会や映画祭などを担当したほか、著名人と地域を旅する「cultra」、一般社団未病息災推進協議会などの立ち上げに尽力。その後’18年に株式会社「未来づくりカンパニー」を設立。「地域活性化」「健康」「文化・アート」「観光」「環境」「防災」などをテーマに、課題先進国と言われる日本の社会課題の解決につながる全国各地のプロジェクトに参画する。著書に『地域が稼ぐ観光』(宣伝会議)
http://miraidukuri.co.jp/