鋳物づくり体験も。映画のロケ地としても人気の高岡市金屋町地区

富山県第2の都市で、城下町の情緒を今に伝える高岡市。中心部に位置する金屋町にはものづくりの歴史と結びついた町並みが残り、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。江戸時代から続く鋳物師の町の魅力と見どころをご紹介します。

江戸時代から現在へと続くものづくりの町、高岡

金屋町 通り
写真提供/高岡市観光協会

 歴史的に価値が高い町並みを保存する目的で、国が指定する重要伝統的建造物群保存地区。全国に126ある保存地区(2021年8月2日現在)で、市町村別にもっとも多いのが京都市と石川県金沢市、山口県萩市の4か所。高岡市が3か所で続き、各地方を代表する古都に肩を並べる歴史的な趣のある都市であることがわかります。

 3つの保存地区のなかでも、金屋町地区は現在全国で唯一の「鋳物師(いもじ)町」として選定されている貴重な存在。「鋳物師」とは、鉄や銅など金属の鋳造を行う技術者のことで、技術者たちが集団で居を構える歴史は、平安時代にさかのぼるといわれています。

 金屋町の歴史は、慶長14(1609)年に加賀前田家2代当主の前田利長が高岡に城を築いた際、7人の鋳物師を招いて土地を与え、鋳物づくりを行わせたことに始まります。初期には、鍋や釜などの日用品や、すきやくわなどの鉄製農耕具、江戸中期には釣鐘や灯籠などの銅鋳物がつくられ、各地の寺院などで見ることができます。

千本格子とひさしが連なる美しい街並み

鋳物職人

 現代では、高い鋳物技術は花びんやテーブルウエアなどさまざまなアイテムに生かされており、生産の場はメーカーや関連企業が集まる「高岡銅器団地」に移りましたが、国内シェアの9割以上を占める高岡銅器の原風景が金屋町なのです。

 重要伝統的建造物群保存地区に指定されているのは、市内を流れる千保川沿いに位置する約6.4haのエリア。金屋町通り沿いに100軒以上もの建物が肩を寄せあうように建ち並びます。目の細かい「サマノコ」と呼ばれる千本格子とひさしが約450mにわたって連なる光景は整然と美しく、ものづくりの場というよりは、洗練された町屋という印象です。

金屋町通り 資料館

「作業場で火災が発生した際に建物への延焼を防ぐため、作業場は主屋の奥、中庭や土蔵の先に置かれています。鋳物づくりの煙が家屋の方にも流れてくるのですが、その家に嫁いできた女性が丹念に掃除するならわしがあったそうです」(高岡市観光協会)。

 現在は、高齢などにより作業場を閉め、住まいとしてのみ使用している町屋が多いそうですが、こうした逸話も暮らしとものづくりが一体化した町の歴史を実感させてくれます。

工房での鋳物づくり体験、キューポラ見学もおすすめ

利三郎 店舗

 高岡市では、保存地区に名乗りをあげる際に電柱の地中化や石畳の設置などで街並みを整備。石畳にはところどころ銅片がはめこまれ、鋳物師の志しを控えめに主張しています。鋳物師町の人々の暮らしを守りながら、観光地ではなく「町の一角」として存在することが映像作家のインスピレーションに訴えるのでしょうか。2017年公開の『ナラタージュ』をはじめ数々の映画のロケ地になっています。

 景観や雰囲気を楽しむだけが金屋町の魅力ではありません。現在も金屋町で製造・販売を行う工房の店舗やギャラリーにもぜひとも立ち寄りたいもの。そのひとつ「鋳物工房 利三郎」では、店舗に併設したアトリエで鋳物づくり体験ができます。砂型に文字や模様を釘で彫り、溶かした錫を流し込んで器や箸置きをつくるのは、貴重な想い出になりそうです。また、職人の技術を間近に見ることができる工房見学にも応じています(要事前問合せ)。

利三郎 体験

 江戸時代の鋳造技術を伝える製造機具などを展示する鋳物資料館、通りから少しはずれた一角に残るキューポラ(溶鉱炉)と角形煙突も立ち寄りスポット。また、高岡古城公園近くにあり、昭和初期の高岡の鋳物師の技術力を結集した1933年建造の「高岡大仏」も必見です。

●高岡市観光協会の動画もあります

取材協力/高岡市観光協会

<取材・文>土倉朋子