廃線跡や旧校舎がアートに。最涯の芸術祭「奥能登国際芸術祭2020+」

里山や里海を舞台に、地域の歴史や文化とアートが融合する芸術祭。2021年秋、石川県珠洲市にて「奥能登国際芸術祭2020+」が開催されています。日本海に面した能登半島の最先端の地で展開される 「最涯(さいはて)の芸術祭」をご紹介します

市内10エリアで作品を展示。岬巡りや廃線跡巡りでの鑑賞も

時を運ぶ船
江戸時代から続くといわれる揚げ浜式製塩法に触発された塩田千春氏の「時を運ぶ船」/大谷エリア(c)JASPAR,Tokyo,2021 and Chiharu Shiota

 日本海に突き出た能登半島。「奥能登」と呼ばれる能登半島の先端部で、もっとも先端の「最涯」に位置するのが珠洲市です。古くは北前船の寄港地として栄え、自然豊かな農山漁村の景観と独自の文化が今も残る珠洲市で開催されるのが「奥能登国際芸術祭」。2017年の第1回芸術祭には7万人を超える人が訪れ、奥能登の風土と共存するアートを楽しみました。

 2020年に予定されていた第2回はコロナ禍で延期になり、今年「2020+」として9月4日から10月24まで開催されています。アートディレクターの北川フラム氏が総合ディレクターを務め、青木野枝、金氏徹平、大岩オスカールなど16の国と地域から参加した53組のアーティストによる作品を鑑賞できます。

うつしみ
のと鉄道上戸駅の旧駅舎を利用し、浮遊感のある建屋が印象的なラックス・メディア・コレクティブ氏(インド)の「うつしみ」/上戸エリア

 珠洲市は、市政施行前の町や村から10のエリアに分けられます。日本海の荒波に洗われる外浦に面した大谷エリア、白亜の灯台で知られる日置エリア、石川県屈指の漁港がある蛸島エリア、古代珠洲の中心地だった正院エリアなど、それぞれ独自の風土や歴史をもつ各エリアに3~8の作品が展開されています。

 アートを目印に岬を巡り、岩礁や奇岩が点在する外浦と砂浜が広がる内浦との景観の違いを楽しんだり、旧駅舎や線路跡を利用した作品をたどり、2005年に廃線になった「のと鉄道能登線」の記憶を感じたり。期間中に各地で行われる秋祭「キリコ祭り」との共演も楽しみのひとつです。

古い道具や工芸品にアートが光をあてる「大蔵ざらえ」は必見

光の舟
古い記憶を宿したモノたちが主役になるスズ・シアター・ミュージアム「光の方舟」/大谷エリア  撮影:木奥 惠三

 今回の目玉となっているのが、大谷エリアで閉校した小学校の建物にて展開される「珠洲の大蔵ざらえ」。海上交通が盛んだった珠洲にはさまざまな文物がもたらされてきましたが、持ち主が代替わりするなかで忘れられた存在に。そうした旧家の蔵や押し入れなどに眠っていた、古い農具や漁具、祭道具や工芸品が収集され、アーティストたちによって息を吹き込まれるユニークな展示です。

「芸術祭に向けてサポーターやアーティストなどが協働し、珠洲の家じまいを手伝う『珠洲の大蔵ざらえ』プロジェクトを行いました。そこで収集された民具をアート作品に活用した『スズ・シアター・ミュージアム』は、アートと民俗学が融合した新たなミュージアムで、地域の歴史民俗を体感することができます」(珠洲市奥能登国際芸術祭推進室・ 長江健太 さん)

余光の海
砂、木造船、古いビアノ……大蔵ざらえで発掘された墨書きの和歌や俳句から想起した南条嘉毅氏の「余光の海」/大谷エリア「スズ・シアター・ミュージアム 撮影:木奥 惠三

 芸術祭は珠洲市内の広範囲で開催されており、鑑賞はバスかレンタカーの利用で。ガイド付きツアーバスも運行し、地域の情報や作品制作秘話などに触れることもできます。

 また、期間中は、珠洲市内の飲食店や宿で、能登の秋祭りで振舞われる「よばれ」料理をモチーフにした御膳料理「珠洲まつり御前」を提供しています(要予約 参照:珠洲まつり御膳)。「能登の里山里海」が世界農業遺産に認定された珠洲市の魅力を食で体験するのもいいですね。

■奥能登国際芸術祭2020+
奥能登国際芸術祭2020+
石川県珠洲市飯田町13-120-1(珠洲市奥能登国際芸術祭推進室内)
TEL 0768-82-7720(平日8:30~17:00)

取材協力/奥能登国際芸術祭実行委員会

取材・文/土倉朋子