捨てちゃうのはもったいない! 奥深い「観光パンフレット」の世界

[ふるさと旅を10倍楽しくする!/石田宜久]

観光ホスピタリティコンサルタントとして国内外のあらゆる地に足を運んできた石田宜久さん。そんな観光のプロが綴る「ふるさと旅を10倍楽しくする」方法とは? 今回は旅先で見つけた秀逸なパンフレットについてです。

高知県須崎市のノートのようなパンフレットがすごい!

 旅先の情報を集める際、おそらく多くの方が現地で探し求めるであろう「観光パンフレット」。観光案内所はもちろん、駅の構内やホテルのロビーなど、いたるところで気軽に自由に手に入れることのできる観光パンフレットは、訪れた場所を知るにはもってこいの情報ソースとなります。最近はその地域の飲食店やお土産店の割引クーポンが付いていたりと、お得に旅をする助けになるものもありますよね。ところが、ひとたびその旅が終わったとき、旅先で大活躍したパンフレットはどうしていますか?

 近年はこのパンフレットの作成に力を入れる地域が増えてきています。旅の思い出以上に、持っているだけでも話のネタになるようなパンフレットも多数存在します。そんな、捨てられない観光パンフレットに惹かれた観光コンサルタントの筆者がご紹介していきたいと思います。

 今回ご紹介するのは、高知県須崎市の総合観光パンフレット「すさき手帖」です。「〜旅に出たくなる、思わず手にとる〜ふるさとパンフレット大賞」という賞が一般社団法人地域活性化センター主催で開催されているのですが、その第2回大賞を受賞したのがこの「すさき手帖」なのです。現在第7回目の選考中なのですが、筆者としてはいまだにこの「すさき手帖」は名作だと思っています。

すさき手帖
須崎市観光協会(高知県)が発行する「すさき手帖」。(写真右下)まるでノートのような見た目が特徴的。(写真右上)誌面にはメモ欄もついている。(写真左)付箋を貼り付けたようなデザインでポイントがわかりやすくまとめられており、とても見やすい

 このパンフレットと出会ったのは現地を訪れた際なのですが、カラフルなパンフレットが並ぶなか「これがパンフレット?」と思わせる、一見ノートのようなデザインが気になり手に取りました。

ノートを模したシンプルなデザインに込められた、こだわり

 表紙のレイアウトはシンプルそのもの。用紙も一般的なパンフレットに使われている用紙よりも厚手で、まさしくノートに使われているような手触りの紙が使われています。実際に、一般的な上質紙を使っているようで特別な紙を使っているわけではないそうです。この紙のおかげなのか、掲載されている写真もレトロ調な仕上がりになっていて、それがまた味となっています。作成側目線からすると、用紙の選択は保存されるパンフレットになるか否かの重要な要素です。持ち歩く際にも、クシャクシャになりにくいか、そして広げやすさや地図面の見やすさも、家まで持って帰ってもらえるかの重要な点になります。

 ノートのような世界観からなのか、マーカーや付箋を利用した強調のみでスクラップブックを見ているかのようなレイアウトになっています。よくあるパンフレットによるネタバレもなく、「須崎で暇つぶし」や「しゃれた施設はないけんど(現地の方言。「お洒落な施設はないけれど」の意味)」といった、自虐心ある見出しもそれが地域の魅力だと伝わるので、自然と中身に惹き込まれてしまいます。

 そして筆者がこのパンフレットを実際に持ち歩いて意外と重宝するものだと感じたのがメモ欄。用紙ギッシリと情報と写真が載っているパンフレットもデザイン性としては面白いものがあるのですが、旅先でちょっとしたメモを書き残したいときには困ってしまいます。些細なことであれ、自分が感じたことを書けるスペースがパンフレットにあるだけで、これが意外と重宝するのです。何千・何万部と出回り、誰もが自由に持ち帰りできるパンフレットを自分好みにカスタマイズできるのは、パンフレットとしての新しい発想です。

 またパンフレットである以上、有益な情報がどれだけわかりやすく掲載されているか否かがポイントとなります。「すさき手帖」では、文章の長さによって上手く「ズレ」が作られていて、とても読みやすいのです。またスクラップブックのような作りになっているおかげで、ポイントがしっかり見やすくなっているので、情報がない状態でもこのパンフレットで十分須崎市の魅力を押さえることができます。

レイアウトも秀逸
情報詰め込み型になりがたいな観光パンフレットですが、読みやすさにこだわったレイアウトも秀逸

 ただし1点だけ欠点をあげるならば、それは最大の特徴でもある「パンフレットっぽさ」がないこと。観光パンフレットというのは、観光政策のなかでもコストにあたる部分です。やはり訪れた方に手に取ってもらい、実際に掲載されているスポットに訪れてもらうことが観光パンフレット本来の目的です。彩り豊かなものや写真を多く使い派手なパンフレットなどと一緒に並んでいるなかで、この「すさき手帖」のようなシンプルなデザインのパンフレットは埋もれてしまいがちです。もしかしたら、このシンプルなデザインゆえに、手にとることなく通り過ぎてしまった人もいるかもしれません。

 直感でパンフレットを選んで手に取るのは当たり前の行動ですが、もしかしたら賞を取るような面白いものがあるかもしれない、と、意識してパンフレットの置いてある棚を眺めてみてはいかがでしょうか? これからもそんな気になる「捨てられないパンフレット」をご紹介していきます。

[ふるさと旅を10倍楽しくする!/石田宜久]

観光ホスピタリティコンサルタント 石田宜久さん
DiTHi(ディシィ)代表。世界最大規模の専門家ネットワーク・外資系リサーチ会社「ガーソン・レーマン・グループ」のカウンシル・メンバーを務める。これまでにセミナーや講演会、観光系専門学校の講師、島根県経営力強化アドバイザーなども経験。趣味は登山、ラグビー、スポーツ玉入れ
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