そぞろ歩きが人気。山口県長門湯本温泉がまちごとリニューアルで復活

名湯で心とからだを癒す。心づくしの料理に舌つづみを打つ。温泉での過ごし方に、「まち歩き」という楽しみをプラスしたのが山口県長門市の長門湯本温泉。2020年の「まちごとリニューアル」で「オソト天国」として生まれ変わった、注目の温泉街をご紹介します。

自然の資源を生かし、新しい機能をもつまちにリニューアル

竹林の階段
長門湯本温泉の入口にある竹林の階段。散策や写真撮影のスポットとして人気 (c)SHIMOMURA YASUNORI

 山口県長門市の谷あいにある長門湯本温泉は室町時代の1427年に開湯し、山口県を代表する温泉のひとつとして知られますが、近年は、団体客の減少など旅行スタイルの変化により、かつてのようなにぎわいからは遠ざかっていました。

 2016年に廃業した旅館の跡地を活用し、星野リゾートの温泉旅館「界」の進出が決定したのを機に、地域の事業者と専門家、行政、住民が一体になったチームを構築。星野リゾートと協働しながら魅力のある温泉街への再生へと舵を切りました。

 温泉街でリニューアルと聞くと、大浴場を建設したり、街灯や石畳を設置したり「点」が新しくなるイメージですが、長門湯本温泉の場合は、従来の資源を生かしながら「面」で再生し、街全体に新しい機能と景観を生み出したのが特徴です。

「目指したのは、そぞろ歩きが楽しめる温泉街。以前は人と車とがすれ違い、お客さまが散策を楽しむのに適しているとはいえませんでした。駐車場を高台に移転したほか、それまで生かしきれていなかった川を活用。高低差も生かしながら安心して散策でき、一体感のある温泉街を形成しました」(長門湯本温泉まち株式会社エリアマネージャーの木村隼斗さん)

 2020年3月にリニューアルオープンした温泉街は、中心を流れる音信川(おとずれがわ)に沿って「そぞろ歩き」や「外湯」「食べ歩き」「休む・たたずむ空間」などの魅力を散りばめたエリアに生まれ変わっています。

竹林や川沿いにそぞろ歩き。川床や飛び石など水辺を楽しむ仕掛けも

表参道
竹林の階段のほかに高台と温泉とを結ぶ八十八段の「紅葉の階段」もある

 長門湯本温泉のそぞろ歩きは、駐車場から温泉街への表参道である竹林の階段から始まります。数百本の竹林に囲まれた階段は風情たっぷりで、夜間はライトアップされて幽玄な雰囲気に。温泉街へと続くプロムナードであり、長門湯本温泉を代表する「絵になる場所」です。

 竹林の階段を降りると目に入る和風モダンな建物は、長門湯本温泉の元湯で、600年の歴史をもつ「恩湯(おんとう)」。施設の老朽化などで2017年5月に公設公営での営業が終了後、地域の若手たちによって再建されました。立ち寄り湯の楽しみと見晴らしのよさをあわせもつ温泉のシンボル的な存在です。

恩湯
大きな窓とテラスが開放的な「恩湯」。眼前に広がる音信川とひとつながりの空間を形成

 まちの中心部を流れる音信川は、川沿いに整備された遊歩道を散策したり、ベンチに腰かけて川風に吹かれたり、さまざまに水辺を楽しめる空間になっています。なかでも、注目なのが山口県で初めて設置されたという川床テラス。音信川と大寧寺川の4か所に点在し、水の流れを近くに感じたり、せせらぎに耳を傾けたりすることができます。

川床
恩湯前や「界 長門」前など4か所に設置された川床のテラス

「静」の楽しみの川床に対し、「動」で水辺を感じられるのが飛び石。対岸に渡ったり、川の流れに手をひたしたり。4か所に設けられた飛び石は、子どもたちに大人気です。

飛び石
水辺の景観のアクセント的な存在の飛び石。川の魅力を身近に感じられる

食べ歩きを満喫。古民家をリノベしたショップも魅力

テイクアウト
新鮮野菜とプルコギがたっぷりのピタパンサンド。注文を受けてから作ってくれる

 そぞろ歩きのもうひとつの楽しみが食べ歩き。温泉街にはカフェやレストラン、和洋のスイーツなどのお店が点在しますが、テイクアウトも豊富。そのひとつが音信川沿いにあるテイクアウト専門のカフェスタンド「A.side」。ピタパンサンドや長門ゆずきちを使ったドリンクなどがオーダーできます。

 そのほか、郷土料理「瓦そば」の専門店「柳屋」のみたらし団子、地元名物「吉冨幸進堂」のワッフル、焼き鳥、恩湯に併設する「恩湯食」の長門市特産の新鮮な鶏肉を使ったランチボックス、粒あんのほか、夏ミカンや山口県オリジナルのかんきつ類ゆずきちのフレーバーがそろう「あけぼのカフェ」のどら焼きなどもおすすめ。川べりに設置されたベンチに腰かけて味わうこともできます。

 築70年以上の建物をリノベーションし、「柳屋」やカフェなどが入る「だいご長屋」、古民家を再生した土産店「おとずれ堂」、川にせり出したテラス席で若手萩焼作家の作品が楽しめる「café&pottery 音」などもぜひ訪れたいスポットです。

 長門湯本温泉は、2021年度都市景観大賞都市空間部門にて全国3位の「優秀賞」、「2020年度ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」で地方創生大賞を受賞。また、12月3日 には「土木学会デザイン賞2021」で「最優秀賞」を受賞。5年の歳月をかけて完成させた「オソト天国」の景観デザインとまちづくりがさまざまに認められています。

立ち寄り湯や足湯も魅力。夜は川辺や竹林が美しく照らされる

ライトアップ
美しくライトアップされた温泉街。昼間とは異なる眺めを満喫できる (c)SHIMOMURA YASUNORI

 温泉街の最大の資源である温泉は、アルカリ性単純温泉で肌触りがやわらかく、入浴すると肌がすべすべになる「美人の湯」と称されています。その日宿泊する旅館の浴場や露天風呂はもちろん、立ち寄り湯の「恩湯」で岩盤自然湧出ならではの感触と眺めをぜひ楽しんで。音信川の遊歩道沿いの「おとずれ足湯」、音信川河川公園内の「足湯」と2か所の足湯施設で、散策で疲れた足をほぐすこともできます。

 また、見逃せないのが「夜のライトアップ」。川沿いに連なる6本の橋や竹林の階段が美しく浮かび上がる光景は時間を忘れてしまいそうな美しさ。すべての照明の消費電力を年間の自動プログラムで制御し、美的価値と省エネルギーを両立させる「Smart Village」を目指しているのも、SDGs時代にふさわしい取り組みです。

 紅葉の時期は「紅葉ごろねBAR」、冬は長門市出身の金子みすゞの世界を光と音で演出する灯りイベント「音信川うたあかり」(2022年1月28日~2月27日)と季節にあわせた楽しみも。1日中いても飽きることのない滞在型の温泉街をぜひ訪ねてみませんか。

<取材協力/長門湯本温泉まち株式会社、長門市観光コンベンション協会 写真協力/長門湯本温泉まち株式会社 取材・文 土倉朋子>