1万円以下で宇宙旅行を楽しむ。鳥取砂丘で月面探索を体験

実業家の前澤友作氏が国際宇宙ステーションへの宇宙旅行を実現して話題になりました。「100億円かかった」といわれる宇宙旅行でしたが、鳥取砂丘では1人9800円(税込)で月面探索を疑似体験できます。話題のアクティビティをご紹介。

「月にもっとも近い環境」鳥取砂丘で月面開発拠点化構想

月面着陸
「月面に似た環境」と評価される鳥取砂丘。最新のデジタル機器を用いて宇宙体験ができる

 鳥取砂丘は東京ドーム117個分にあたる広大な砂丘。砂と風がつくりだすさざ波のような模様の「風紋」なども独特で、世界的にも貴重な地形といわれています。起伏のある砂丘を越えた先に雄大な日本海が現れる光景は、別世界に足を踏み入れたような感覚に襲われます。

 独特の地形や地質、植生などが研究の対象となってきた鳥取砂丘ですが、今注目されているのが「宇宙開発拠点」としての可能性です。乾燥した砂地で、起伏がある鳥取砂丘は国内でいちばん月面に類似した環境と評価され、2018年には月面探査チーム「HAKUTO(ハクト)」が月面探査機(ローバー)を走行させ、性能技術やローバーを遠隔操作するための検証を行いました。

砂丘
広大な砂地が広がる鳥取砂丘。砂粒の細かさが月の砂「レゴリス」と共通しているそう (C)鳥取県

 また、鳥取県内では宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「はやぶさ2」プロジェクトが採取した小惑星「リュウグウ」の石の解析・分析を三朝町の岡山大学惑星物質研究所で行ったほか、鳥取市の公開天文台「さじアストロパーク」ではこれまでに22個の小惑星を発見。県全体で宇宙との関わりがあります。

 2021年4月には「鳥取県産業振興未来ビジョン」を策定し、新産業創造の取り組みの一環として宇宙産業創出へのチャレンジをスタート。月面開発拠点化構想のもとで鳥取砂丘での宇宙エンタメや産業創造に取り組んでいます。

アナログとデジタルとが融合した本格的な月面探査を体験

月面探索
砂丘を踏破した足跡がクレーターのよう。鳥取砂丘だから可能な宇宙体験を満喫できる

 宇宙エンタメのさきがけとして始まっているのが「月面極地探査実験A」。夜の鳥取砂丘で最新のARグラスやVRゴーグルを用いて月面での宇宙飛行士体験ができるアクティビティで、宇宙の体験をつくる技術集団・株式会社amulapoが製作・運営しています。

「鳥取砂丘は夜になるとまるで月面の世界のような姿になることが知られています。そこで、その特徴的な自然環境をいかして新感覚の宇宙体験を制作しました。宇宙体験では鳥取砂丘を歩き回りながら、月面開発に関わるさまざまなミッションに挑みます」(株式会社amulapo代表取締役の田中克明さん)

 同社では、AR(拡張現実)を用いて砂丘に設置された地球基地や管制塔、アポロ探査機などの宇宙体験を行う実証実験を繰り返し、11月に一般向けの体験をスタートしました。

 体験は2人1組で参加。まず、受付場所の「地上基地」でVR(仮想現実)ゴーグルをつけて月面着陸を体験した後、「月面基地」でゴーグルを5G対応の対象スマートフォン接続型AR(拡張現実)グラスに交換。現実の空間情報に仮想情報をつけ加えるAR技術により、月面の光景が夜の砂丘の風景に重なって現れます。

 参加者は実験Aチームの宇宙飛行士として5つのエリアごとに設けられたミッションに挑みます。探照灯で前方を照らしながら歩き、各エリアに設けられたARマーカーでオブジェクトのミッションを読みこむと音が鳴り、コンテンツが出現する場所に円が点滅します。

 月はゴツゴツした岩のイメージがありますが、月面は「レゴリス」という砂におおわれており、暗闇の下に広がる鳥取砂丘と重なる環境。そこにARの情報が重なることで、月面での宇宙飛行士の感覚になりながら旗を立てる、砂をすくうなどのミッションを遂行します。

体験の後は鳥取の名産品を味わう

月面探索
探照灯で前方を照らしながら砂をすくう、旗を立てるなどのミッションを遂行

 ミッション終了後は地上基地で軽食を食べながら、仲間との成功を分かち合いますが、月面で水耕栽培が有力視されているじゃがいもをモチーフした「月面コロッケ」、ムカゴご飯のおにぎり「隕石ボール」と遊び心いっぱい。コロッケには鳥取のジビエ・鹿肉入り、おにぎりは鳥取県産のお米「星空舞」使用と地元産の食材を味わえるのも楽しみです。

 体験は18歳以上が対象で、料金は1人9800円(税込)。悪天候時をのぞいて3月末まで毎週土曜日の夜に各20人が体験可能です。予約は特設サイトから。

 体験をきっかけに、多くの人が宇宙を身近に感じ、これからの宇宙開発に関わる最初の一歩につながってほしい――壮大な発想で企画された月面探査アクティビティ、ぜひ体験してみませんか。

取材協力/写真提供:株式会社amulapo、写真提供:鳥取県

<取材・文/土倉朋子>