隈研吾建築を巡る旅へ。高知県梼原町は町全体がミュージアム

緑豊かな高台のまち・高知県梼原町(ゆすはらちょう)には、日本を代表する建築家の隈研吾氏が手がけた複数の建物が点在します。SDGsの観点からも注目の隈研吾・木造建築のルーツをご紹介します。

和の伝統を取り入れた隈研吾建築のルーツ

図書館・福祉複合施設
隈研吾氏設計の図書館+複合福祉施設。周囲の自然と調和した建築美を堪能できる

 標高約1455mの四国カルスト台地に位置し、「雲の上の町」をキャッチフレーズにする高知県梼原町。町面積の91%を森林が占め、空と森、清流を身近に感じる梼原町の風土に寄り添い、町の魅力を高めているのが隈研吾氏の設計による建物です。

 隈研吾氏は、和の伝統を取り入れながら独自のデザイン性で知られる世界的に著名な建築家。近年の代表作である新国立競技場は、47都道府県産の杉材を使用し、周辺環境と調和した「杜のスタジアム」として話題になりました。

 隈健吾氏と梼原町との出会いは、約30年前。戦後まもなくに建てられた貴重な木造建築である芝居小屋「ゆすはら座」の保存活動に関わったことが始まりだそう。

「当時若手建築家だった隈研吾氏は、『ゆすはら座』の木造建築に感銘し、その土地の木材や地域に受け継がれてきた建築技術に注目するようになったと語っています。梼原町では 1994年落成の『雲の上のホテル』を手がけたことに始まり、これまでに総合庁舎、まちの駅、ギャラリー、福祉施設、図書館を設計しています」(ゆすはら雲の上観光協会・橋田桃子さん)

木造と和の工法の可能性を追求した独自の建築美

 梼原町では、現在建て替え中の「雲の上のホテル」をのぞき、5つの隈研吾建築を見学することができます。

 町のランドマークである梼原町総合庁舎は、四万十川源流の自然が育んだ梼原産の杉材をふんだんに使用。館内に足を踏み入れると杉材を複雑に組み合わせたアトリウムが広がり、中央には梼原町伝統のおもてなしの場「茶堂」が設えられ、町民はもちろん観光客もくつろげるコミニュティスペースとして活用されています。2006年の落成で、太陽光パネルや自然空調をいち早く取り入れたサスティナブルな建物としても注目です。

総合庁舎
杉材のパネルをモザイク状に配置した外観が印象的な総合庁舎。いち早く再生可能エネルギーを活用したことでも話題に

「まちの中の森」をコンセプトに設計したのが、梼原町の特産物販売とホテルからなる「まちの駅ゆすはら」(マルシェ・ユスハラ)。1階から3階までを貫く吹き抜けには杉丸太の柱が林立し、森の中に分け入ったような感覚に陥ります。外壁の一部には梼原の伝統的な茅葺屋根を取り入れ、景観としての魅力をたたえるとともに、通気性・断熱性に優れた快適な室内環境を実現しています。

マルシェユスハラ
1階が地場産品の直売所、2・3階が宿泊施設。丸太材や窓として設えた茅葺きで和の素材の美を実感できる

 木材を複雑に組み合わせ、木造建築の可能性を追求したのが「雲の上のギャラリー」。展示の場であるとともに、建物自体が日本の木材と建築様式のギャラリーになっています。なかでも日本建築の軒を支える「斗栱(ときょう)」という木材表現をモチーフとした渡り廊下は、重厚さと木漏れ日を思わせる採光で自然との調和美を実現し、圧巻。

 ギャラリーは「雲の上のホテル」に隣接して建てられましたが、ホテルの建て替えにより、現在は外観のみ見学可能です。また、ギャラリー内で展示していた「隈研吾の小さなミュージアム」は梼原町歴史民俗資料館の横(初代役場庁舎)に移設展示されています。

ギャラリー
梼原産の杉を組み上げていくことで、周囲の自然と調和しながら存在感のある建物を実現

自然との共生を表現した健康福祉施設と図書館

 健康づくり・介護予防の機能をもつ梼原町複合福祉施設「YURURIゆすはら」は、隣接する町立図書館とともに2018年に建設された町内の隈研吾建築でもっとも新しい建物。建物の外壁には梼原産の杉板を用い、内装には町内で製作した手漉き和紙をはじめ自然素材を活用しています。図書館とあわせて山並みのような景観を見せる建物は、山里の自然に溶け込むと同時に存在感を主張しています。

複合福祉施設
杉板を使用したモノトーンの外観がスタイリッシュ。館内は和紙を用いてあたたかみのある空間に

 梼原町がめざす「人と自然が共生し輝く梼原構想」の中核施設として建築されたのが町立図書館「雲の上の図書館」。館内に足を踏み入れた人の目を奪うのが幹と枝のような無数の木組みで、梼原の森を表現するとともに、四方に伸びた枝の1本1本が重さを分散し、耐震性を向上させる働きがあるそう。

 晴れた日は施設を取り囲む掃き出し窓が開放され、どこからでも出入り可能。靴を脱いで入館するシステムで、はだしで木の床の感触を楽しむことも。子どもから大人までだれもが自由に本と出会うことができる空間です。

図書館
階段や本棚にも梼原産の木材を使用。館内にはカフェがあり、憩いの場としても人気。

 梼原町では「環境未来都市」を宣言し、風力発電や森林資源の循環活用などに取り組んでいます。梼原町産の木材を多用した隈研吾建築はその象徴ともいえ、SDGsの観点からも注目されている木造建築の真価と可能性を存分に伝えてくれます。

 晴れた日などには太平洋から瀬戸内海までを一望できる四国カルストや、手つかずの自然と千枚田や茶堂など地域が守ってきた文化に出会える梼原町。隈研吾建築を巡りながらその魅力を体験してみてください。

 梼原町の隈研吾建築についてより深く知るには隈研吾の小さなミュージアムの動画がおすすめです。

■梼原町×隈研吾建築物

取材・写真協力/ゆすはら雲の上観光協会
取材・文/土倉朋子