乗り手は狭き門。岩手県の「チャグチャグ馬コ」2年ぶりに開催

岩手県で江戸時代初期から行われているお祭り「チャグチャグ馬コ」は、日本でも珍しい馬のためのお祭りです。コロナウイルス対策で開催が見送られていましたが、今年は2年ぶりに開催予定。岩手県出身の俳優、藤原絵里さんが紹介してくれました。

残したい日本の音風景100選に選ばれた祭り

雄大な背景をバックに行進

 岩手県は、奈良時代から日本一の名馬の産地と言われています。戦や農耕の助けとして、馬と人間には深い関わりがありました。南部盛岡地域では、南部曲がり家のかやぶき屋根の下で一緒に暮らし、家族の一員として大切に馬コ(馬を表現する方言)を扱ってきたのです。

 いつも人間のために働いてくれる馬コたち。そんな馬コたちに感謝し、馬コの健康や安全を祈るために行われるようになったのが、チャグチャグ馬コです。

 もともとは、農繁期に馬が農業をお休みできるよう6月15日に行われていましたが、今は多くの方が見に来られるように、6月の第2土曜日に開催されています。

街中も大行進

 色鮮やかな馬具を身につけた100頭以上の馬たちが、一頭ずつ子どもを乗せて、岩手県滝沢市にある鬼越蒼前神社(おにこしそうぜんじんじゃ)から、盛岡市にある盛岡八幡宮まで約15kmの道のりを4時間半ほどかけてパレードする、日本で唯一の馬の大行進です。スタート地点の蒼前神社には農業の神・馬の守り神として、騎馬像の蒼前様がまつられています。

 馬が歩くたびに、華やかな馬具についた鈴の音が「チャグチャグ」と聞こえたことから、チャグチャグ馬コと呼ばれるようになったと言われています。

 1頭の装束には700個ほどの鈴がつけられているのだそうです。この「チャグチャグ馬コの鈴の音」は、環境省の「残したい日本の音風景百選」にも選ばれています。

チャグチャグ馬コの「乗り手」は狭き門

チャグチャグ音がする馬具

 馬コに乗って行進する『乗り手』は、毎年4月中に公募で決まります。小学校1年生から3年生までと決められており、6人ほどと狭き門なのですが、一生の記念になるので、毎年たくさんの応募があるようです(2018年の当選倍率は約12倍!)。行進できなくても乗って写真を撮るだけならだれでもできます。

 18歳以上の大人は『引き手』になることもできます。こちらは2月頃に募集がかかり、10名程度が選ばれます。全行程を3区間に分けて、1区間だけを歩きます。馬を扱ったことがない方でも引き手になれるので、こちらも大人気のようです。

 チャグチャグ馬コの馬は800kgから1tの「重種馬」と言われるとても大きい馬です。装飾品と子どもを合わせると70kgほどを乗せて歩けるのは、重種馬だからこそ。

乗り手になれた弟の写真

 筆者は昔、馬コに乗って記念写真を撮りました(写真は弟です)。ポニーしか見たことがなかったので、最初は恐かったのですが、乗せてもらって馬が好きになったのを覚えています。

筆者が低学年の頃描いたイラスト

 筆者が小学生の頃は、チャグチャグ馬コの日は、野外活動の時間になり、盛岡八幡宮で馬のスケッチをする時間でした。今でも馬の優しい目が印象に残っています。

チャグチャグ馬コの置物は外国人にも好評

お土産におすすめのチャグチャグ馬コ

 木でできた手のひらサイズのチャグチャグ馬コの置物は、海外の方にも大人気。筆者が初めて海外(イギリス)に行ったときも、お土産に持って行きとても喜ばれました。馬=神様の乗り物ですし、風水でも馬の置物は幸運を呼ぶと言われているので、香港人の友人にも好評でした。

 盛岡市にある「盛岡手づくり村」では、自分で色を塗ったり、馬具を張り付けたり、オリジナルの置物をつくることもできますよ。チャグチャグ馬コが日本の伝統や盛岡の歴史、人間と馬との絆などを知る機会になれば嬉しいです。

<取材・文/藤原絵里>
<取材・写真協力/岩手県観光協会>

藤原絵里さん
俳優。岩手県盛岡市出身。23年間、岩手県で生まれ育つ。短大を卒業し、地元の温泉旅館の仲居に。着つけや日本文化に興味をもつ。その後、カタール航空のキャビンアテンダントへ転職。約4年、国際線に乗務し世界44か国を訪れる。海外での経験を通して、日本のよさ、岩手のよさを再認識する。現在は、女優として、映画やミュージカルに出演。代表作は速水萌巴監督『クシナ』、榊英雄監督『生きる街』など、多数。日本や東北の魅力を伝えられる作品にかかわっていきたいと思っている。